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第61話 月夜の想い

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆第五層を攻略する。

 合同作戦の人数は総勢80人を超えた。構成は<ユリシーズ>を筆頭にした<冒険者ギルド>手練れのパーティー、<魔術結社>から<ライブラ>と魔術師たち。そして有力な私設ギルドが名を連ね、そうした中に俺たち<ナイトシーカー>も加わる。


 出発を直前に控え皆も高揚感と緊張感が高まっているようだ。


「とりゃー!」


 アイリーンが手にした杖から光の弾が飛ぶ。標的に向けて一発、二発、立て続けに何発も。


「ホセさんが作ってくれた杖すっごく良いよ、魔力が集中しやすいの!」

「水晶竜の眼を埋め込んだのが良かったようだな。聖書の灰と魔貴族の角による十字交差反応を出すのが難しくて時間がかかってしまったが、問題なさそうで良かった。シャフトにはドライアスの幹を使っている、魔力に強い素材だから君の膨大な魔力量にも耐えてくれるだろう」

「へぇ~覚えらんない」

「ところで的に全然当たっていないよ」

「今あたし絶好調でさー」


 かみ合ってない。


 別の場所ではセレナさんがギルバートの剣を受けている。近衛の剣術にだいぶ慣れたようで、元々の身軽さと合わせ華麗な動きで捌いていく。


 一方ガロはもう十分手合わせしたみたいだ。今は余所の冒険者との稽古に移っていた。


「オラオラァ、そんなんじゃ五層で死ぬぞ!」


 こう見るとガロの腕前は結構上の方なのかも。この間はギルバートの剣を弾き落とし、またベッシとの稽古でも一本取って見せていた。


 そして俺はというと、今日もクロエにダウンせられている。ギルバートにもやられてばかり、毎日治癒を受けながら寝ている感じだ。


「まっ、繰り返しは無駄じゃねえさ」

「ガロ……」

「敵に遭っても少しは生き残れるだろう。道中は当てにしてるぜ」



***



 それが俺の役割であることは理解している。迷宮の危険を察知して皆を守り、道を切り開く。だが皆の負担にならぬよう俺も戦う力を身に着けたい。


 夜、庭に出てまた“潜行”の訓練をする。動きながら意識を広げて周囲を把握。これを自在にできれば今よりも役に立てる。何より俺自身が深層に近づきたいんだ。


 メアのことを思い出す。彼女に危険な予感はするが人の興味を巧みに惹きつけてくる。次はいつどこで姿を見せるだろうか……。


 ――拡大した意識が近づく人物を察知した。“潜行”を解いて目をやると月明かりの下でクロエの姿。


「もうじき合同作戦ですね」

「うん」


 感情のないクロエの声。いつものことだが今夜は雰囲気が違う。


「行くのを止めるわけにはいきませんか?」

「……どうして?」

「今度こそ死んでしまうかもしれません」


 俺の身を案じてくれるのか。クロエの優しさにはとっくに気付いている。でも今はどこか思い詰めているように見えた。俺は先日見た彼女の夢を思い出さずにいられない。


「今度の探索が危険なことは間違いない。でも……」

「どうしても行くのですか?」

「やめる気はないよ」


 俺の答えを予想していたのか、クロエは目を閉じ深く呼吸する。


「私はウィル様を死なせたくありません」

「……」

「何本折れば止められるでしょうか?」


 何を、と聞く必要はなかった。クロエの目には強い意志がある。これは避けられない、俺も応じる構えを見せる。


「逃げないのですか?」

「逃げちゃいけない、そんな気がする」

「では……お覚悟を」



***



 その日の夜、マリアンは眠れないままベッドでゴロゴロしていた。明日はいよいよウィルたちが第五層に向かう。

 兄のジョンが命を落とした場所。それをウィルやベッシ、セレナ、何名もの冒険者に依頼して捜索してもらったが、結果は苦しいものだった。


(思えばそれが始まりだった……)


 兄の死によりマリアンは侯爵家を継ぐこととなり、また冒険者の支援を始めるきっかけとなった。ウィルとセレナ、ガロにアイリーン、賢者ホセまで加え<ナイトシーカー>は五層に挑む段階までやってきた。


(それで良いのかしら)


 彼らを死地に行かせるのではないか、そんな想いはずっとあった。今回は多くの味方がいる。それでも……誰かが失われるかもしれない。


 ガリガリ……。


 扉から音がする。一瞬警戒したがすぐ思い当たることがあって扉を開けた。


「にゃあ」


 マイケルだった。あのホセにくっついてきた黒猫で屋敷に住まわせている。人懐っこい子でマリアンはとても気に入っていた。


「貴方も眠れないの?」

「にゃ……」


 微妙な反応のマイケル、マリアンから離れると誘うように振り返る。マイケルは賢い所もあるため、その行動には意味があるはず。そう思ったマリアンはマイケルの後を追った。


 走り出したマイケルは玄関に至る。マリアンが扉を開けて屋外に出ると今度は庭の方へ。そのまま付いていくと、夜の闇に二人の影が浮かび上がる。



***



 クロエの拳が俺を打つ。上下左右、真っすぐ、フック、裏拳。今までの稽古がいかに加減していたか痛感するほどその打撃は速く重かった。まったく避けられない、気付けば防戦一方で体に痛みが蓄積していく。


 だが逃げるわけにはいかない。言葉にしにくいがそんな気がした。色々な意味で乗り越えないといけない場面だ、そう心の底から声が湧き上がってきた。


 ――“潜行”。俺がクロエに対抗するには他に手段がない。意識をとことん尖らせて動きを読め。


 来る。構えが大きい。フェイント? 違うこれは大技、避けろ!


 ブオンッ、と後ろ回し蹴りが顔をかすめる。容赦ない、本当に俺を壊すつもりだ。


 ――誰か来る。


「クロエ、何をしているの!?」

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