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第58話 マリアンの憂鬱

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

 このマリアン、ギルド<ナイトシーカー>を発足させてしばらく経ちました。改修した屋敷を解放して冒険者を迎え、良き仲間たちにも恵まれてきたと思っています。


 ですが少々問題が。と言っても悪いことが起きたわけでなく、共に過ごすうちに仲間たちの性格が分かってきたと言いますか。


 例えば金銭感覚という問題があります。この点でまず気がかりなのはセレナさんです。


「ねえねえマリアン、何か手伝える仕事ないかなあ?」


 セレナさんとは二年程の付き合いですが、こういう時は大抵お金に困っていると分かります。ギルドメンバーには十分なお金を出しているはずですが、何か変なことに浪費してないか心配になります。


「実家への仕送りに加えて、前の探索で装備一式紛失したのが響いてて……」

「……分かりました、厨房やメイドのヘルプはどうですか?」

「何でもやる、ありがと!」


 帝都は危険な誘惑も多い場所です、怪しい道に踏み込まないよう気を配らないと。




 誘惑と言えば心配になるのがアイリーンさん。あの方の部屋を訪ねると目に飛び込むのは……。


「アイリーンさん、また物が増えてませんか?」

「そうそうこれ見て、可愛くない?」


 そう言いながら見せてくれたのは踊る猫……犬……の置物? 前衛的なデザインで私にはいまいち分かりかねますが。


「独特なデザインで面白いとは思いますけど、何に使う物ですか?」

「さぁー分かんない」

「分からないって……」


 まあ芸術とは時に実用性を伴わないもの。だけどこの方は、その場の気分で何か買っては部屋に積んでいくタイプのようです。


 思うに大聖堂で修行していた間、厳しい禁欲生活を強いられた反動で財布の紐が緩くなっているのではないでしょうか。


「マリアンに良い物あげる」

「これは……髪飾りですか?」


 アイリーンさんが手渡してくれた物、それは花の装飾があしらわれた髪飾りでした。なかなか素敵なデザインで素直に嬉しくなります。


「魔道具みたいなんだけ、どあたしには効かないみたいでさー」


 やり場に困って……いえ、喜捨の精神です。物事に執着せず他者に尽くせる方なのは確か。良さそうな物ですのでありがたく頂いておきます。




 逆の意味で気がかりなのはウィルさん。殿方の部屋を詮索するのは不躾(ぶしつけ)ですが扉をノックします。


「どうぞー」

「失礼しますね」


 扉を開くとそこは以前見た通り。最初からある最低限の家具以外に物がほとんど増えていません。せいぜい着替えと新しい道具類でしょうか。


 部屋はクロエたちが定期的に掃除しているのですが、これだけ物が少ないと掃除しやすいかも。その一方で机の上に迷宮探索の資料やメモなどが雑然と積まれ、ここだけは立ち入り禁止といった風情です。


「ウィルさんはもっと買い揃えたい物とかないんですか?」

「うーん、今のままで足りてるけど」


 思えば引っ越してきた時も荷物は少なかったですね。人によって基準は違うと思います。けどこれは推測ですが、ウィルさんにはお金で生活を満たすという発想自体が欠けているのではないでしょうか。


 それは養父さんとの放浪生活と、言っては何ですが低い財政事情が長かったことに原因があるのでは。


「……ウィルさん、今度一緒に買い物へ行きませんか?」

「何か買いたい物があるの?」

「そう、そうですね。色々お店を見て回りませんか?」

「何時でもいいよ」


 簡単に引き受けてしまうところも心配になります。人助けを(いと)わない方ですけど、それだけに悪い人に利用されてしまいそうで。

 見方を変えればウィルさんは純真無垢、今から何色にでも染まり得る純白の生地。いつかオーウェン家の騎士になってほしいので、折を見て騎士の何たるかを教えて差し上げましょうか。




 驚かされるのは賢者ホセさん、あの方の部屋は完全に魔術師の工房です。契約時に了解してはいましたが、まさかあれほどの物を作るとは思いませんでした。


「どうぞ開いているのだよ」


 返事を聞いて扉をくぐると全身を何とも言えない違和感が走ります。小さな寒気、怖気のような感覚は結界を通り抜けた感触であり、その先には生活感ゼロ、神秘の領域が広がっています。


 この結界により騒音や臭いの類は全て遮断されるそうで。優れた工房は一つの世界などと言われますがまさに別世界という趣です。


「レディ・オーウェン、実験中で申し訳ない」


 ホセさんは知的な紳士ですが同時に根っからの魔術師。部屋は数々の魔道具で満たされています。


 棚には薬品や蔵書が並ぶ他、調合台、保管庫、魔道具の付呪台、あと用途不明の水晶玉、中身の怪しい大釜などが所狭しと置かれています。


「ホセさん、依頼されていた物が調達できそうです」

「おお、それはありがたい」


 元々ホセさんが持ち込んだ物も多いですが、足りないものは私が発注することもあります。最近は実験に使う素材を集めるため方々に当たっていました。


「……吸血鬼の心臓、魔獣の肝、ゴブリンシャーマンの耳、人面蝶の羽、コドクムシを3ケース。順次配送されてきます」

「希少な素材に感謝する」

「ですが悪魔のへその緒は見つかりませんでした」

「やむを得ないか。情報が入ったら知らせてもらいたい」


 求める物資が怪しい物ばかりで不安になることもありますが、きっと役に立つのだと信じることにします。


「これで退魔の護符を作れるから仲間に配るとしよう」


 皆さんには素材のこと黙っておくことにしますわ。




 ガロさんの部屋で扉をノック、中を覗くと拍子抜けするぐらい普通の部屋が待ち構えています。


「ガロさんは安心しますね」

「何のことだお嬢?」


 獣人と言いますと荒々しい印象を持たれがちですが、ガロさんは整頓好きなようでクロエたちも掃除しやすいと言っていました。毛が多いことを除けば。

 性格も几帳面、お金の収支も帳簿で綿密に管理している様子。何でもお金が貯まったら冒険者を引退して商売を始めるのだとか。


「用事でもあんのかい?」

「特に用事というほどでは。ガロさんは何か困っていることはありませんか?」

「いや、ないわ」

「そうですか。ならいいですけど……」


 一つ気になるとすれば未だに心をオープンにしてもらえないこと。探索でもよく目端が利くと皆さんもおっしゃってますが、当人はあまり周囲を頼ろうとしない傾向があります。今後少しずつ絆を深めていってくれたらと思います。


 一通り顔を見て回ったら、キャサリンがやって来て来客を告げてくれました。


「どなたが参りましたか?」

「それが、<ユリシーズ>と<ライブラ>より使いの方が」


 迷宮探索のツートップではありませんか。何かと思いつつ客間で対面します。


「我々は多くの冒険者に呼び掛けて、迷宮第五層を攻略するための合同作戦を計画している」

「第五層を……」

「こちらのギルドにも参加をお願いしたいのだが、いかがであろうか?」


 聞けばすでに50人近くの冒険者が集まる大作戦となっているようです。難関と言われる第五層を攻略するため並々ならぬ覚悟と思われますが。


「ギルドメンバーと話し合ってお答えしたいと思います」

「良き返事を期待する」


 ついにこの時が来てしまいましたか。我が兄ジョンだけでなく、多くの冒険者が果てた第五層に挑む、その時が……。

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