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第56話 異形神の影

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

「知っての通り私は不死身の体を持つが、そこに至る経緯は話していなかったね」


 骨だけとなって生きる二百歳以上の魔術師ホセ。かつて魔王討伐も果たしたという彼がどうやって今の姿になったのか。


「まず私が勇者と出会いその仲間となった経緯だが」

「簡潔にまとめてくれよな」

「私が生まれた村は田舎の寒村であったが、森にすむ怪しい魔術師に弟子入りし、おかげで魔術を学ぶのに苦労はなかった。一心不乱に研鑽を続けていた私は、やがて師父を訪ねた客人と出会う。それが勇者エレアだった。エレアは魔王と戦うための助力を求めたが、師父は面倒が嫌いだったため私にその役目を押し付けた……」


 ホセの話は長かったが肉はたくさん頼んでおいた。


「……次に仲間たちとの出会いだ」

「時間のある時でいいから、もう本題に入れや」

「そうかいぃ?」

「ほら、セレナさんが大分酔い回ってきてるし」

「まだまだまだ大丈夫だよ~?」


 あの調子じゃ明日にはどこまで覚えているかな。


「コホン。魔王との戦いは終わり、勇者エレアは新たな国を造った。そんな中で私はより多くの叡智を、強大な力を求める傾向があった。それは世界の広さを知るほどに強まり、そして人間という種の限界を見せつけられていくようになる」

「種の限界?」

「能力の限界、知性の限界、何より寿命が足りないのだよ。共に戦ったエルフなどは我らの数倍長く生きる。正直私は彼らに嫉妬した、私が数百年生きられればどれだけ物事の深淵に近づけることか」

「言ってることがあのクソ魔術師たちと近くなってきたぞ」

「本質的に私は彼らと大差ない。神秘を追い求める魔術師としては共感するところもある」


 ううむ、やはり魔術師というものは世間一般とちょい違うところがあるんだよな……。


「やがて私は禁忌の領域に接近した」

「……異形神の力?」

「そうだ。彼らの中でも私が魅了されたのは“死の柱ベルゼルス”。奴は死を司る邪神で、この世界に巣くうアンデッドは奴が生み出したとも言われている」


 アンデッド……スケルトンやゾンビのようなものから、上位の者は吸血鬼などか。


「長きに渡る調査の末、私は死の柱と邂逅することができた。そして契約は結ばれた、私は己の死を差し出し、奴はこの世界に一つ影響力を強めた。当時の私は心ときめかせたものだ、これからは永久に真理を追究できる、この世界の全てを脳裏に収めることができると思っていた。

 だが時が経つにつれて後悔するようになった。エレアの造った帝国は多くの戦争を起こした。私たちが救った民草が、手を取り合ったはずの人々が殺し合う。友人は一人また一人と死んでいき、永き時の中で一人取り残されたような気分になっていった……」

「でも今のエルフとドワーフの王様だって仲間なんでしょ?」

「私はあいつらが嫌いだ」

「えぇ……」


 ホセの話は長い帝国の歴史と並行しながら、時代は異形神の侵略も経験していく。


「私は奴らと袂を分かち、世界への侵略を阻止する側に立った。今でも世界中を巡りながら奴らの野心と正体を暴くための活動を続けている」

「帝都の迷宮を調べていたのもその一環てわけだね」

「然り。そして皇太子の依頼でもある。エレア王子、エドウィン皇太子、そして行方知れずの皇帝オズワルド。皆私の教え子たちだ、他人事ではない」


 それがホセの戦う理由であり決意といったところか。


「異形神……迷宮深く潜ればいずれぶつかるか」


 ガロが肉と共に噛みしめるように言う。正直言って俺はガロがギルドから抜けやしないかと心配していたのだが。


「ガロは異形神なんかとは戦わないんじゃないか、と思ってたよ」

「あのなウィル、そんな奴らが出てきたら世界自体がどうにかなっちまうじゃねえか」

「店をやりたいって言ってたものな」

「そこんところだけどさ」

「何だアイリーン?」

「異形の神々が出てきたら世界はどうなっちゃうの?」


 神官でもそれは専門外か、俺だって全然知らない。


「どうなんだホセ?」

「結論から言うと世界が滅ぶとかそういった惨事にはならない。それも七柱のうちどの異形神かによるが、基本的に奴らは世界を滅ぼす存在ではない。

 奴らは世界に、この地上に並々ならぬ興味を持ち、影響力を行使したがっている。言い方を変えるならばそう、君臨したがっているのだ。それが今のところ有力な仮説となっている」

「王様にでもなりてえのか」

「むしろ教祖かな。もし異形神がこの世界に顕現すれば、奴らの信奉者が信仰を捧げに殺到、そして私のような歪な契約を望む。それはこの世のバランスを大きく変えてしまう行いだ」


 考えてみると深刻だな。極端な話、魔王の再現が世界中で起こり得るということだ。


「それが帝都で起ころうとしている……絶対に阻止しないと」



***



 結局酔いつぶれたセレナをガロが担ぐ。ウィルが勘定を済ませている間、ガロはホセの側で囁いた。


「ウィルの言っていたことどう思う?」

「どういう意味かな?」

「あいつがアーティファクトを持ってること、妙なもんが見えること、二つは関係あるのか?」

「ふむ、魔法のアーティファクトが人間の異能を開花させるという可能性はあり得る。だがそれだけでは説明しきれないのも事実だ」

「あいつは全てを語っちゃいねえ。だがそれはお互い様か」

「恐らく彼自身まだ解明しきれていないのだろう」

「そんなところだな」


 ホセはエドウィンとの会話を思い出す。「神々が遣わした使徒」のようだと。歴史上、異形神の侵略に対し神々が介入した例はいくつも確認されている。魔王と戦った勇者エレアにも神々の恩寵があった。同じことが今の時代に起きても不思議はないが……。


(アイリーンもお告げがあったと言ってウィルに会いに来たそうだな)


 あらゆる事物があの若者に繋がってくる。収束する線の向かう先に何が待つか、神々の祝福か、邪な誘いか。


「ホセ、アンタなりに考えがあるんじゃねえか?」

「推論はある。だが今はまだ話すべき時ではない」

「こいつ……」


 ガロのため息と入れ替わりにウィルが戻って来る。


「それじゃ帰ろっか」

「二次会は~?」

「家帰って寝ようねー」


 明日またセレナは二日酔いしそうである。そう生命は繰り返す、営みも過ちも。


「げうーっ」

「ここで吐くな!」

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