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第54話 魔術師たち

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮に潜む魔術師を討伐する。

 奴らの拠点には魔法の罠がいくつも仕掛けてあった。だがこれはホセが警戒して尽く突破していく。


「捕虜が逃げたぞ!」


 気付いたな。だが逃げているんじゃない襲撃しているんだ。


「ミラーフォース」


 ホセの魔法。空中に鏡のような魔力の塊が浮き出ると敵の魔法をはね返した。


「うわわわっ!」

「えぇい、魔法戦では不利か。ならば……」


 次は一人がホセと同じように地面に潜り込んだ。


「ガロ」

「ああ、聞こえてるぜ」


 地中を移動する魔術師の位置がガロには分かる。敵の手が俺たちの足元に飛び出した瞬間、ガロが掴んで引っ張り上げる。


「げぇっ!?」

「オラァ!」


 後は壁に叩きつけられてもんどりうつ魔術師。その手を縛って口も塞いでしまえば危険はなくなるだろう。


「囲め囲め!」


 まだ多くの魔術師がいる。俺たちを囲んで四方から魔法を浴びせてきた。


「シールド!」


 これはアイリーンの防御壁で遮断。そしてその守りから一人抜け出したセレナさん、壁を蹴りながら瞬く間に敵前へ躍り出た。


「速い!?」

「はいゴメンね」


 目にもとまらぬ連撃で気絶させる。すごいぞ皆、俺の活躍する場がない。とにかく俺は身を守ることにして練習したショートソードを固く握る。


「ウィル、敵はあとどれくらいだね?」

「この奥に残っていると思う」

「よし、逃げられる前に」


 踏み込んだ先は広大な空間となっており、視界に飛び込む光景に俺たちは身構える。

 捕えられた冒険者たちが鎖で繋がれている。その中央には素人でも危険と分かる巨大な魔法陣。何かの儀式や魔術式の場か。


「どうやら他の連中はやられたらしいな」


 魔法陣の中央に最後の魔術師が待ち構えていた。


「投降すれば無傷で終わらせてあげよう」

「貴様も魔術師か。であれば愚問と分かろう、道を外れた魔術師は陰にしか生きられぬ」

「君たちを全く理解しないとは言わない。だが私の仲間を危険に晒した報いは受けてもらおう」

「それもすでに遅い」


 魔術師が手を掲げる。あれは俺の短剣!


「これは魔法のアーティファクトだろう。根城を捨ててもおつりが来る成果だ」

「返しなさい!」


 セレナさんが飛び出す。それはちょっとマズイ、この部屋は何か怪しいぞ!


 ――潜行、部屋の構造をもう一度解析する。


 仕掛けはない。だが奥に大きなな水場がある。何だか似たような場面に覚えがあるような気が……あっ。


「セレナ下がれ!」


 先に気付いたのはガロか、でも遅い。奥の水場から派手な水しぶき、膨大な水を巻き上げながらそいつは姿を現した。


「蟹!?」


 またかよ! 巨大、いや超巨大メイキュウガニだ!


「ひゃえー!」

「セレナさん!」


 波しぶきにさらわれセレナさんが戻ってきた。魔術師は――空中か!


「フハハハハ、もはやこの拠点に用はない、最後の仕上げといこう」

「まさか迷宮にいた巨大な魔物、元はお前たちが生み出したものか!?」

「ほう、気付いていたか。いかにも、私はメイキュウガニを育成する研究をしていた」


 なんかそんな話をどこかで聞いた気がする。


「魔物に魔力を注ぎ込めば急速に成長する。それを事業化すれば多くの者たちを豊かにできるはずだった。だが無知蒙昧な大衆は私を狂人と(さげす)み、せっかくの養殖場を破壊してしまったのだ!」


 そうだ、前に会ったポストルウィット博士から聞いた話だ。失敗した養殖計画ってお前のかよ。


「だから証明しようと誓った! 我がメイキュウガニ育成計画の完成品を地上に解き放ち、世界を震撼させるのだ! さすれば愚民共も私の偉大さを理解するであろう!」

「本末転倒じゃねえか……」

「さらば迷宮よ、我らは地上へ向かう!」


 蟹の上で勝ち誇ったように叫ぶ魔術師。その声と共に床の大魔法陣が光り始める。それに応じるように周囲の捕虜たちからうめき声が漏れ出した。


「ふむ、捕えた冒険者から無理やり魔力を搾り取って魔物に与えていたのだな。そして今度は魔法陣に魔力を集めている」

「ホセ、この魔法陣は……」

「転移魔法だ。あのメイキュウガニを地上に送り込めるほどの」

「あんなのが地上に出たら大変なことになるよ!?」


 行先は分からないが復讐が動機なら人の多いところか、もしかしたら帝都、サンブリッジなんてことも……。


「どうにかして止めないと」

「あの魔術師を殺しちまえばいい!」

「待ちたまえガロ、前に出れば転移に巻き込まれる」

「ならどうすんだ…!?」

「ここは私に任せてくれないか」


 ホセはしゃがみ込むと魔法陣に手を添えた。徐々に光が増し転移発動が迫る。


「奴らを倒せる強力な魔法はある。だがそれでは周りの冒険者たちをも巻き込んでしまう。ならば……」

「ハハハ、運が良ければ地上でまた会おう!」

「切除……流動……円環……構築」

 

 魔法陣が一際強い光を放ち魔法が発動――ってちょい待って、何か変だ。


「半分……?」


 魔法陣の半分だけ光が弱くなっていく。これは……。


「何だ、何が起きて……!?」


 光が(ほとばし)る。しばらくして目を開けた俺は信じられない光景を見た。

 あの超巨大メイキュウガニが半分だけになっていた。縦真っ二つ、もう片側は消失している。


「ホセ!?」

「上手くいった。魔法陣をこちらで書き換えて半分だけ失敗させたのだ」

「それってつまり……」

「無くなった半分だけ転移したのさ」


 そんなことまでできるのか。メイキュウガニの片割れは今頃地上のどこかへ、そこでどんな騒ぎになっているか恐ろしいけど今は考えない。


「バカな、こんなこと……」


 魔術師は生きていた。ちゃんと残るように分けたんだな。半分になったメイキュウガニは当然絶命している。巨大な蟹が生々しい断面を晒しているけど俺たちには耐性が付いていた。


「短剣返してもらうよ」


 魔術師の手からドリームズ・エンドをむしり取る。抵抗する気力も打ち砕かれたようで反応は薄い。魔術戦では完敗、夢も破れて全てを失ったか。


「もう終わりだ……」

「そもそもアンタ、研究に情熱注いできた魔物を復讐の道具に使ってどうするんだよ」

「……こいつらの凄さを知ってほしかった。そんな考えが間違っていたのか……」


 ……そういう情熱は誰しもあるだろう。けどこの人たちの場合、魔法という手段、そして高尚と考える大義が合わさってしまった。同情はできないけど人間誰もが陥りかねない罠である、と言えなくもない、のではないか、なあ?


「間違えたなら正せば良い」

「……!」


 突然の声の主は助け出された冒険者の一人だった。その蟹の甲殻鎧は……。


「アンタは<クラブアーマー>のカンセル!」

「助けられちまったぜ、へへ」


 いつの間に捕まってたんだよ。


「いいか、アンタは好きという気持ちを表現する手段を間違えていたんだ。だが内に秘める情熱はけして間違っちゃいねえ。罪を償ったら一からやり直してみな」

「手段を間違えていた……か」

「蟹好きに悪い奴はいねえ、お前を信じるぜ」


 なんだか良い話にしようとしている。厳罰が下るだろうからやり直しは厳しいと思うけど黙って見送ろう。




 魔術師たちは全員捕え冒険者たちも皆解放できた。これで一件落着だ。


「ホセさんのおかげだね」


 賢者ホセは文句なく今回の殊勲者だ。伝説の魔術師の腕前に改めて感心したよ。


「この老いぼれも役に立てたようだね」

「あれが老いぼれっていう戦い方かよ」

「すごかったよー賢者さん」

「さて、地上に帰還しようか」


 ホセが転移の魔法陣を展開するけど誰も入ろうとしない。脳裏をあの真っ二つになったメイキュウガニがよぎる。魔法は扱う人間次第で危険なものとなり得る、そんな単純な事実を突きつけられた事件だった。


「どうした、早く入りたまえ?」

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