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第52話 絆のあり方

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮に潜む魔術師を討伐する。

「そこ、罠のあるから踏まないで」

「うん」

「……」


 空気が悪い。迷宮三層の空気がではない。口数の減ったパーティーの空気が悪い。


 それというのも賢者とか称する男のせいだ。あの一言で皆の顔色が一変してしまった。


 ――謎のアーティファクト持ち、ハーフエルフに人型の魔獣、魂の欠けた神官ときている――


 アーティファクト持ちというのは俺のことで、それはいい。しかし他の言葉はどう捉えたらいいか。セレナさんはエルフ、ガロは獣人と思い込んでいたけど実際は違い、それを隠して生きてきたのかな。


 ……いや、隠しごとは俺もそうだ。言わなかったし聞かれなかったことでしかないか。


 今も通路を進みながら交わす言葉は事務的なものが多い。……アイリーンはあまり気にしてないようだけど。


「ねえホセさん、魂が欠けてるってあたしのことだよね。どういう意味なのかな?」

「……感じたままのことを言ってしまった。詳しいことまでは私にも分からない」


 といった調子で。セレナさんとガロは聞こえない風にしながら前を行く。


 トントン、とホセが俺の肩を叩いた。顔を向けるとホセの指先で一瞬光が灯る。魔法かな?


「……聞こえるかなウィル君。今君の心に直接話しかけている」

「うわ、頭に声が響く感じ」

「心で会話しているのさ、周りには聞こえない。私に何か言いたいだろうと思ってね」

「……えらいことをしてくれたね」

「申し訳ない。てっきり互いに承知でパーティーを組んでいると思い、羨ましかったのだよ」


 ――羨ましい。その言い方に含むものを感じてしまう。


「かつて魔王と戦った勇者のパーティーは種族の垣根を越えた精鋭たちだった。だが結束していたのは魔王が生きている間までで、ほどなく私たちの絆は失われてしまう」

「……それはどうして?」

「まあ元々仲良し集団ではなかった。相性や気に食わない点もあっただろう。それでも魔王を倒し世界を救うという使命が我らを集め、義務感が同じ方向に歩ませた」


 ……世の中そういうものか。どんな集まりでも円満で皆仲良しとはいかないものだ。


「魔王が倒されると問題が表面化した。種族間の対立、国家間の駆け引きが我々を引き裂いた。所詮は異なる種族、魔王という脅威が消えた途端にくすぶっていた火種が再燃したというわけだ」

「だから勇者エレアは帝国を創った?」

「そう。そして私も加担することになってしまったが、未だにその決断が正しかったのか分からない」


 二百年経っても分からない答えか。小童の俺には想像できない時の流れだ。


「ところでセレナさんやガロに言ったこと、本当なの?」

「ふむ、慣れない者には区別しにくいだろうが。セレナは純血のエルフと比べて形質が大人しい、本場のエルフは耳などもっと尖っている。恐らく人間種、アルテニアンとのハーフだろう。混血種は忌避されやすいから苦労したはずだ」

「……」

「ガロについては少々ややこしい。そもそも、獣人、獣、魔獣の違いは何かという話だが」

「難しいことは後でお願いします」

「む、そうかね」


 後で聞くかは分からないけどね。


「私は多くの獣人に会ってきたが、ガロの魂から感じる波長、内なる力は獣人のものではない。理由は不明だが魔物、特に魔獣のような猛々しさを内に秘めている、そう感じるのだ」

「魂の波長か……俺らなんかには分からないけど」

「だが一方でガロの普段の生活ぶりは人間に近い。獣人に多い訛りがなく道具も器用に使う」

「言われてみれば……」


 そうかもしれない。獣人といえば良くも悪くも野性味が強い種族だけど、ガロは人間社会への適応が上手い方だと思う。


「以上のことから考えられる推論があるのだが……それはよそうか」

「そうですね、ここで外野が勘ぐっても仕方ない」


 考察はそこまでだ。いずれ互いのことをもっと知ることができればいいな。その時が来たら俺も……。




 しばらく進んだ俺たちは見覚えのある区画まで到達した。前回はここで誰かの配置したゴーレムに遭遇したんだ。


「あの時の残骸がまだ転がってるし」


 煮え湯を飲まされたセレナさんが恨めし気に言う。錬金術で金ピカだったゴーレムに目を輝かせてたものな。


「気をつけろよ、またゴーレムを配置してるかもしれねえ」

「俺たちのことを警戒してるだろうね」

「はりきってこー」


 一斉に戦闘モードに切り替える。だがホセだけ周りをキョロキョロしてるな。


「どうした賢者?」

「この部屋は魔力反応が強い。検索をかけてみよう」


 ホセが魔法を唱えようとしたその時だ。


「……!」


 俺でも分かるぐらい魔力を肌で感じた。何かおかしい。


「いかん。この部屋全体に魔法を仕掛けてあったのか、気付くのが遅れた」

「何だ何だ!?」


 視界が光に満たされる。この感覚は覚えがあるぞ、転移魔法だ!




 ……目を開けると場所が一変していた。狭い部屋、鉄格子、もしゃここは牢屋か?


「いった~……」

「これって罠に掛かった、てこと?」


 そのようだ。俺たちが同じ場所に来ることを見越し、転移の魔法陣を敷いてここに引き込んだってところか。


「獲物が掛かったようだな」


 格子の向こうに怪しい集団が現れた。服装からして魔術師っぽい。


「今度は四人、一人は神官か?」

「四人?」


 見返したらセレナさん、ガロ、アイリーン、そして俺。……ホセがいない、先に気付いて一人だけ逃れたのだろうか。


「魔力のある者は都合が良い。他は全て実験台にしてしまえ」

「こいつら……」


 間違いない、最近地下で起きる異変の数々、その犯人はこいつらだ。

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