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第48話 未踏エリア

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

 お金がない。今月もまたお金がないのだ。今は住む所も食べる物もあるけど、装備代に実家への仕送り、喧嘩で壊した酒場への弁償、その他もろもろに出費がかさむ。母さんはお金なんていらないって言うけど少しでも楽させてあげないと。


 ため息をついてるとウィル君がスタスタやって来た。


「セレナさん、またお金のことですか?」


 やめて、そんな目で見ないで。


「お酒を控えたら?」

「ウィル君には人の心がないの?」


 無害そうな顔して何てこと言うんだこの少年は。彼の中でお金がなく酒に溺れる女のように思われてしまう、立ち上がれ私。その足でギルドハウスを後にする。




 帝都市街まで来たけど仕事ではない、ちょっと用事があって裏路地の方へ。今の帝都に表も裏もあまり関係ない気もするけど裏は裏なのだ。

 そこには目付きの悪い男がブラブラとしていた。


「おう、姐さんじゃないっすか」

「何か情報入ってる?」


 彼は裏社会の情報屋だ、金さえ払えば様々なネタを提供してくれる。特に今の帝都は彼らの影響が強く秘密にできることはないとまで言われる。のだけど。


「……もっと探してきて」

「これでも頑張ってるんですがね」

「なるべく深い階層が知りたいの」

「冒険者がもっと攻略してくれないことには」


 目的のものに繋がりそうな情報はなかなか得られない、お金ばかり溶けていくなあ。

 

「でもね姐さん、浅い層にもまだチャンスは残ってるかもしれませんぜ」

「……それってこの新しいエリアの情報?」


 チャンスが欲しい訳ではないんだけど。第三層に未探索の場所が見つかったんだって。何か掘り出し物なり報奨金の出るネタでもあれば次につながるかなあ……。



***



 ということで三層に来ました。


「今更三層か、そろそろ五層を念頭に置いてもいいと思うがな」

「でもホセさんが加わったばかりだし、この辺で慣らしてくのも良いんじゃないか」


 うむうむ、ウィル君の言う通りよ。


「私も君たちのことを把握するのに丁度良い」

「それに皇帝の行方について、ひょんなとこから手掛かりが得られるかも分からないしね」

「……そうだな、じっくり行くか」


 そういう訳で情報のあった新たなエリアに向かうのだった。


「しまった!」

「ホセさん?」


 と思った所でホセが狼狽する。


「どうしたホセ?」

「……錬金釜の火を消し忘れたような気がする」

「あ、そう……」

「ぐぬぬ戻って確認したい」

「屋敷の誰かが気付いて消すんじゃねえか。それとも中身がヤバいのか?」


 錬金釜。錬金。それって物質を別のものに変えるとかいう魔法だよね。


「ホセさん、それって金を作り出したりもできるやつ~?」

「金の錬成は基本的に禁じられている」

「あっはい」

「国家資格があれば別だが、金を取り扱う業者の間では錬成された金属類を見破る対策も取られている。よって儲かることはできないのだよ」

「そっすか」


 期待してないし。期待してないし。


「私の錬金釜は主に物質合成に用いる。物体を構成する原子を再構成したり化学反応を引き起こしながら化合物を生成するものだ」

「わ、分からん」

「レシピ通りに料理を作ってくれる魔道具だと思ってくれればいい」


 は~ん、その料理が焦げ付くかもしれないから困ってるわけね。分かったわ。


「ホセさーん」

「何だねアイリーン」

「その錬金釜でお菓子も作れるの?」


 おいおい、今のはたとえ話だぜ。本当に料理やお菓子を作るわけじゃないんだぜ。これだから素人は。


「簡単なものなら作れる」


 あ、そっすか。


「より専門な錬金術師なら複雑なレシピの料理や菓子を作ることも可能だ。古い知り合いに菓子作りが得意な女性がいてね、家までお菓子で作ってしまったほどだ」

「へーお友達になりたい」

「だが彼女は周辺住民から魔女と呼ばれ、お菓子の家も焼かれてしまった」


 いつの世も弾圧とは辛いものだ。エルフには分かる。

 

「とにかく、錬金釜のことは今は忘れて調査を始めようか」


 ウィル君の一言で私たちは歩き出した。目的を忘れてなんかないよ?


 盾を片手にガロが先頭、ウィル君が暗闇に目を凝らしながら進む。ホセとアイリーンが中段について私が後ろからの敵に備える感じになった。


 ここからなら皆の動きもよく見える。ガロはしきりに耳をピクピク動かして周りを警戒してるのが分かる。性格はツンとしてるけど、集団の中でしっかり役割をこなしてるのは犬系獣人の性質かな。


 同じようにウィル君も警戒を怠らない。今も罠に気付いて皆に呼び掛けた。

 こういう役目は獣人や、人間種でもウッドメンに多いんだけどウィル君はアルテニアンだ。あの勘の良さは未だによく分からないんだけど、彼には秘密の能力があるような気がしている。


 そしてホセとアイリーン。この二人は側にいてちょっとゾワゾワする。アイリーンは冒険者としては素人に近いのに、その体に膨大な魔力が内蔵されているのが私には分かる。この年齢の人間種ではありえないほど。

 先日のドワーフ要塞で謎の神がかった直感を披露したし、奇跡の聖女と呼ばれた意味、その背景にはある種の恐ろしさも感じてしまう。


 ホセについてはさすが元勇者パーティーと言ったところ。その魔術レベルは極めて高く数百年研鑽したエルフがあんな感じじゃないかな。知らんけど。

 多分彼は人間種の中でも天賦の才がある。それが不死の力を得て知識を蓄積し技術を研鑽した結果が今の姿。彼が本気で魔法を行使したら私なんて足下にも及ばないだろう。


 ……あれ、私の役目ある? 魔法でも剣でも私は半端な気がする。このままじゃウィル君にも中途半端お姉さんと思われる、マズイ。


「ここら辺の魔物は掃討済みだな」


 しばらくは何事もない時間が続いたけど、五感は常に周囲を警戒する。前に通ったからって油断するようじゃ冒険者は務まらないよ。何だねその視線は。


「この先ね。どこかの冒険者が隠された通路を見つけたらしいよ」


 壁があった。石材が崩れて大きな口を開けている。まるで人々を誘うように。


「これは……」

「ホセさんどしたの?」

「いや、魔力の痕跡を感じたのだが」

「魔物でもいるか?」


 ただの空きスペースって感じでもないのかな。お宝でもあれば良いけど、第三層はまだ全容が解明されてないからチャンスはあるはず、色々と。


 改めて隊列を組みながら未知のエリアへ。しばらく進むとガロが皆を制した。


「何かいるな」


 その一声で軽く緊張が走る。通路の奥から空気の流れと一緒に腐臭が漂ってきた。


「……ゴブリンか」


 亜人種の一つ、ゴブリンの一団が接近してくる。体は小さいけど十分な力と素早さがあり、そして狡猾で危険。数が増えれば村一つ潰してしまうような奴ら。


「奴らにはこっちが見えてるぞ」

「アイリーン、シールドを!」

「あいあい」


 言うや否や光の壁が展開、一瞬遅れてゴブリンの放った矢が壁に弾かれた。


「このまま接近、そんで突撃だ!」

「いや、ここは私にやらせてくれたまえ」


 ホセが前に出る。そうしてるうちにゴブリンの姿が照明魔法に映し出される。手には棍棒や剣を握り、目をぎらつかせながら。


「狭い通路だ、逃げ道はないぞ」


 瞬間、熱気と光、轟音が広がる。ホセの手から巨大な炎が生じ、通路を真っすぐ飲み込んでしまった。その中でゴブリンが焼かれながらのたうつ影が見える。ひええ。


「この程度ならば問題ではない」

「バッカ野郎ホセ!」


 ガロがホセの後頭部をスパンと叩く。


「何だねガロ?」

「こんな狭い所でやたらと燃やすんじゃねえ、煙に巻かれるだろ!」


 確かに、ゴブリンの焼ける臭いと煙が通路一杯にゴッホゲホ。ちょっとオエッ避難しよう。


「おおそうか、生きてる生物は呼吸をするのだったな」

「んなこと忘れんな!」

「ハハッ、仲間と探索すること自体が数十年ぶりでねえ」

「何で楽しそうなんだよ!」

「落ち着けってガロ」


 うーむこれは、ガロとホセって相性悪いみたい……。

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