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第43話 迷宮考察

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

 サンブリッジ行きの馬車に揺られている。俺はしばらく前に同じ道を通った。あの時はセレナさんに連れられてマリアンの屋敷へ、そしてエドウィン皇太子との思わぬ出会い。


 それが今回は仲間たちと一緒だ。依頼されていた賢者ホセの捜索は成功し今は同じ馬車の中。

 骸骨の体は全身覆面とローブに覆われ、何処に出しても恥ずかしくない不審者だ。拾った骨を集めたらちゃんと復活したけど、残念ながら全部の骨を揃えることはできなかった。


「賢者さんよう」

「何だねガロ」

「アンタ本当に皇太子と知り合いなんだろうな?」

「今さら疑うのかね?」

「何しろリッチだしなあ」

「ちなみに私の正体を知っているのは、皇太子始め皇族と限られた廷臣のみだ。あまり触れ回らないように」

「やっぱり後ろ暗いんじゃねえかよ」


 懸念というよりは事態に追いつけていない感じかな。ぶつぶつ言っているうちにサンブリッジの町が見えてきた。


 アイリーンが窓から町を眺めて感慨深く声を上げる。


「へー、話に聞いてたけどこんなに大きくなってたんだ」


 アイリーンが帝都暮らしだった頃は隣町程度だったのだろう。それが今や新たな都だからな。


 一旦マリアンの屋敷で停まり、それから仮皇宮へ。すでに段取りが済んでいるようだ、真っすぐ中庭に通されると皇太子親子が待っていた。


「先生!」


 エレア王子が怪しいフード男を見るなり走り寄ってきた。


「お久しぶりです先生!」

「これは王子、たった一年でまた大きくなったものだ」


 元々闊達(かったつ)な王子だけどとても親密な様子だな。


「先生、か」

「また会えたなウィル」

「エドウィン皇太子、ご無沙汰しております」

「それにマリアン、セレナ、新たな仲間たち、よく戻った」


 エドウィンは庭に一席設けて俺たちを迎えてくれた。前と同じ、余人を交えない私的な会合だ。


「まず礼を言う。賢者ホセをよく見つけてきてくれた。想像を超える速さで成果を上げてくれたな」

「彼らには世話になったよ」

「このホセは我ら皇族全てにとって恩師なのだ」

「まあ、研究のために各地を転々として不在にすることが多いのだが」

「それと……驚いたことだろう。ホセは見ての通り普通の人間ではない、死を超越した魔術師なのだ。彼は帝国の建国時から皇室と共にあり、長らく我らを支えてくれている」


 建国時からというと二百年以上前か。少なくともそれだけ生きた――見た目は死んでるけど――魔術師とは、長命種を除けば想像の(らち)外だな。


「さてエレア、そなたは稽古の時間だろう。戻るがよい」

「それじゃあ先生、失礼します。ウィル、またそのうち迷宮の話を聞かせてくれ」


 エレア王子は元気に仮皇宮へ戻っていった。それを見届けてエドウィンの目付きが若干変わる。


「本題に入ろうか。先生、お願いできますか?」

「この場で話してもよいのかな?」


 本題、というのは迷宮を調べたことについてだろう。俺たち平の冒険者がこの席にいていいのか。


「構いません。彼らにはその権利も資格も、そして覚悟もあるはずです」

「そうだな。私もそう思う」


 立ち上がったホセが皆に向かい合って話を始める。


「これまで多くの冒険者や研究者が迷宮に潜り、少なからぬ被害を出しながら多くの情報をもたらしてくれた。そこから帝都の迷宮はいわゆる“魔法の迷宮”であり、周囲の空間を書き換えるタイプの迷宮であると考えられるが、ここまではたどり着いた識者もいるだろう」


 迷宮にも色々タイプがあるということは聞いている。人の手で地道に建造したもの、別次元の空間につないだもの、幻術でそう見せているもの等々。


「この書き換え型、上書きとも呼ばれる迷宮は特徴として、既存の空間を利用するため大規模な建築や掘削を必要としない利点がある。一方で書き換えを維持するために膨大な魔力を必要とする。対して他のタイプの迷宮は」

「先生、要点だけお願いします」

「うーんそうかい? では時間のある時に詳しく説明しよう」


 エドウィン皇太子に迷宮講義の予定が入った。俺たちは結構です。


「人智を超えた力で構築された迷宮だ」

「人智……それはエルフも含めてですか?」

「左様」

「先生、貴方はあの迷宮を生み出した存在に心当たりがあるのですか?」


 エドウィンの問いにホセは頷いたが、すぐには言葉を発しない。もったいぶっているんじゃない、その言葉を発することを避けるかのよう。


「……異形の神々」


 この場の何人かが息をのむ。その音が聞こえるぐらいに。


「あの、それって<七柱の神々>と対になる邪神のことですよね?」

「その通り。異形神、邪神、呼び名は様々だが、七柱の神々と同等の存在と言われる」


 俺たちが信仰する<七柱の神々>はこの世界を創り、見守り続ける善なる神々だ。それと真逆の存在が<七柱の異形神>で一般には邪神、邪教とされている。


「軽くおさらいしながら話すとしようかね」


 この世界を創り出したとされる<七柱の神々>は以下の通り。


 海の神、エイビラム。

 大地の神、ディコック。

 戦の神、ベンジャモン。

 知恵の神、ゾーイ。

 天文の神、ヒューロック。

 酒の神、ジュダ・ロウ。

 哲学の神、フォートレイ。


 これ以外にも各地で独自の信仰があるけど、帝国が国教とするのは<七柱の神々>だけだ。


 それに対する<七柱の異形神>はこうなる。


 支配の柱、グリフォード。

 夜の柱、ガロン。

 虚偽の柱、メディアタン。

 混沌の柱、アル・グリフ。

 夢幻の柱、ナイメリア。

 情欲の柱、モディウス。

 死の柱、ベルゼルス。


 これらは異次元の住人と言われているが実態は謎に包まれてサッパリだそうな。


「異形の神々は過去にも度々、我々の世界に介入を企ててきた。かの魔王も奴らから力を得て世界を支配しようとしたのだ」

「つっても魔王なんて伝説みたいなもんだろ?」


 ガロが突っかかるけど同じように考えている人は多い。帝国成立より前、二百年以上も古い話だ。


「皆の者、魔王との戦いは確かにあったことだ」


 ここでエドウィンがきっぱりと言う。


「帝国の建国者エレア1世は魔王を倒した勇者その人。そしてこの賢者ホセは勇者と共に戦った仲間なのだからな」

「勇者の仲間……!?」


 賢者ホセが魔王を倒したパーティーの一人とは……。死を超越した伝説の魔術師、その男が魔王と異形神について語るのだった。

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