第40話 守護者
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆賢者ホセの手掛かりを探す。
◆第四層ドワーフ地下要塞を探索する。
「来るぞ!」
ドワーフ・ガーディアンが腕を振り上げ巨石のような拳で俺たちを狙う。それをすっ飛んで避けると、ガロが獣の俊敏さで反撃に転じる。
「ウラァ!」
ガロの斧がガーディアンの脚を狙う。だが奴は全身金属の塊、斧は弾かれ無情にも刃が欠ける。
「アイリーンは下がって、セレナさん!」
「あいよ!」
セレナさんが雷撃魔法を発射、ガーディアンが火花に包まれる。いや違う、正確には雷撃がガーディアンの装甲で弾かれている。ホセの言った通り魔法に耐性があるのか。
「でもこれなら」
魔法を火炎に切り替えると顔面に向けて放射。機械だかゴーレムだか知らないが目があるなら視界を遮れるはず。
案の定、腕を振って炎を防ごうとしている。
「ガロ、足下!」
「分かってら!」
すかさずガロがタックルで足下を崩しにかかる。――ダメか、多少傾きはしたが崩しきれない。
「ちぃっ!」
一番パワーのあるガロで打撃が通じないとどうすればいいんだ。
「アイリーンのシールドなら押せるかも」
「接近するのは危ねえ、まず隙を作るぞ」
だがその作戦は見送ることになる。
「入口の方からも敵だよ!」
この広場の入口にスケルトンたちが殺到していた。完全に袋のネズミだ!
「ああもう静かにしてて!」
アイリーンが魔法一閃、スケルトンたちを照らして灰に変えてしまった。その光が目を引いたのかガーディアンが方向を変える。
「アイリーン!」
狙われてる、シールドは間に合わないか!?
「なろお!」
ガロが飛んだ! 舞い上がってガーディアンの顔に一撃、たたらを踏んだガーディアンはまたガロに気を取られ始めた。
しかしガーディアンは依然無傷。立て直そうにも退路にはスケルトンが詰めている、どうしたらいい。ガーディアンの体は硬い、魔法は効かない。機械でゴーレム。機械……。
「……ネコモドキは!?」
避難して無事だ。駆け寄ろうとする所にガーディアン、腕に備え付けられたハンマーを振り下ろす。
飛べ! 前転してハンマーを回避、スライディングしながらネコモドキをキャッチした。
「フシャー!」
「落ち着け、力を貸してくれよ!」
立ち上がると同時に短剣、手を添えてすかさず“潜行”。あのガーディアンの中身を透かし見ろ。
ドワーフの技術とか機械のことは分からん。でも内部構造がより密で複雑な場所を見極めろ。
「ネコモドキ、いやマイケル、俺の頼みを聞いてくれるか?」
「にゃう」
鞄から革ひもを取り出してネコモドキに咥えさせると、ガーディアンに向けて投擲!
ベチャッ――。ネコモドキはガーディアンの顔面に直撃、液体のように弾けた。
「ウィル君何しとんじゃい!?」
何しとんじゃいって。何しとんじゃいって。
無傷のガーディアンは頭を回して俺を一睨み、両手を掲げて即反撃の姿勢。だがその動きが徐々に鈍くなるのを見て俺は拳を握った。
ネコモドキに持たせた革ひもが中で機械に絡まったんだ。ここがチャンス、ガロ!
「そういうことなら――」
ガロの低姿勢高速タックル――、ガーディアンは踏ん張れず頭からひっくり返った。
立ち上がろうとするガーディアン、だが体が言うことを聞かない様子。それを嘲笑うようにネコモドキが隙間から顔を出すのだった。
「ほほう、上手いことやったな君」
「どうも賢者さん。壊すことはできないけど今のうちに」
「うむ、逃げるべきだろう」
「あの扉が開けば良いけど」
ドワーフ要塞の深部に佇む巨大な門。この先に何が待つか、五層にでもつながるのか。要塞内は転移魔法が使えないが五層まで行けばその制約はなくなるはず。
「アイリーンは入口の方でスケルトンに備えてくれ」
「あーい」
「……この扉どうなってるんだ?」
鍵穴らしきものはない、またドワーフ独特の仕掛けかな。
「この扉は私もまだ解明していないものだ。ドワーフ族なら分かるだろうが」
「ウィル君何か分かる?」
すぐに“潜行”して扉の構造を調べる。確かに内部は機械が張り巡らされているが……。
「何だコレ?」
何度か意識を潜らせたが間違いない。
「これ扉じゃない、ただの壁だ」
「な、壁だぁ?」
ガロも扉を叩いて耳を澄ませる。反響音を聞いてるんだ。
「マジだ、向こう側に空洞がないぞ」
「ああ、そういうことか」
それでホセが何か納得したように言う。
「君たち、このドワーフの要塞が実在するものの再現である、という話は知っていたかな?」
「それは聞いてます」
帝都地下迷宮第四層、表層の古城と地下の要塞はドワーフのものに酷似している。それはベッシやマリアンの調べから確認している。
「モデルとなっているカタス・ギル城は建造されてより数百年を誇る堅城で、あの魔王の猛攻に耐え、皇帝オズワルドも攻略を諦めたほどだ。
それほどの難関であるドワーフの城、特に最深部の仕掛けは一族の最高機密。外部でその秘密を知る者はほとんどいないだろう」
「長いな、ようするに何が言いてえんだ?」
「迷宮の創造者はこの扉の先を知らない。知らないものは再現できない、だから何もないのだ」
なんて中途半端な、これじゃハリボテだな。
「フフフ分かってきたぞ、この迷宮が作れるもの、作れないもの。これは良い知見だ」
「んなこと言ってる場合かよ、帰れねえじゃねえか!」
「ちょっとー、またスケルトン湧いて来てるんだけどー!?」
「アイリーン頑張って防いで!」
マズいよ状況が好転しないよ。こうなったらスケルトンと戦いながらもと来た道を引き返すしかないのか? アイリーンとネコモドキの助けがあっても限界があるぞ。
「どうしよう」
「にゃあ」
「あーところでウィル君だったかな?」
ホセに呼ばれて骸骨を見る。未だにこの向き合い方に違和感を覚えるぞ。
「君、さっき何かしていたようだけど。腰の短剣に触れていたね?」
「えっ」
「その短剣に不思議な感覚を覚えるのだが、抜いて見せてくれないか?」
愛用の短剣。俺が拾われた時に一緒にあったという物だ。以来ずっとこの身に帯びてきた。
「いいけど、何が気になるってんです?」
「……これは、まさか」
「うん、もしかして値打ち物?」
ホセの無表情な骸骨が慄いているのが見ていて分かる。なんぞね。
「これは古代の魔法遺物、アーティファクトだよ」
「え……?」
アーティファクト。冒険者にとって垂涎の言葉だが、それがまさか俺の手元から出てくるとは想像もしなかった。
……いやごめん、想像しました。出所不明のこの短剣がすごいものだったら良いなって、思うことありました。