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第38話 機械仕掛けの深淵③

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

◆第四層ドワーフ地下要塞を探索する。

「どっちから来るの!?」

「あっちこっちからだ!」


 接触は避けられなさそうだ、ここで“潜行”して道順を探る。拡大した感覚は確かに広い部屋の存在を知覚した。今はそこへ駆け込むしかないか。


「こっちへ!」

「大丈夫だろうな!?」


 手薄なルートを見つけて皆を誘導する。受信モードのアイリーンは危なっかしいのでセレナさんが手を引き、ガロが先頭を突っ走る。


「止まるな走れ!」


 なるべく敵のいないルートを選んだがそれでも素通りとはいかない。前方にドワーフスケルトンの小隊が出現、ガロが盾を前面に突進した。


「ウラァ!」


 暴風のようになってスケルトンをなぎ倒す。だけでなく斧を振るってはスケルトンを粉砕。一体、二体。だが奴らには痛みも恐怖もない。ズタズタになりながらも立ち上がってくる。


「クソッ、アイリーンが寝ぼけてる時に!」


 寝ぼけてるわけではないけど、キツイ!


「後ろからも来てるよ!」

「そっちは大丈夫、前を破ってくれ!」


 ガロが敵を蹴散らしたらそのまま前進。俺には罠の位置が見えている。


「ここ注意して!」


 皆を通過させた後で俺がスイッチを踏む、途端に両サイドから壁がせり出す。挟まれないように前転回避、追ってきたスケルトンが潰れる音がすると首が一つ転がってきた。


「よし振り切った」

「まだだ!」


 しまった前方に新手か。でも近づいてくるでもなく身構えてる。何だ? 手に持ってるのは剣とかじゃないぞ。あの構えに近いものは……ボウガン?


「飛び道具だ!」


 咄嗟に皆を引っ張って脇道へ退避っ。同時に破裂音、何かが高速で空間を突き抜け壁を抉った。


「何だありゃ!?」

「分かんないけど当たったらマズイ!」


 ルートが変わってしまった。もう一度短剣に手を置き軽く抜く、“潜行”して再検討しないと……。

 ――ぐらりと体が揺れて“潜行”が解けた。疲労が溜まっているのか集中力が落ちている。


「ウィル君大丈夫?」


 セレナさんにも心配された、見た目にも疲れているか。


「大丈夫、ここから離れないとね」


 応えて歩き出そうとしたその時、カチリと機械音がした。


「罠か!?」


 ガロが慌てて足下を確認したけど踏板のスイッチではないか。他に壁や物に触れてるような人もいない。


 その時、俺の視線が上の方で止まった。何か四角い物にガラスのような目が……こっちを見ている、そういう装置か?


「何か来る!」


 突如、周囲で壁が動く。間に合わない、前後の道を塞がれてしまった。


「……閉じ込められた」


 沈黙。呼吸音だけがかすかに聞こえる静寂。


「出られるのか?」

「調べてみる」


 息を整えてから“潜行”しよう。落ち着くチャンスを得たと思えば良い。


「――っ」

「ガロ、血が出てるよ」

「さっきの飛び道具がかすってたな」


 ドワーフのスケルトンが使っていた武器。もしかしたら火薬を使うという奴か、噂で聞いたことがある。ドワーフの技術で作られる独特な武器だ。


「何が飛んで来たのか分からないし、傷口は洗っておいた方が良いよ」

「アイリーンはこれだし……、セレナ、聖水あるか?」

「良いブツありますぜ旦那ぁ」

「何だよその言い方」


 聖水とは祝福済みの水に微量の塩を混ぜた液体だ。傷口を洗うのに丁度良いし、塩を多めに入れれば魔除けにも効く。


「あへぇ……うん?」


 治療をしている間にアイリーンが正気に戻った。まつ毛の長い目をぱちぱちさせて周囲を見回す。


「ここどこ?」

「アイリーンが連れてきたんだよ」


 覚えてないんだ……。でも丁度良い、今ならアイリーンの超強力シールドウォールで壁を破れるかもしれない。


「何か臭わねえか?」


 ガロの鼻が反応している。俺たちの鼻じゃ分からないけど……。


「アイリーン、すぐにシールドで皆を囲んで!」

「え、ちょ」

「急いで!」


 すぐさま身を寄せ合うとアイリーンが魔法を展開、全員が壁に包まれた。そして“潜行”により周囲の構造を探る。俺の予想が正しければ……。


「多分、毒ガスの罠だ」

「いっ」


 よく見ると壁には噴出孔らしき穴が。閉じ込めてから毒ガスで一網打尽にする罠。ガロがようやく気付く程度の無色無臭のガス、危ない所だった。

 ギリギリで防御壁の中に避難できたけど、これじゃ雪隠詰めで脱出することもできないな。


「アイリーン、この壁どれくらい持ちそう?」

「しばらくは維持できるけどさ」

「打開策を考えないと……」


 背中にチリチリと死の気配を感じて、脳裏にマリアンの心配する顔が浮かんでしまった。なんて情けない様だ、生きて帰ると言っておきながら。


「あたしの防御壁を全開にしたら周りの壁を壊せるかもしれないけど」

「その場合、罠のガスが一気に漏れ出てくる危険があるかな」

「セレナ、毒に耐えられる魔法とかねえのか?」

「一応あるけど、どんな毒にも効くとは言い切れないよ」

「危ない賭けになりそうだ……」


 賭けに勝ったとしても壁を破ればスケルトンと鉢合わせ……でもこのままじゃジリ貧だ、覚悟を決めるか。


「ん?」


 ――ゴゴ、ゴゴ……。


 考えていると前面の壁が動き道が開けた。俺たちは顔を見合わせるが、意を決して脱出を図る。

 防毒の魔法をかけたうえで大きく息を吸い込み、シールドを解除すると同時にダッシュ、逃げ道へ全力で駆け込め!


 走れ、走れ、走れ!


「ブハァッ!」


 頃合いを見て一気に空気を吐き出し、そっと次の空気を吸ってみる。……苦しくはない。毒ガスを抜け出したんだ。

 振り返るとセレナさんはまだ余裕があるけど、アイリーンがもたついてガロに担がれていた。魔力はあるけど体力はまだまだらしい、仕方ないけど。


「助かったみてえだな」

「でもどうして壁が開いたのかな?」

「おい、アレ」


 通路の先に黒いものがたたずんでいた。もそっと動きつぶらな瞳がこっちを見る。


「……猫じゃん?」

「猫っぽいけど」


 黒猫……と言いたいけど何か違う。胴が長いし足が多い、顔もなんだか歪んでる。そもそもこんな所に猫がいるかと。


「ネコモドキじゃねえか?」

「でもここは四層、それも迷路の中にいるなんて」

「ここで起こることに有り得ないなんて言ってられねえけどな」


 それはその通り。ともかく猫らしきなまもの、俺たちを恐れる様子もないが。歩き出したと思ったら振り返ってこちらを見る。


「にゃ」

「ついて来いとでも言ってんのか」

「ガロ猫語分かるんだー」

「分かんねえよ」

「犬なのに?」

「関係ねえ!」


 とはいえ後ろに道はないからしばらく猫について歩く。しばらくするとまた行き止まりになったが、猫はそのまま壁に向かっていく。

 その途端、猫の体が液体のように溶け壁の隙間に潜り込んでいった。


「げっ!」

「やっぱネコモドキじゃねえか!」


 自由自在に姿を変えて他の生物を捕食するネコモドキ。主な生息地は二層のはずなのに……。


「壁が……!」


 目の前の壁が動いて道が開けた。まさかこいつドワーフの仕掛けをいじっているのか。そしてネコモドキが再び誘うように鳴く。


「俺たちを助けてくれてるのかな」

「信じていいのかこんな奴?」

「ついて来るにゃ」


 声。ネコモドキから声。


「早く来るにゃ」

「……喋ってる」

「魔物の中には人間の声真似で気を引くのもいるそうだけど」


 怪しさは残るけど俺たちは引き寄せられるようにネコモドキの後を追い、やがて視界が大きく開けた。

 巨大な門がある。明らかに様子が違う、迷路の終点か。


「アイリーンにこの猫、マジで道案内してたのか」


 そして門の傍らに転がるものに俺たちの目は引き付けられた。


「骨……死体だ」

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