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第33話 何処から来て何へ向かうのか

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

◆第四層ドワーフ地下要塞を探索する。

 一層二層はすでに何度も通過してセレナさんやアイリーンも慣れたものだ。ルートを話し合いながら三層を目指して階段を探す。


「基本は俺たちが五層に下りた時と同じルートで行こう」

「待てよ、その時にバカでかい魔物と戦ったとか言ってなかったか?」


 俺の提案にガロが反応する。それはジョン捜索時に遭遇した巨大メイキュウガニのことだ。


「ああ、あの巨大蟹……」

「こんな地下に蟹いるんだ」

「魔物はどこからでも湧きだすもんだぜ」


 そう、迷宮ではいくらでもどこからでも魔物が発生する。これも魔法の迷宮の謎の一つだ。ともかく同じルートを行けばあのメイキュウガニと再び遭遇する可能性は高い。


「俺に一応考えがあるから」


 そう言って皆を三層まで案内する。


 前にこの道を進んだ時はセレナさんやベッシ、そして多くの仲間が一緒だった。だが五層の戦いで生き残ったのは半数。目的は達したがボロボロの撤退となった。

 だけど今いる仲間たちもなかなかの精鋭だと俺は思っている。


「この辺り、少し前のことだけど懐かしいね」


 すたすた歩いていくセレナさんを俺は慌てて止めた。


「ストップ! ここは前に罠があった場所!」

「それってウィル君が解除した奴でしょ?」


 ガチャ、ガタン――。機械の音と共に見覚えのある殺人的な刃が飛び出す。俺はセレナさんを体ごと引き戻して事なきを得た。


「な、ななななんでさ、罠が復活してるじゃん!?」

「あれを見て」


 物陰に一層で見たような小人が潜んでいる。


「惜しい、モウ少し」

「こ、小人?」

「あいつらが罠を直しちゃうんだ」


 これが器用で修理だけでなく改造したり、新しい罠を設置する時もある。何気に厄介だが追い散らしてもキリがないため半ば諦めている状態だ。


「あ、あんにゃろう!」

「ああいう質の悪いイタズラをするのが奴らの本性さ」

「あれも魔物なんだって再認識したわ……」


 改めて迷宮の洗礼を受けるセレナさん。後ろの方でガロが「大丈夫かよ……」とドンヨリしてるのが何とも言えない。

 ……そういうわけで俺たちは三層も警戒を高めながら進んでいった。


「魔物が少ないな」

「別のパーティーが通った後かも」


 十分歩いた辺りでこの日は野営することにした。

 攻略の進んだ階層には点々と神々の祠が立てられている。こうした場所も聖域として魔物を退けるため、一緒に休憩所も整備されていた。


 いつもなら固形燃料で火を起こして煮炊きなどするところだが、今回は魔法を使える仲間がいる。

 セレナさんが発熱の魔法陣を敷くと鍋を載せた。迷宮内では薪など手に入る場所は限られるし煙がこもってしまうが、魔法があれば一発で解決だ。


 火の番はセレナさんに任せ、俺とガロは慣れた手つきで野営準備。アイリーンはほぼ素人だけど、なんだか楽しそうだった。


「こういうの旅って感じで好き。迷宮の中だけど」

「ホレ飯だ。大聖堂のものとは比較にならないだろうが」

「そんなことないよ、基本質素な場所だったから」

「あぁ~けっこう禁欲生活してたんだ」


 この日の夕食は塩漬け肉と野菜を少々焼いてパンに挟み、スープの素で汁物をこしらえた。食事は過酷な探索において数少ない楽しみだ、簡素なものでも美味しく味わいたい。ついでに雑談でもして彩を添えるのもまた良い。


「そいでね、夜中に聖堂を抜け出して屋台でご飯食べたりしてたの」

「アイリーン、何と言うか自由だね……」

「バレなかったのか?」

「バレたよ。独房に入れられて経典独唱とかやらされたけど、次は方法を変えて脱走するのが面白くて」

「とんだ聖女だね……」




 夜は二人ずつ交代で睡眠を取る。先にガロとアイリーンが眠り、俺とセレナさんで見張りをした。祠の側は魔物が寄り付かないけども、残念ながら脅威が魔物だけとは限らない、注意が必要だ。


「ウィル君はどうして迷宮に入るようになったの?」


 セレナさんが問いかける。寝ている二人を起こさないよう囁くような声で。


「前にも言ったけど、俺の養父も冒険者だったからね」

「それでも帝都に来た時は今より幼かったんでしょ。もっと安全な仕事があったはずよ」


 確かに、小さな子供が働こうと思ったら店の手伝いなどが普通だろう。そもそも帝都には子供が少なくて同世代の仲間もあまりいないのだけど。


「なんでだろう。正直言ってその頃の考えはあまり覚えてないんだよね」

「君を拾ってくれたお義父さんは……あ」


 それは前にも触れたことがあった。あの人は何年も前に死んでいる。


「な、何でもないよ」

「気にしないでいいですよ。食あたりでぶっ倒れて、騎士としても冒険者としても笑い話な死に方だったから」


 ハハッ、と笑って流したかったがセレナさんは物憂げな目になっていた。


「お義父さんのこと、そんな風に笑っちゃダメだよ」

「……」

「ゴメン、偉そうだったね。それでも君を拾って育ててくれた人なんだから」

「いや、セレナさんの言う通り、うん」

「でもそっか、それ以来ウィル君は一人で生きてきたんだねえ」

「色んな人の世話になったけどね」


 飯屋の人たちに酒場のマスター、墓守爺さんや鍛冶屋のおっちゃん、ガキの俺を雇ってくれた冒険者たち。


「迷宮に潜り始めたのも多分成り行きだったと思うけど。でも今は少しずつ理由が出来てきた。俺自身が迷宮の謎を解きたがってる」


 それに、迷宮に挑むことで繋がった縁を大事にしたい。それが俺の目的になりつつある。


「私は実を言うと、前から迷宮に入るのが目的だったの。エドウィン様に雇われたのも迷宮の情報が手に入りやすかったから」

「なるほど……それで目的というのは?」

「探してる人がいるの」

「……迷宮に手掛かりがあるわけ?」


 探し人か、よくある話だがどんな人物なのか。皆でファントムミラーに幻惑された時があったけど、鏡に映った像、セレナさんの心の鏡像を思い出す。誰か男の人が映っていたように見えたけど……。


 そしてもう一つ。前に見た悪夢も思い出してしまう。セレナさんの目的と悪夢で聞いた言葉には通じるところがある。その真意とは……。


「ほら、まだ寝ちゃダメ」


 セレナさんに揺さぶられてハッとした。うとうとしていたらしい。最近は寝ると悪夢を見そうで寝るのが怖いが。


「もう少しだから頑張って」


 やがて見張りを交代するとセレナさんに寝かしつけられた。なんだか弟扱いされている気がするけど、俺は抵抗もできずに眠りに落ちていく。今夜は静かな眠りを得られますように……。

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