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第32話 再び深層へ

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

 その後も俺たちは着々と仕事をこなしていった。二層から三層に足を延ばし、戦闘を重ねるうちに互いのことも把握していく。


 例えばセレナさんは剣と魔法に優れバランスが良い。でもどちらかと言えば個人技に長けている方で、今後は仲間との連携を増やしていけばもっと頼りになる。ガロはぶっきらぼうな所があるけど、あれで目端が利いて団体行動に向いている。そういう所は皆も分かってきてるだろう。

 ちょっと気になるのはアイリーン。秘めた力が抜きん出てるのは分かったけど如何せん戦いの経験が浅い。それと優しさだ。過酷な迷宮探索では、時に何かを諦める決断を迫られるかもしれない。彼女にそれができるかどうか……まあ俺もお人好しなんて言われたりするけど。


「そろそろ行ってみるか、その賢者なんとかいう奴を捜しに」

「賢者ホセね」


 エドウィン皇太子より直接依頼された賢者の捜索。この人物が迷宮の謎に関して知見を得ていれば今後の探索に役立つかもしれない。

 現状、失踪して一年以上経つが、その手掛かりを第四層ドワーフの地下要塞まで絞り込んでいる。


「迷宮内の迷宮みてえな場所だ、厄介なところで死にやがって」

「その要塞ですけど、情報がかなり少ないことが気になります」


 俺たちが仕事に取り組んでいる間、マリアンたちが地下要塞について調べてくれていた。


「まず第四層に存在するドワーフの古城ですけど、賢者の手記にも『特徴がカタス・ギル城に近い』という記述がありました。人をやって調べさせたところ確かなようです」


 ベッシも見覚えがあると言っていたけどそれが実証されたわけだ。


「この城は色々と曰くがありまして。皇帝オズワルド陛下が皇太子の頃に軍を率いて攻撃したことがあります」


 もう四十年近く前のことか。その頃は種族間の争いが激しく多くの血が流れたと聞いている。ベッシが腕を失ったのもその戦いでのことだ。


「オズワルド陛下は城そのものは攻略しましたけど、それは表層までのこと。ドワーフたちは地下深くへ逃れ、そこへ至る道がドワーフの地下要塞というわけです」

「皇帝は地下にも攻め込んだの?」

「いえ、攻めきれないと諦めて封鎖するに留めたそうです」


 賢者ホセの手記にもそんなことが書かれていた。そして要塞の実像を知る者はドワーフ以外では見つかっていない。


「ドワーフを当たっても、秘密は明かせない、行かない方がいい、しか言わないのよねえ」


 そうした事情と第五層へのルート確立により地下要塞は後回しにされてきた。だが俺たちはそこへ行かなければならないんだ。


「それなんだけどさ」


 アイリーンがひょいと手を上げる。


「ドワーフの冒険者に来てもらったら良いんじゃない?」

「……アイリーン、そりゃ無理だ。ドワーフに限らず、エルフや獣人にとっちゃ他人事なんだよ」


 そう、難しいようなのだ。

 アルテニア帝国は人間種を中心に、他種族の国家を多数支配しながら大帝国を築いている。だけど他種族の反発は常にくすぶっていて、特に前の皇帝の時代は史上最悪と言われるほどだったとか。


 そんな抗争状態は代替わりするといくらか落ち着いたが、それでも両者の間にできた溝は深く大きく、そんな時に帝都侵食という大災害が起きた。


「だけど他種族からすれば飽くまで人間種の問題、帝国が自力で解決しろって感じの空気みたいで」

「稼ぎ時と考える奴らはいるがな。それでもエルフやドワーフの冒険者が帝都の迷宮に挑むことは少ない」

「そっかー。でもセレナとガロは違うんだね?」

「私は個人的にね」

「オレは西の大陸出身だから。ぶっちゃけどうでもいいんだよ」




 色々検討してみたけど、結局実地で見聞を深めるしかないという結論に至った。少しずつ地下要塞の実態を解明しながら賢者ホセの行方も捜す。食料と道具、帰還の巻物まで揃えて準備は整った。


 その日の夜、食事の後で庭に出て風に当たる。久々の難所とあって心中には緊張と高揚感があった。


「ウィルさん」


 マリアンが姿を見せた。その表情は少し物憂げだ。


「明日が出発ですね」

「うん。今度は少し時間がかかると思うよ」

「それに危険な場所です」

「うん……」

「それでも行くのですね」


 マリアンはもしかすると後悔しているのかもしれない。彼女のおかげで俺たちはギルドを立ち上げ、予想もしない速さで深層に挑むことができる。逆を言えばそれだけ危険に迫っていくということだ。

 ジョンの時のようなこともある。俺たちが深層で死ぬようなことがあればマリアンは更なる心の傷を背負いかねない。


「行くよ。そして必ず生きて帰ってくる」

「……」

「大丈夫、皆腕の良い仲間だし、今回は調査が目的だから」

「分かりました、信じて待ちます」


 ……信じて待つ、か。彼女はずっと待ち続けていたんだろう。それは辛く長い時間だったのではないか。

 一方俺は妙な気分になる。以前は俺が迷宮に潜っても帰りを待つ人はいなかった。町の知り合いたちは多少気に掛けてくれたかもしれないけど、それはあくまで隣人として。同じ屋根の下で暮らす人、同じ目的に向かう仲間、どれも一人の頃とは違っていた。


 待っていてくれる人たちのために頑張ろう。



 翌朝、俺たちは支度を整え集結した。


「あんたたち、お嬢様を悲しませないよう無事で帰ってくるんだよ」


 メイド長キャサリンの強い言葉をもらいギルドハウスを後にする。


「……正直言ってあの婆さんが仲間に加わってくれりゃ助かるんだがな」

「同意」


 ガロの言葉に俺も激しく同意した。

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