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第30話 迷宮の仕事

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

 ギルドハウスの庭を朝の散歩中。ブラブラしていると久しぶりの顔に出会った。


「久しいなワル坊」

「ウィルだよ。クリフ爺さんどこから入ってきた?」


 一応、門衛が人の出入りを見張っていはずなんだけど。


「固いこと言うなっての。それよりお前さん貴族のパトロンなんか持って上手くやりよったな。酒も良いもん置いてあるわ」


 爺さんがゆらゆら見せる酒瓶をむしり取る。


「ジジイ、屋敷からくすねて来たのか」

「沢山あったぞう、一本ぐらいなくなってもバレんわ」

「酒なら酒場で飲めっての」


 そもそも金を持ってるのかすら怪しい爺さんだが。道化っぽい服装だけど昔は貴族の道化師だったのかも。そのパイプで生活している、なんてのは考えすぎか。


「まったく酒も満足に飲めん。お前は新しい仲間、カワイ子ちゃんたちに囲まれてウハウハなのに」

「そうだと良いんだけどねえ……」


 新しい生活も軌道に乗ってきたはずなのだが、やはり先日見た悪夢のことを思い出してしまう。


 あれは皆の本心なんだろうか、それとも皆の悪夢を俺が勝手に覗き見ただけなのか。皆の様子に変化はないけど、いずれにしろ今後の迷宮探索に不安を覚えてしまう。


「また悩んでる顔だな。お前は昔から悩める少年だったものなあ」

「昔って、そんな前のこと知らないだろ爺さん」

「そぅかぁ? まあそういうことにしとこう。実際よう分からん、ウム」


 ダメだ、この酔っ払いの相手をしてると日が暮れる。


「何を困っとるか知らんが、お前の頭だけで考えとっても解決するまい。まずは動いてみることだ」

「そりゃそうだな」

「と、多くの偉人や年長者が無責任に(のたま)うのだった」

「はぁ……」


 そこで遠くにクロエの姿が見えた。俺を呼びに来てくれたようだ。


「そろそろ行くよ」

「おう、楽しんで来い」


 そのまま小走りにクロエと合流する俺。


「ウィル様、誰かと話していたのですか?」

「うん、ちょっとした知り合いとね」

「ところで、その手にあるお酒は?」

「いやこれは……その……」


 広間にはすでにマリアン、セレナさん、ガロ、アイリーンたちが集まっていた。


「ガロさんと話し合って依頼を探してきました」

「なになにー。……第一層の巡廻警備?」



***



 <ナイトシーカー>の仕事が始まった。

 迷宮第一層は大部分が制圧されて危険は少ないが、それでも魔物が湧きだす可能性はゼロではなく、また人間がもたらす危険も無視できない。そのため定期的な巡廻に冒険者が狩りだされることがあった。


「まず安全なところから慣らしていくぜ。アイリーンは迷宮初心者だし、お互いの能力もよく分かってない状態だからな」


 こういう時ガロは割りと手堅い。俺もその方針に賛成だ。

 準備を整えた俺たちは迷宮一層に下りる。今回は食料も少なく一日で終わる予定だ。


「アイリーンその格好で行くの?」

「動きやすいでしょ」


 神官らしく杖は持っているが、法衣をラフでアクティブにしたような服装だ。”奇跡の聖女”というイメージは遠い地平に置き去りにされた。


「動きやすい、のかなあ。まあいいか」

「大聖堂じゃ朝から晩まで修行規律お祈りばっかりで、縛られるのが嫌でさあ」


 そうした生活の反動なのかもしれない。本人の好きにしてもらおう。


 第一層は番人が倒されたのも数年前。探索も進み広大な区域が地図にまとめられている。それでも俺の隠れ家のように把握しきれない場所はあるだろう。その調査も兼ねているわけだ。


 中心区画では階層固有の魔物である小人たちが駆け回り、人間とともに市場を開く姿が見られる。また空いたスペースに勝手に住み着く者も多く、そういう意味では無秩序な場所だ。


「北側がオレたちの担当だ。グルっと回って魔物がいないか調べる」


 歩きながらガロがアイリーンに、迷宮たるものは~と蘊蓄(うんちく)を語りだす。アイリーンの方はというと、聞いてるのかどうか分からないが嫌がることなく話に付き合っていた。


「あれでけっこう良い組み合わせかもね」


 セレナさんが笑うと俺も素直に頷いた。


 やがて人通りの少ない区画にたどり着くと本格的な調査になる。空き部屋に魔物や犯罪者がたむろしていないか、魔物の出入りする痕跡がないかなど目を凝らしていく。


「駆け出しのころを思い出すな」


 俺は十歳にもなる前から迷宮に入り浸り、大人にくっついては様々な仕事を覚えていった。


「えっ、そんな子供の時からここにいたの?」

「冒険の手伝いならもっと早いよ」


 それも養父に連れられて放浪した結果である。


「ウィル、ここ調べるぞ」


 ガロが部屋の一つを示した。扉を叩くが反応はない。ここからは俺の仕事だ。


 短剣に手を伸ばして例の動作、“潜行”を使って扉を検索する。鍵はかかっていないが開けるには早い。罠が仕掛けてある可能性もある。そして何者か潜んでいないか室内まで意識を潜らせ安全を確認。


 ……オールクリア、開けて中に入る。


「……蜘蛛の巣がある。巡廻用の地図だと冒険者の寝床になってるけど」

「生活の跡はあるがしばらく使ってないな。移住したのか引退したのか、それとも死んだか」


 冒険者の活動は文字どおりの冒険ばかりではない。誰しも食っていかねばならず、稼げる者とそうでない者がいるのはどの業界でも同じだ。

 とりあえず地図に空き部屋と書き込む。時が経てば戻ってくるか、別の誰かが住み着くかは分からない。


「たぶん死んじゃったみたいだよ」


 そこでアイリーンが部屋の隅を指さす。


「え、なに?」

「幽霊、いるよそこに」

「見えるの?」


 俺たちには何も見えない。霊視の力に差があるんだろう。迷宮も下層に行くと力の強い霊が徘徊していて、その段階で俺たちも目視できるようになる。だが浅層や地上の弱い霊は素人が見るのは難しい。


「さすが聖女様だぜ」

「もう、その聖女っていうのあんまり好きじゃないの」

「了解。それで幽霊はどうしてる?」

「うずくまってる。この場所に縛られてるみたい」


 地縛霊って奴か。そこで霊のいる辺りを探ってみると物陰から紙切れが見つかった。


「何か書いてる。地図と……“隠し場所”?」

「隠すって何を?」


 それっていうと……。俺たちは顔を見合わせる。


「お宝!」

「セレナさん、本人の前だよ」


 この幽霊が会話できるか分からないけど。冒険者が迷宮で見つけた財宝なり何なりを、誰にも見つからない場所に隠したまま本人は死んでしまった。そんなところだろうか。


「コレが心残りで地縛霊になってたのか」

「見つけてあげれば安心できるかな?」

「どうだろう、中身にもよるけど」

「探そう!」


 セレナさんがえらくやる気になってしまった。


「セレナさん。見つても懐に入れちゃダメだよ、祟られる」

「そ、それでも一割ぐらいもらう権利はあるんじゃない?」

「そ、そうだな、宝を腐らせちゃもったいねえ」


 ああ……ガロも乗り気になってしまった。こうして簡単なはずの巡廻任務は宝?探しに変更されてしまったのだった。

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