第25話 ガロ
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆賢者ホセの手掛かりを探す。
朝が来た。マリアンが調達してくれたベッドはふかふかで、つい二度寝を決め込みたくなるがそうもいかない。
「ウィル様、朝食の時間です」
クロエに起こされて俺の一日が始まる。のろのろ身支度を整えると周囲に挨拶しながら食堂へ。
窮屈と感じてしまうのは贅沢か我儘か。隠れ家の頃なら昼まで寝ていても誰にも指摘されなかったわけだが。でも一日三食シェフの料理が食べられる生活のありがたさには言葉もない。今朝はベーコンをやわらかいパンに挟んで蜂蜜までかけて食べてしまった。
……その代わり飯屋に顔を出す機会が減った。この間なんか女将さんに寂しくなったなんて言われたものだ。
窓から庭を眺めるとセレナさんの姿があった。鍛冶屋に見てもらった剣が完成したようだ。風に揺れる落ち葉をきれいに両断する様は、剣士と鍛冶屋どちらの技も見事なものだったと確信させる。
「ちゃんとしてればカッコいいのにな」
戻ってきたセレナさんやマリアン、ベッシたちと食卓を囲み朝食が始まる。そして俺の背後にはキャサリンが立つのだが。
「ウィル君はマナーの覚えが早いね」
初めのうちけっこう色々と指摘されたけど、すぐ慣れた。俺の養父が元騎士だったことも影響しているかもしれない。……冒険者としてあちこち旅して、成功したり失敗したり。割といい加減な養父だったけど、あの人で騎士が務まっていたなら俺にもワンチャンあるかもしれない。
「ギルドハウスも完成したので活動を開始してもいいと思うのですが」
マリアンが口を拭きながら話す。
「やはりもっと仲間が必要ですね」
「そうね、目指すは深層なんだから強い仲間がほしいわ」
「そのことなんだけど一人当てがあるんだ」
俺の提案に皆が耳を傾ける。たいして人脈があるわけでもないがちょっと自信があった。
あちこち尋ねてその男を見つけた。昼から酒場で酒をあおる獣人ガロ。少し前にコンビ解消した相手である。
「やあガロ」
「……なんだウィルか」
見るなりしかめ面、機嫌が悪いのかタイミングが悪いのか。でもいい構わず切り出す。
「噂は聞いてるぜ、貴族のお抱えとは上手く取り入ったな」
「俺はそんなに器用じゃないよ」
「そうだな。じゃあ日頃の行いって奴か」
「ガロの方こそ噂を聞いたよ」
今度こそガロの顔が渋くなった。それでも俺は話を続ける。
「またパーティーで上手く行かなかったんだって?」
「フン……」
このガロという男、パーティー運に恵まれないところがあった。まず経歴に不明なところがあって<冒険者ギルド>に入れない。そこらでパーティーを組もうとすると無頼な奴に当たりがち、合わなくて解散という感じのようだ。俺と組んでた期間が比較的長いんじゃないか。
「調子に乗ってる奴らがいるから、ぶん殴ってオサラバしてやったぜ」
「そりゃまた……」
「そんでオレに何の用だ。お前みたいに貴族の番犬になれって誘いか?」
「番犬じゃないよ」
ここは毅然と向かい合う。
「俺たちは迷宮の謎を解き明かしたい。そのための仲間を探してる」
「……ふうん」
「ガロは腕が立つし、口は悪いけど周りをよく見てる。迷宮の経験も豊富で頼りにしたい」
「……」
ジョッキに残っていた酒をぐいと飲み干すガロ。
「話は分かったが、オレは基本的に金のためにしか戦わねえぞ」
「それでいいよ。俺たちのギルドマスターは必ず報いてくれる」
「だが酔った頭じゃよく考えられねえ。今日のところは帰らせてもらうぜ」
立ち上がったガロは勘定を済ませると、ちょっとフラつきながら出ていった。
「ゴメン、マスター。客を帰らせちゃった」
「気にするな。それより上手く行きそうかい?」
「行くと良いね」
色々な冒険者と仕事をしたけどガロは信じられる奴だと思ってるから。
二日後、ギルドハウスの門をくぐるガロの姿があった。
「来てくれたか」
「まだ決めてねえぞ、条件の話し合いが先だ」
その条件面もマリアンが直接面談して話してくれた。
「当ギルドに所属していただければ基本給にプラス出来高払い、ギルド施設も自由に使っていただいて構いません」
「ちなみに金額は」
「こちらをご覧ください」
「契約させてもらいます」
うわ簡単に決まった。
「今一つ、このギルドハウスで宿泊される場合はいくつか生活指導をさせてもらいます」
「構わねえよ。俺は西の大陸から来たんで合わせるのには慣れてるから」
ちなみに俺たちが住む大陸はアルテニア大陸で、西にウェスタリア、東にイストリアと三大大陸が確認されている。船の往来はあるが文化はけっこう違うらしい。
「そういう訳で、厄介になるぜ」
「また世話になるよガロ」
「お前今度は勝手するんじゃねえぞ」
分かってますって。それより後ろ後ろ。
「新しい冒険者様ですね」
「汚い子犬だねえ」
「うおっ!?」
クロエとキャサリンがガロの背後に立つ。特にキャサリンの巨体はガロが見上げるほどで驚くだろう。
「クロエ、風呂の用意をしなさい」
「ふ、風呂か。そいつはありがてえ、しばらくまともな風呂に入ってねえんだ」
「なんだってぇ?」
「これは念入りに洗って差し上げねばなりませんね」
ガロは体を抑え込まれると風呂場に連行されていった。
「おいウィル、なんだこいつら!?」
「頑張ってな」
その後、再会したガロは尻尾の先までフサフサで石鹸香る犬になっていた。悲し気な表情で俺を見つめてくる。同士よ。
「セレナさん、新しいメンバーだけど前に会ってたよね」
「え、初対面だと思うけど」
「ほら、酒場でつぶれてた時の」
「えぇ~なんだろう記憶が曖昧で思い出せない……」
「ウィル、ここ大丈夫か?」
ガロの言いたいことは分かるけど、ともかく新たな仲間を加えてようやく俺たちのギルドもらしくなってきた。
……と思う。