第23話 襲来
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆賢者ホセの手掛かりを探す。
なんやかんやあって俺とセレナさんは手を組むことになった。そして目標は第四層。賢者ホセの足跡を追ってドワーフの地下要塞を目指す。
「でもやることが山積みだ、情報収集と準備もそうだけど」
「二人だけじゃねえ」
飯屋で昼食をつつきながら作戦会議。俺は少人数で四層に潜ったことは何度もある。だがそれも当たりのついてる遺体などを探す仕事だった。今回は未知の脅威が潜む場所で標的を探し回らないといけない。
「やっぱりギルドのサポートがあれば良いんだけどね」
私設ギルドに加入する手もあるが、その場合ギルドの意向に従わざるを得ないだろう。かといって独自に仲間を募集するには結構な金がいる。
「最低でも仲間をあと二人。マリアンからもらった報酬も限りがあるし……」
「私も騙された分が痛い……。マリアンに頼み込んだらお金貸してくれないかな」
「そ、それはちょっと」
数回会っただけの仲だし、可能だとしてもプライド的に実行したくないな……。やはり地道に金を貯めていくしかないか。
その時、飯屋の女将さんが買い出しから戻ると真剣な表情で俺を見る。
「ウィル、アンタを探してる人がいたよ」
「俺を?」
「ウィル君人気だねぇ。ヒューヒュー」
最近そういうことが多いな。人気かどうかは知らないが。
「それがね、二人組で片方はオーガみたいにおっきな婆ちゃんだって話さ」
人気じゃなさそうです。
「おっきな婆ちゃん……」
「アンタ心当たりないかい、誰かに恨まれたりとか」
「ないような、どうだろう」
記憶を刺激されるけど、それを振り払おうとする心が働いて思考が定まらない。
モヤモヤした気持ちを抱えつつ飯屋を出る俺とセレナさん。
「見つけたよ」
太い声に振り返ると俺の体が途端に硬直した。巨大な影が俺を見下ろしている。まるで立ち上がったグリズリーだがよく見れば人間だ。
「ウィル君だね」
その巨人はシックなメイド服を筋肉でパンパンにしていた。とにかくデカい、そしてお婆ちゃんだ。
「あ、この人って」
「ひぃっ!」
俺は背を向けて駆けだした。生物としての本能が体を動かしていた。
「ウィルくーん!?」
セレナさんの声が遠くに聞こえるが、脳裏を嫌な記憶が出たり消えたりして足が止まらない。
タタッ! と背後に足音が近づく。思わず振り向くと別の人影。お婆ちゃんじゃない、もう一人若いメイドが俺を追いかけていた。
「何故逃げるのです?」
問いかけつつ理想的なフォームで迫ってくる。俺も足にはけっこう自信があるのに。
「俺に関わるな!」
「却下します」
冷淡な返事とともに並びかけ、次の一歩でもう前に。そして容赦ない足払いで俺のうんぐほぎゃれっつ!
……激しくローリングして気付いた時には大の字で倒れていた。側にはメイドさんが立ち乾いた目で見下ろしてくる。
「えっほ、えっほ。ウィル君、この人たちマリアンのとこのメイドだよ」
「あ、はい」
そうだ、あのお婆ちゃんはマリアンの屋敷にいたメイド長。俺を犬のように洗った人だ。その時のことを思い出して体が拒否反応を示したのだった。
***
俺とセレナさん、メイドたちで帝都の街路を歩く。行先は知らされていないがこの地区は知っている。帝都の中でもかつて栄華を誇ったであろう貴族の邸宅街だ。
侵食された帝都市街を解放した時、この辺りも酷い荒廃ぶりだったと聞く。貴族たちは不安定な帝都での暮らしを諦めサンブリッジに移転。残された屋敷は放棄するなり閉鎖するなりしていった。
「ここがかつてオーウェン侯爵の屋敷でした」
寂れた街路の一画で工事の音がする。今は荒廃した侯爵家の屋敷を修築しているようだ。その中心には家来たちに差配するマリアンの姿が。
「ウィルさん、セレナさん!」
俺たちを見つけるとパタパタと駆けてきた。その仕草がなんか可愛い。侯爵家を継ぐといってもまだ俺と同じくらいの歳だしな。
「キャサリン、クロエ、ご苦労でした」
デカいメイド長がキャサリン、若い女の子の方がクロエか。さっきの件でトラウマが増えた気がする。
「ウィルさんはまた迷宮に挑んでいるのですね」
マリアンは屈託ない目で砂をかぶった俺を見る。これは君のメイドがやったことですよ。
「また帝都に来ていたんですね。それにこの工事は?」
「私、しばらくここで暮らすことにしましたの」
「暮らすって」
一旦場所を変え修繕作業の脇にテーブルが置かれた。そこにさっきのメイドさんが紅茶とお菓子を持ってくる。
「私は父や兄の代わりに家を継がねばなりません。ですがそれは成人した後のこと、しばらくはただのマリアンです」
「帝都で何かしたいことでもあるんですか?」
「ここで冒険者の支援活動を起こしたいと考えています」
支援活動と聞いて少しきょとんとしてしまった。冒険者を囲う金持ちはけっこういるが、それと似たことか?
「お二人のおかげで私たちは家族を取り戻すことができました。ですが幾人もの冒険者が犠牲になったのも事実。これは私たちの我儘によるものです」
「そんなことは……」
彼らも覚悟して、自らの意志で危険に挑んだと言いたい。だがどうあっても腑に落ちない部分がマリアンにもあるのだろう。
「ですので、侯爵家の力で冒険者の方たちを支援し、命を落とす方を少しでも減らしたいと思うのです」
「……うん、良いんじゃないかな」
俺はそれで良いと思う。子供らしい考えと言われるかもしれない。それでも納得できないことがあるなら行動し続ければ良い。
「マリアンがやりたいようにしたら良い。……失礼しました、マリアン様の」
「先ほども言いました、今はただのマリアンです。歳の近い者として気軽に接してください」
「そう? じゃあ……マリアン」
マリアンの顔がパっと華やぐ。その後ろでメイドのクロエさんがこっち見てるけど気のせい?
「そういうことですので、お二人は何か困ってることはありませんか?」
そう聞くので俺とセレナさんは今の状況を話す。
「なるほど、よく分かりました。では作りましょう」
「作る?」
「私が私設ギルドを作ります」