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第22話 賢者とドワーフ

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

『私ことホセの調査記録をここに記す』


『エドウィン皇太子の要請もあって帝都地下に広がった迷宮を調査することになった。私自身も大いに興味をそそられており、必ずや謎を解明すると約束した』


『第一層はなんともいかがわしい連中で溢れていた。だがこれでも穏やかになったもので、以前は醜悪な小鬼たちの巣窟だったと聞く。二層にしてもそうだ、ネコモドキが私を誘うぐらいのもので、実際に魔性で溢れていた頃に訪れたかったものだ。噂に聞く番人もすでにいない、遅れてやってきたことが悔やまれる』


『第三層を歩いている。これは紛うことなき秘密の地下通路だ。迷路となっている通路が下水道とつながり危険な迷宮と化している。魔法の迷宮と呼ばれているがまったくの別空間というより、元の地下空間を変化させたタイプではないか。そこからヒントを読み取れるはずだ』


「秘密の地下通路って実際にあるんだ」

「ぐぅ……」


 セレナさんは机に突っ伏してるので俺が読み上げていく。賢者と呼ばれた男ホセの足跡は第四層へ進んでいった。


『なんてことだ、ここが地下とは思えない! 目の前に広がるのは間違いなくドワーフの城だ! これほどの迷宮を生み出す力とは如何なるものか興味が尽きない』


『私はこの城の特徴が実在するカタス・ギル城と近いことに気付く。もしそうなら有名なドワーフの地下要塞が隠されているはず。この近似を確かめるため私は古城の地下を調べることにする。オズワルドが攻め、封印したという要塞がこの目で見られるとすればこの上ない喜びである。迷宮に感謝!』


 ……手記はそこで途切れている。途中からテンション高かったな、賢者とはいったい。


「ドワーフの地下要塞か、噂には聞いてるけど」


 ドワーフ族はよく鉱山などを掘りながら地下にまで生活圏を広げているそうな。よってあの古城も目に見える城郭は氷山の一角、その下に未知なる深淵が隠されているわけだ。


 四層の古城がそれを再現しているならば賢者は実に厄介なところへ飛び込んでくれた。ドワーフたちは侵入者を防ぐために地下を要塞化し悪辣(あくらつ)な罠を仕掛けたという。デュラハンのいる五層とどちらがマシだろう。


「その地下要塞はまだ攻略されてないの?」

「まだですね、色々事情があって」


 それより先に四層の番人が討伐され、五層への階段、そのルートも構築された。次第に冒険者たちの注目は五層の攻略に移り、ドワーフ地下要塞は苦労に見合わないと放置されてしまったわけ。賢者は大喜びで挑んだようだけど。


「皇帝オズワルドによって攻撃された要塞、ねぇ」



***



 手記から目ぼしい情報をメモし、俺たちは詰所を後にした。


「セレナさん、ついでだからドワーフ族に会ってみませんか?」

「ドワーフ? 帝都にいるの?」

「いますよ。帝都がこんなになってから色んな人種が流れ込んでて」


 種族間の抗争が激しかった時代からは想像もできないだろう。今の帝都はドワーフが鍛冶屋でハンマーを振るい、獣人のキャラバンが珍品を運び、たまにエルフが魔法指導に訪れる。海の向こうから来る人々も昔より増えているそうだ。


「エルフ狩りをしてた頃とは違うんだ……」


 俺が訪ねたのはそんなドワーフ鍛冶屋の一人だ。彼らは人間に比べ背は低いが横幅があり、骨格はガッシリ、筋肉は岩のように盛り上がっている。

 種族としては長命種だが、男は豊かな髭を蓄えていることが多くて年齢は分かりにくい。それでも俺はこの鍛冶屋をおっちゃんと呼んでいた。


「おっちゃん、お客さん連れてきたよ」

「おう、ウィルか。……そいつは新しい相棒か?」

「どうも……」


 セレナさんとおっちゃんが微妙な空気である。エルフとドワーフ、どちらも精霊種にくくられているけど仲が良いわけじゃないらしい。


「セレナさんの剣を見てもらったら?」

「う、うん」


 差し出された剣を見るなりおっちゃんの顔が渋くなる。


「見た目が良いだけで鉄は安物だ。ハズレを掴まされたな」

「デスヨネー」


 さすが、見ただけで分かる職人の目。一方セレナさんの顔が虚無になってる。


「前に使ってた剣はどうしたんです?」

「あれは傷んできたから、しまっておいてあるの」

「エルフの剣なら魔法鋼か。見てやってもいいが」

「できるの?」


 その剣を持ってくるためセレナさんは一度戻り、俺はその間に細々とした話をする。


「投げナイフと各種道具、鎖帷子の直し。それと研いでほしい剣が」


 今まで剣は使ってこなかったが、ライドが残したショートソードを持ち歩くことにしてみた。小柄な俺でもでも十分扱えるだろう。


「この拵え、ワシが作ったものだな」

「ライドって戦士が残したものだよ」

「そうか、アイツも死んだか……」


 鍛冶屋としてはやるせないのだろうな。自分の作った剣が誰かを傷つけ、守り、やがて死んでいく。それでも彼らはハンマーを振り続けるんだ。


「ところでおっちゃん、ドワーフの地下要塞について何か知ってる?」

「……迷宮にドワーフの廃墟があることは聞いている」


 おっちゃんに哀愁の気配が漂う。おっちゃんも俺が想像する以上に深い年輪を重ねて来たのだろう。


「その廃墟が我らのものと同じものかは知らぬが、仕掛けの秘密は明かせない。同胞を裏切ることになる」

「……そっか、じゃあ仕方ないね」

「あそこへは行くなとしか言えん」


 ごめん、それでも行くことになると思う。見つけなきゃいけないものがあるから。

 しばらくしてセレナさんも戻ってきた。


「あの~剣持って来たんですけど」

「これか。やはり魔法鋼だな、輝きが違う」


 剣を受け取っておっちゃんが工房に入る。そこには弟子たちが汗を流す鍛冶場の光景が。ここではドワーフだけでなく人間の鍛冶屋も技術を学びに来るようだ。


「精霊が住んでる」


 セレナさんがポツリと言った。


「ほう、エルフならさすがに分かるか」

「うん。炎の精霊が鍛冶場を守ってるんだね」


 俺も聞いたことがある。ドワーフの鍛冶師は炎の精霊の加護があるから強い鋼を打てるんだとか。人間たちも七柱の神々に祈ったりはするが、ドワーフほど火を上手く使えはしない。


「嬢ちゃんの剣、良い作りじゃないか。大事にしろよ」

「え、へへ……」

「先約があるが一週間もあればできるだろう」


 鍛冶場に小気味よい音が響く。トンテンカンと金槌の音。砥石の切れが良い音。炎が勇ましく燃える音。


「ウィル君の短剣は預けないの?」


 セレナさんが俺の短剣を見て言う。こいつを抜いて刃を炉の炎に照らすと良い色になる。


「いつも手入れは自分でやることにしてるから」

「ウィル君にとっての大事なものなんだね」

「うん……」


 養父が言っていた。俺が捨てられていたのを見つけた時、この短剣が側に置いてあったと。俺の家族がどんな人間か、今も生きているのか分からないが、この短剣は俺にとって唯一の手掛かりだ。

 派手さはなく物としては古そうだ。刃を見ると古い文字が刻まれているけど、これを読み解ける人には出会ったことがない。いつか分かる時が来るだろうか……。

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