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第21話 セレナさん

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

 一週間過ぎたがセレナはどうしているだろうか。何度か会ってはいるが俺の方も多少忙しい。情報収集の他、周囲の冒険者に色々聞かれることが増えた。

 というのは第五層についてだ。あそこの番人と戦って生還した俺の情報はそれなりに価値がある。


「とにかく実体が掴めない。出たり消えたり、魔法も効いてるのかどうか」

「アインは俺らも知ってる。あいつででも敵わないのかよ」

「対策を練り直さないとな……」


 それで命を落とす人が減ればあの戦いも無駄じゃなかったと思える。番人を討伐できればなお良いんだが。


「おいウィル」


 その日、意外な人物が声を掛けてきた。獣人のガロ。前にコンビを組んでいた相手だが解消して以来久しぶりの対面だ。


「小ぎれいになったもんだな」

「何か用かいガロ?」

「お前最近エルフ女とつるんでるって聞いたが」

「それがどうかした?」


 正直言って避けてた相手だ、あまり良い気分じゃないし関係ないだろうに。


「多分その女だけど、酒場で飲んだくれてるぞ」

「は?」

「仲間なら面倒見てやれ」


 何だか嫌な予感がする。ガロに礼を言って駆けだした。


「うわぁ……」


 酒場に着くと酒臭いエルフがいた。


「おうウィル、来てくれたか」

「マスター、どれくらい飲んでるの?」

「もう五時間ぐらいかな」

「あれぇウィル君? さっきまでの犬の人は~?」




 マスターに迷惑がかかるのでセレナを連れ出す。フラフラ揺れて危なっかしいなコレ。


「セレナさん歩けますか?」

「おんぶ~」


 なんだろうこの生き物。などと思いつつ、脇から支えてセレナの泊まる宿まで連れていく。ちくしょう死体の方がまだ運びやすい。


「ぐぇ~パパ~」

「パパではない」


 いったい何が見えているんだ。柔らかい感触がするけど重さと酒の臭いでそれどころじゃない。


 ようやく宿に着いた頃には落ち着いてきたセレナ。部屋に担ぎ込むとベッドに座らせる。


「何がどうしてこうなったんです?」

「……うう」


 俺の問いにセレナはボロボロと泣き出してしまった。


「んぎぎ、自分が情けなくなってぇ」

「一週間で潰れるの早すぎますよ」

「<冒険者ギルド>さぁ、書類審査で落ちちゃって……」


 取り出された履歴書を見てつい眉をしかめる。


「あの、いくつか捕縛歴があるんですけど」

「放浪時代が長くてその間に……色々あってね。テヘッ」


 テヘではない。しかし正直に書くんだな、後で調べられたら罰則モノだけど。


「それでさ、そのへんの私設ギルドに入ろうとしたら腕試しするって言われて」

「打ちのめしちゃった?」

「どうして分かるの?」


 話の流れで分かるよ。相手側を怒らせて追い出されたのか。


「あんなに弱いと思わなくて……」

「まあ、弱いギルドだと分かって時間が省けたと思えば」

「それでね、その後ね」

「まだあるんだ」

「へこんで歩いてたら犬の人が話しかけてきてさあ」


 ガロだな。ここで話がつながってきた。


「私の剣が紛い物だって言ってきて」

「……どこで買ったんです?」

「この町の露天商。三日ぐらい前に」


 これもよくある話だ。俺は思わず天を仰ぐ。


「そいつ探しに行ったらもぬけの殻なのよ。あの詐欺師、何がドラゴンの鱗も貫く剣だよ~!」

「それで現実逃避にヤケ酒してたんすか」

「あたしはもうダメだぁ、冒険者なんて向いてねぇ、仕送りもしないといけないのに……」

「……迷宮行った時は出来るお姉さんぽかったのに」

「あれは知らない人ばっかりで、ボロ出さないようにしてたから……」


 知ってる俺にもボロは出さないでほしかったかな。


「セレナさん」

「はい……」

「俺と組みましょう」

「ふぇっ」


 一度は断ってしまったけど今度は俺からだ。


「えっとウィル君、こんなざま見た後で情けかけなくてもいいから」

「かけますよ。一緒に戦った大事な仲間、放っておけないもの」

「仲間……」


 セレナさんの表情が明るくなってドアップに、というか抱きついて来た。


「ウィルく~~~ん!」

「うへっ」

「実は前から出来る弟っぽいと思ってたんだよ~!」


 喜んでいいのか微妙な気分だが、あと酒臭いが、これで新しい仲間が決まった。再スタートだ。




 翌日、二日酔いのセレナさんを連れて町を歩く。


「ううん、今日はどこに行くの?」

「この一週間で情報を集めてたんだけど」

「あっ、それなら私も気になる話を見つけたの」


 じゃんっ、とチラシを見せるセレナさん。『すぐできる、誰でも深層到達スゴ技教えます!』という字面が踊った。


「ためになる話が聞けるかも」

「セレナさん、それも詐欺みたいなもんです」

「えっ、えぇぇぇぇ」

「ズブの素人相手にそれっぽい話して金取るような奴らですよ」


 それより俺が行きたいのはここ、帝都守備隊の詰所だ。皇太子など帝国の要人たちはサンブリッジへ逃れたが、一定数の軍隊が治安維持のため帝都に留まっている。


「兵隊に用事なの?」

「ここの遺失物保管所にね。前に四層で見つけたもの覚えてます?」

「……なんだっけ?」


 ジョン・オーウェンを捜すために第五層を目指していたあの時。第四層で見つけた野営跡、そこで見つけた遺失物があった。


「あの時はジョンの捜索が本命だったから、見つけた荷物は詰所に届けるだけで終わったけど。昨日ようやく思い出したんだ」


 見つけた荷物の中に手記があり、持ち主の名前に「ホセ」とあったのを思い出したんだ。


「あぁ、エドウィン殿下が捜してる、なんとかかんとかの、それ」

「賢者ホセね。四層まで来てたんだ」


 思わぬところから出た手掛かり、それを求めて詰所の兵士を訪ねる。


「昨日申請のあった少年か」


 奥に通されると様々な物品の保管所に案内された。


「通常、遺失物は一般人に公開できないが、行方不明者と関わりあること、発見者でもあるし許可が下りた。ただし持ち出しは禁じるからな」

「ありがとうございます」

「……ところでそちらの女は具合悪そうだが?」

「気にしないでください」


 机の上にホセの持ち物一式が広げられる。どれも放置され傷んでいるが手記の文字は十分判読できるな。


「ホセの手掛かりを掴めるか、調査の足跡を見つけられるか……」


 俺たちはドキドキしながら手記を開く。

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