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第20話 リスタート

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆賢者ホセの手掛かりを探す。

 帝都に戻ってきた。サンブリッジでの出会いは新たな活力を与えてくれている。俺は冒険者として迷宮に挑むぞ。


 ……となると何から始めるべきか。まず当面の目標は皇太子の依頼だろう。“賢者ホセ”を捜す。その人は迷宮について何らかの手掛かりを残している可能性があった。


 とはいえ捜すための手掛かりがない。捜索願や情報筋に当たるとしてもすでに一年以上音沙汰なしと来ている。簡単にはいかないだろう。


 そして仲間。何をするにも誰かの助けがいる。冒険者のギルドに入るかパーティーメンバーを募集するか。

 今までで募集する側になったことはない。これには金がいるけどマリアンにもらった報酬では頭金がいいところ、パーティーを組んで維持していくにはもっと金がいる。……こう考えてみると道は長く険しいな、俺は一人が気楽だし。


 手始めにホセの情報から探すことにした。墓守爺さんを訪ねて依頼を漁ると古い捜索願いが見つかる。


「その依頼は宮廷から出されているが一向に見つかる気配がしないな」

「この人は一人で潜ってたのか。迂闊なのか、実力者が迷宮に呑まれたのか」

「目撃情報もほとんどないが、捜すのか?」


 しかしホセという名はどこかで聞いた気もする。五里霧中というわけでもないはずだ。


「いたいた!」


 聞き覚えのある声に俺は振り返る。


「セレナさん!?」

「ここなら見つかると思った」


 俺の存在が遺体安置所と紐づけられているが、それはいい。


「また帝都で用事ですか?」

「用事というのはそうね。今回は長い滞在になりそうだけど」

「長いって?」

「私も迷宮の秘密を知りたくなったの」

「それじゃあセレナさんも冒険者になるってこと?」

「そういうこと。よろしくね先輩」




 再会を祝して、というには会ったばかりだが。共に迷宮で戦った者同士、ゆっくり語る時間もなかったのは事実。なじみの飯屋に案内するとその日の昼食を共にした。


「そっか、ウッズさんは故郷に……」

「傷は治ってましたよ。それでも気持ちが続かなくなったみたいで」


 去る者がいれば新たに訪れる者もいる、セレナが良い例だ。


「ウィル君はもう次の仕事を探していたの?」

「ええ、皇太子殿下の話を確認してました。賢者ホセという人、確かに捜索願が出てましたね」

「じゃあ当面はその人を捜すのが目標ね。一緒に頑張ろ!」

「はい?」

「え?」


 テンションの差に戸惑う。


「あ、そっか。ウィル君はもう仲間が決まってるんだね」

「いえ、決まってません」

「そうなの。じゃあ私と組まない?」


 直球で来る人だなあ。セレナの腕前は知っている。信頼もできそうだ。しかし返事が喉に引っかかって中々出てこない。


「嬉しいですけど俺は先月相棒に見限られたばかりで。セレナさんなら良いパーティーに誘われるかもしれませんよ」


 ……言ってしまった。相手から誘ってくれるなんてチャンスなのについ遠ざけてしまった。情けない俺。


「そう? まあすぐに決めなくてもいいけど」


 話はそれで一旦終わったが、食後にセレナをある場所に案内した。


「ここが<冒険者ギルド>の帝都支部です」


 荒れ果てた帝都にあって一際手入れの行き届いた建物がある。大陸中の冒険者を束ねる<冒険者ギルド>、その帝都における拠点だ。


「ここが冒険者の集う場所……」


 多くの冒険者がここで冒険者登録し仲間の募集、仕事の斡旋などに活用している。他にも情報の共有や登録者優待の施設、店舗などもあり様々な点でサポートを受けられるのだ。


「ウィル君も登録してるのね」

「いや、俺はまだできない」

「そうなの?」


 冒険者登録にはいくつか条件がある。中でも俺に痛いのは年齢と身元確認だ。


 簡潔に言うと若年者と犯罪者の登録はお断りである。俺は拾われての放浪生活だったから、戸籍はおろか身元を明らかにする情報が皆無ときてる。誰かの紹介状でもあれば認可されるらしいけど……。


「紹介状なら皇太子殿下に」

「それでも年齢が足りないのはどうしようもないから」

「そっかー」


 実際、俺も登録できたら色々と便利だろうなとは思う。<冒険者ギルド>は地下の迷宮攻略でも中心的な役割を果たしていた。中でも有名なパーティーに<ユリシーズ>と称する一団がいるけど、彼らは迷宮第四層の番人を討伐した功労者だ。


 でも縁がないものは仕方ない。中までは入らず次に案内したのは酒場だ。


「あ、知ってる。酒場も情報が集まる場所でしょ」

「そういうこと」


 ギルドで登録できない、する気のない人なんかは酒場で直接やり取りすることも多い。俺はまだ酒は飲めないけどよく顔を出している。


「マスター、色々と話を聞かせてあげてよ」

「ほぅエルフとは珍しいな」

「お酒は人間のものでも好きだよ」

「酒も飲む相手は選ばないさ」


 まだ早いけどセレナにグラスが出され、一緒に冒険者向けの情報リストを持ってきてくれた。


「<冒険者ギルド>も良いが私設ギルドという手もある」

「私設ギルド?」


 私設ギルドとは<冒険者ギルド>が帝国公認の組織であることから区別する俗称で、規模は小さいが大組織の束縛を受けず様々なニーズを満たしている。

 あるものは貴族のお抱え集団、あるものは魔術師の調査隊、またあるものは完全に趣味の集いなど。中には犯罪者まがいの連中もいるし実力も玉石混交なのが悩みどころか。


「活躍目覚ましいのは<ライブラ>だな。魔術協会の実働部隊で神秘があるところ何処にでも現れる。ただ協会員でなければ加われないから閉鎖的な連中だ」


 この<ライブラ>と先の<ユリシーズ>はかなりの実力派と有名であり、第五層を攻略するとしたらどちらかだろうと言われている。

 それから目ぼしいギルドを探してリストに目を通していった。


「こっちのギルドは『運命的な出会いが待ってる』だってさ、何の売り文句かな」

「<出会いの旅団>か、そこはお勧めしない。迷宮そっちのけでパーティーばかりしてる奴らだ。初めのうちは実力者もいたんだが空気が変わっちまった」

「この<クラブアーマー>っていうのは、三つ葉の騎士って感じ?」

「それは蟹の方のクラブだ。甲殻を鎧に使う変わった奴らだが腕は良い。蟹の臭いが気にならなけりゃ入ってみるかい」

「いやあ、どうかなあ……」


 酒場に置かれた掲示板にはメンバー募集の張り紙もある。


「『募集:剣士、戦士、鍵師、魔法使い、治療師』……ほぼ全部じゃない?」

「新規募集か壊滅したパーティーの補充かねえ」

「『メンバー急募。第五層の番人に挑む仲間求む』って大丈夫かなあ」

「あのデュラハンたちには勝てる気がしないけど……」


 いずにしろ規約や報酬で折り合わないことも少なくない、大手のギルドほどハードルも高くなる。逆に条件が緩くメンバーの入れ替わりが激しいギルドは何か問題を抱えていることが多いので注意だ。


「“パーティーは七度変わる”なんて言い方もある、いきなり上手くはいかねえさ。色々試してみるんだな」

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