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第19話 会談終えて

 俺は皇太子との会談を終えるとマリアンの元へ戻った。


「ウィルさん、どんなお話をしたんですか?」

「うん、色々ためになる話を」


 マリアンや皇太子との会話は俺の新たな進路を確定させた。帝都に戻ったら行動開始だ。


「……そうですか、また迷宮に潜るんですね」

「マリアンはやはり侯爵家を継ぐことになるので?」

「ええ、そうなるでしょうね。私が成人したら正式に家名を継承する予定です」

「そうですか、頑張って。マリアンなら上手くやっていけると思います」


 マリアンはまだ何か言いたそうだったが言葉にはならなかった。悲しみは残るだろうけど、多くの人に支えられて前に進んでほしい。


 俺は帝都へ帰る。その前にベッシにも挨拶をしておこう。


「ウィルよ、また迷宮に行くのなら話しておきたいことがある」

「なんですか?」

「第五層で戦ったデュラハンのことだ」


 その名は思い出しただけでも身がすくむ。俺たちパーティーを半ば壊滅させた番人たち。


「実際に戦ってみて色々思うところがあった」

「というと……」

「奴らの正体、“近衛騎士団”と関係があるかもしれぬ」

「近衛って、皇帝とかを守る人たちですか?」

「うむ。戦って気付いた、あれは帝国最強と謳われた近衛騎士たちの剣術だ」


 それが確かならあの強さも納得できるけど。手練れの冒険者だろうと一流の騎士たちに不意打ちされればひとたまりもない。


「でもどうして迷宮にそんな騎士が。近衛の亡霊ってことですか?」

「なんとも言えぬ。近衛騎士団はすでに解散しているのだ」

「解散?」

「皇帝オズワルド陛下が即位なされた時、どういう訳か即時解散を命じられた。もう30年は前のことだ」

「理由は分からないんですか?」

「分からぬ。一切謎のままよ」


 “狂帝”と呼ばれる皇帝オズワルド。その所業は多くの人が理解できないと言われるが。


「ただ同時期、近衛の中で七人だけ処刑された者たちがいた」


 七人が処刑……斬首。首の無い近衛騎士たち? ならば狂帝の守護霊というよりは怨霊に近いだろうか。


「このこと皇太子殿下にだけはお話してある」

「その殿下からは、皇帝の行方を探すようにと言われました」

「うむ、殿下はたびたび御父君のことを気に掛けておられる。手掛かりを見つけてほしい、ワシからも頼む」



***



「いずれ帝位に就かれるお方があのような素性の知れぬ少年にかまけては……」


 初老の宰相は不満げにエドウィンを見た。


「言ってくれるな宰相、ちょっとした好奇心だ」

「政務は滞らせませぬように」

「分かっているとも」


 会談を終えた庭園には静寂が戻っていた。聞こえるのは鳥のさえずり、風のそよぎ、庭師が仕事をする音ぐらい。


 皇太子エドウィンは席に着いたまま考え事をしている。あの少年、ウィルとの出会いは何かの兆しとなり得るのか。


「いかがでしたか?」


 側に立つセレナが問いかけた。ウィルについての感想を聞いている。


「素直で真面目な若者、あるいはそう見せかける嘘つきといったところか」


 エドウィンは冷静な観察眼で答えた。


「嘘つき、ですか?」

「引っかかる点がいくつかある。例えば彼の養父が仕えたというモーナイネン伯爵」

「そんな名前でしたね」

「半世紀も前に断絶した家だ。よって事実ではない」

「……養父の間違いを聞いた通りに話しているのかもしれません」

「それなら少年らしい間違いで構わないが。他にも彼が迷宮で生き抜く能力、勘が働くと言っていたがそれで説明がつくものとも思えぬ」


 何か秘密があるのか、隠しているのか。それは善悪いずれの領域か、そこまでは見通せない。


「お眼鏡にかないませんでしたか?」

「いや、期待しているとも。帝都を追われてはや七年、いい加減に埒を開けたい。彼は若いが将来性はある」


 手札は多いに越したことはない。多少質の悪い連中でも実力があれば取り立ててきた。

 エドウィンは他にも様々な手を打っている。帝都地下の財宝は冒険者たちにくれてやってよい。武勲を立てた者には爵位を与える約束もしている。全ては帝都をその手に取り戻すために。


 立ち上がったエドウィンは庭師を呼び寄せる。


「ご用命ですか?」

「あのウィルという少年の素性を知りたい。調べさせてくれ」


 その男はただの庭師ではない。社会に根を張る裏街道の人間だ。そうした界隈とのパイプもエドウィンが持つ手札の一つである。


「お任せください。皇室の隠し子だろうと調べ上げてご覧にいれましょう」

「そういうのはいいから」

「本当に違うのですね?」

「もう本当にいいから」


 ニッと笑いながら庭師はするりと消えていった。


「セレナはどうであった。前から迷宮には興味があったのだろう?」

「ええ、貴重な体験でした」

「そなたも迷宮に挑みたくなったか?」


 このエルフの娘はなかなか役立つが、側に留めておくより活発に動かした方が良いように思えた。


「殿下にお許しいただけるなら」

「良かろう、赴くままにするがいい」


 セレナが礼をしてこの場を去るとエドウィンは一人になる。――少しずつ事態が動こうとしている。かすかな手応えがあった。

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