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第14話 首の無い騎士たち

目的

◆冒険者ジョン・オーウェンを発見し連れ帰る。

「ライドォォォ!」


 ライドが死んだ。同郷のフォスが怒りと共に魔力を収束していく。これはあの魔法が出るか?


「ホーリーライト!!」


 聖なる光がデュラハンにぶつけられる。閃光の眩しさに目を覆ったが、細目を開けた俺はまた驚愕してしまう。


「いない……?」


 デュラハンの姿がまた消えている。


「光で消し去ったのか?」

「いや……手応えがなかった」

「隠れやがったのか、あの一瞬で」


 第五層の番人が壁と呼ばれる理由はこれか。まるで霧を掴むように性質が分からない。


「まだだ、逃がすかよ!」


 フォスが諦めていない。今度はさらに強力なスターライトの魔法を周囲にありったけ放つ。霧に反射して森が眩く輝いた。


 後には静寂が残る。


「ウィル、ライドの剣を使え」


 アインがライドの遺体を指さす。フォスは何も言わないので腰にあった剣を借りることにした。


「剣の扱いは分かるか?」

「昔、少しだけ教わった」

「しっかり握ってしっかり振れ」

「来たぞ」


 音も立てずに現れた。デュラハン、今度は三人、だと?


「いったい何人いるんだ!?」

「ダメだ戦えん、離れるぞ!」


 ベッシの判断、それが正しいと思う。アインとフォスは悔しそうだけど、すぐに切り替え後退した。


「こっちへ!」


 皆を先導していく。その方向が安全かは分からない。だが潜行して見つけた誰かがそこにいる。……これがもし探しているジョンならば目的を達成し帰還できる。


「走れ走れ!」


 視界が悪いし足場も悪い。やがて後方で剣戟の音が聞こえた。ベッシたちが斬り合いになっているのだろうか。


「ウィル君、振り返らないで」


 そう言われると振り返りたくなるが皆の努力を無にしたくもない。走れ、今はただ走れ。

 しかし何なんだあの魔物は、出たり消えたり。倒す方法はないのか?


 ――急停止。そのデュラハンが目の前にもう一人。心臓がきゅっと縮む気がした。


「ウィル君、下がって」

「セレナさん……」

「――」


 それは誰かの声。かすれた声が確かに聞こえた。


「エ――」

「これって……」

「――ルフ」

「デュラハンの声?」

「エルフを殺せ」


 ゾクリとした。セレナのことを言っているのか。そもそも首がないのに何で声が出るんだよ、意味不明なのも大概にしろ。


「エルフの女を逃がすな……」


 乾いて感情の薄い声。だが剣を構える姿に慈悲はない。


 トン――。セレナの手が俺の肩に乗る。自分が狙われるかもしれないってのに俺を守ろうとしてくれてるんだ。……何もせずにいられるか。




 ここ一番の集中力で“潜行”する。奴らは言葉を発した。ならば意思があるし何か仕掛けを隠しているはずだ。俺の意識を潜らせて敵を見極めろ、小さな動きも見逃すな。


『探せ……探せ……』


 奴らの意思が流れ込んでくる。


『エルフの女を殺せ……』


 エルフを探す、エルフを殺す、それがお前たちの目的なのか?


『ああ、ああどうか』


 何だと言うんだ。


『皇帝陛下、我らを御赦しください』




 ――パチリッ。何かに弾かれるように“潜行”が解けた。叩かれたりしたわけではない、感覚が弾かれたんだ。


「……お前は何者だ?」


 またデュラハンの声。首はないのに声は聞こえ、その目がこちらを見ているのが何となく分かる。


「セレナ、ウィル!」


 ベッシの声が近づいてくる。それを警戒したかデュラハンは後退した。


「……」

「……」


 ほんの数秒沈黙。やがてデュラハンは森の中に、霧の中に消えていく。


「諦めたの……?」

「……どうかな」


 セレナと一緒に息を吐く、体中の力が抜けた。そこにベッシが合流してくれたけれど、その姿に言葉が詰まる。


「アイン……」


 血塗れのアインがベッシに支えられていた。奴らにやられたのか。


「フォスは?」

「斬られた。助けられなかった」

「あの人まで……」


 セレナがアインに治癒魔法を試みるが出血が多い。


「もう少しで、騎士だったのにな、ちくしょう……」

「無理に喋るな」

「爺さん……見つかると……い……な……」


 傷は塞がっていく。だがアインの生命は徐々に弱まり、やがて鼓動が止まった。うつむくセレナ、誰も言葉を発することができなかった……。




 俺とセレナ、ベッシの三人だけが残った。デュラハンの攻撃は一旦止み、その隙に目的地へ急ぐ。


「本当にこの方角でよいのか?」


 不安に思うのは当然だ。俺の能力は誰も知らないし理解してもらえる類のものじゃないから。今は信じてくれとしか言えない。

 だいぶ進んだところで覚えのある木々、“潜行”で見た場所。そしてついに探し当てることができた。


「若君……!」


 ベッシの声が震える。それは間違いなくジョン・オーウェン。……その亡骸だった。


「……よく見つけてくれた」


 覚悟はしていただろう。それでもベッシはしばらく膝をついて黙りこくっていた。主君の子で幼少の頃から見守ってきたんだ、堪えるだろう。


「ウィル君」

「ええ」


 俺とセレナでジョンの亡骸と持ち物をまとめ、すぐに帰還の準備に入る。

 遺体は腐敗が始まっていた。致命傷と思われる刺し傷、彼もやはりデュラハンに殺されたのだろうか。


 ――ピリ、と脳を刺激される感覚。ジョンの体に触れると彼の記憶が流れ込んできた……。

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