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第13話 マンイーター

目的

◆冒険者ジョン・オーウェンを発見し連れ帰る。

「来たぞ!」


 四方から次々と伸びる触手。皆反応速く武器で斬り捨て捌いていく。


「本体を見極めろ!」


 ツバードが五感を研ぎ澄ますのを感じた。だが俺は戦いながら潜行するのが難しい。動き回っているのもあるが、いつもスイッチに使っている短剣を抜いてしまった。こうなると“潜行”の成功率が大きく下がるんだ。ここは俺も防御に専念するしかないか。


「きゃう!」


 伸びた触手がセレナの体に絡みつく。俺はすぐ飛びついて短剣で宿主を断ち切った。


「ありがと!」

「気を付けて、もっと来る」


 ここで無数の触手が一斉に襲い掛かるが、フォスの詠唱が一歩先んじた。


「シールドウォール!」


 薄い光の幕が壁となって触手を食い止めた。魔性を退ける結界の一種だ。


「長くはもたない、早く本体を見つけろ!」


 長引くとフォスの魔力が削がれる、早く状況を打開しなければ。

 ガクンッ、と体が引っ張られる。しまった、触手は目に見えるものだけじゃない。


「ウィル君!?」

「足下だ!」


 言いつつ俺の体は足から引っ張られていく。誰かの叫びが聞こえるが、それより俺は目を凝らして行きつく先を睨んだ。

 ……この先にいるはず。やがて俺の体は持ち上げられ、それを喰らおうとする本体が姿を現した。


「マンイーターだな!」


 巨大な花だ。その中心に隠されたもの、他者を喰らうための口が開く。俺を頭から飲み込もうというのだろうが。


「喰らえ!」


 リュックを脱いで奴の口に投げ込む。人間なら喉を圧迫され「うげっ」と言いそうな状況、かすかに触手が緩んだ。

 すかさず脱出した俺は地面に着地。本体が見えていれば戦える、マンイーターの根本に転がり込むと短剣を何度も突き込んだ。


「ちぃっ!?」


 もう少し、というところで再び触手に捕らえられる。だが今度は味方が駆けつけてくれた。


「おりゃぁ!」

「ライド!」


 ライドの斧でマンイーターの根本が断ち切られる。横倒しになったマンイーターはまだビチビチ動いていたが、本体にまで斧が叩き込まれると絶命した。


「危なかったな坊主」

「助かったよ」


 これで包囲の一角は崩れた。皆もこちらに駆けてきて危機を脱する。……と思ったがちょっと待て。


「何だ……?」


 マンイーターの口からリュックを取り戻すと、その奥に誰かが喰われているのが見えた。


「引っ張り出せ!」


 その何者かはすでに死んで消化されかかっていた。ジョンかもしれない、という言葉は飲み込む。切り開いて遺体を取り出した俺たちは奴らの群生地から逃れていった。




「この男は……」


 死体を調べてみるとジョンの仲間の一人と分かった。小屋の中の記憶で見た一人だ。


「ふむ……方角は間違っていなかったようだな」


 それが分かっただけでも自信が持てる。ここらを軸に周囲の捜索を進めればジョンが見つかるかもしれない。決意を強め捜索に挑む六人のパーティー。


「……あれ?」


 何か変だ。誰か足りない。ベッシ、セレナ、アイン、ライド、フォス、そして俺。


「ツバードがいない!」

「何だと!?」


 慌てて周囲を探すも見当たらない。まさかマンイーターに……。


「引き返そう」


 嫌な予感を振り払いつつ来た道を戻る。……見つけた。


 ツバードの猫顔が地面から俺たちを見上げている。すぐ近くには首のない体が倒れていた。


「なっ……これは……」


 歴戦のベッシでも戦慄している。争った形跡はない、ツバードは一太刀のもとに殺害されたのだ。


 衝撃はあった。だが皆すぐに臨戦態勢へと切り替える。ツバードを殺した敵が近くにいる。そしてその目星はほとんどついていた。


「番人がいるぞ」

「“デュラハン”……!」


 五層の壁と言われる難敵。俺たちに気付かれず、恐らくツバードにも抵抗を許さず殺害した。


「この日を待ってたぜ」


 アインが隻眼をぎらつかせるけど、俺は思わず帰還の巻物を確認してしまう。


 ツバードの遺体を回収する余裕はない。死に顔の瞼を閉じてやるとその場を離れた。


 それにしても痛い。まだジョンの姿を見つけていないのに一番感覚の優れた仲間を殺されてしまった。それは同時にツバードほど鋭い者でも不意を打たれたという恐ろしい事実を物語っている。


「良いか、目的は若君を発見することだ。無理に戦う必要はない」


 分かっちゃいるけど不安が心臓を圧迫する。俺自身、番人と呼ばれるクラスの敵は初めてだし。


「大丈夫よウィル君」

「セレナ、さん?」

「貴方の背中は守ってあげるから」


 セレナの目が強い輝きをしている。男として守られるだけというのは歯がゆい。だが戦闘力のなさは自覚している、代わりに役目を果たさなければ。


「少し集中させてもらえますか?」


 一旦足を止め、俺は意識を潜行させた。


 まず周囲。色彩のなくなった森を見通す。……近くに番人らしき敵は見当たらない。ツバードを殺すとすぐ遠くへ離れたのか。

 もっと広く、怪しい姿を探せ。木々が邪魔だが俯瞰するように感じろ。……あれは人食い植物。動く木、何かの動物、いったいどれが番人だ……。


 ――あれは人? 倒れている。少し遠いがジョンの可能性がある。


 ……立ち上がって方角を確認。番人は見つからなかったが目的さえ果たせば。


「ウィル!」


 セレナの声、同時に突き飛ばされ地面を転がる俺。何がなに?


 気付けばセレナの顔が目の前、近い近い。そこまできて彼女が俺に覆いかぶさっている状態を把握した。


 ――キィン!


 金属音。アインが誰かと打ち合っている。


「立って、身を守って!」

「まさか奴が……」


 デュラハン!

 見た目は鎧をまとった騎士だが本当に首がないぞ。というかどこから現れた?


「野郎!」


 アインとデュラハンの斬り合いだ。高速の剣戟、攻撃と防御が激しく入れ替わる。その背後からベッシが斬りかかった。卑怯だけど関係ない行けっ。


「――っ!?」


 剣が空を切る。敵の姿が跡形もなく消えていた。


「ぐっ」


 今度は別の方向からくぐもった声。ライドが膝をついている。そして何故だ、ライドの背後にデュラハンが立っている。


「ライド……!?」


 フォスの声にもはや反応しない。ライドは口から血の泡を吹きながら地に伏した。

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