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第12話 霧の森

目的

◆冒険者ジョン・オーウェンを発見し連れ帰る。

==============================================


「侯爵の容態はどうか?」


 ベッシの視線の先にはマリアンの横顔。向かい合って座るのは帝国の皇太子である。


「思わしくありません」

「覚悟せねばならぬか……」


 オーウェン侯爵の死が近い。それは誰もが認めねばならなかったが問題は後継者である。侯爵は子息を相次いで亡くし、残された末子ジョンは冒険者となっていた。


「帝都へ迎えに行くのだな?」

「はい。兄は地下迷宮に度々挑んでいる様子です」

「ではこうしている間にも、彼は迷宮の中ということもありえるか」

「はい……」

「見つけ出さねばならないな」

「殿下」


 視界に入ってくる女がいた。耳の長いエルフ、皇太子に従う傭兵のようなものだ。


「もしもの時のために私が同行いたしましょうか?」

「頼めるかセレナ」


 皇太子の配慮にマリアンは深く頭を下げた。


==============================================




 第五層へと続く螺旋階段は長く深い。最初に下りた時は地獄まで続くのかと不安になったものだ。


「階段が変わったな」


 古城の石造りだった階段がいつしか木製に変わっている。木製というよりは木そのものか。

 俺たちは今、巨大な大樹の中を歩いている。階層が変わった証拠だ。


 やがて階段を下り切ると俺たちは暗い森に足を踏み入れた。帝都地下迷宮第五層、霧の森だ。


「下水道、お城、今度は森。取り留めのない組み合わせね」


 セレナの言う通りパターンが分からない構造だ、センスが無い。この迷宮を造った奴は思い付きで階層を重ねているに違いない。


「この五層まで来れたことに感謝する」


 ベッシが改まって言う。


「ここが危険地帯であることは、ワシよりそなたらがよく知っているだろう。命の危機を感じたら迷わず帰還の巻物を使え」


 そう言うベッシが一番最後まで帰還しないだろうなと感じた。あるいは死に場所ぐらいに思っているかも。


「分かってるよ爺さん。だがここまで来たんだ、番人に一発蹴り入れて、御曹司も見つけて報酬をいただくぜ」


 リベンジに来たというアインは自信がありそうだ。番人対策をしてきたというフォスたちも同じく。


「では行くとしよう」




 第五層にまともな地図はない。それだけ探索が進んでいないわけだが序盤のセオリーと呼べるものはある。


「まず森小屋を目指す」


 それは霧の森にぽつんとある小屋で数少ない安全地帯となっている。


「うわ、おっきい木」


 セレナが見上げる巨木は樹齢何年か、表面には複雑なしわが刻まれ人の顔のよう。樹上は枝葉がうっそうとして屋根のように俺たちを覆い隠す。


「森としてはだいぶ古そうだ」

「ここも現実にある森を元にしているのかねえ」

「木は北部に生えていのと同じだ」


 そう言ったのはライドである。


「アンタ北部の出かい?」

「そうだ。ちなみにフォスとあのウッズも、四人で故郷から出てきた仲間さ」

「四人? そいつはどこにいるんだ?」

「先に死んじまった」


 皆が雑談する間も俺とツバードは周囲に神経を尖らす。俺も五層深く分け入るのは初めてだ、さすがに緊張する。

 見通しは悪い。霧の濃さと木々の暗さが合わさって10ヤード先がやっと見える程度だ。


「1インチ先はダークネスというやつか」

「幽霊でも出そうな森だぜ」

「目印を見落とすなよ」


 小屋へのルートは木に刻まれた目印や標識で確保されている。先人たちの努力の跡だ。


「あれがそうだ」


 見つけた。質素でささやかな木の小屋がぽつりと建っている。七人にはちょいと狭いが中に入ってみた。


「なんだか落ち着く場所ね」


 地の底とは思えない温かさがあった。危険地帯にあってここだけは魔物も立ち入らない、さながら聖域のような場所だ。


「この臭い……」


 ここに来てツバードの鼻が反応した。小屋の中は少し前に誰かが使った、そんな様子である。


「たぶんジョンの臭い」

「御曹司もここ寝泊まりしたようだな」


 俺もすかさず”潜行”してみる。意識を深く潜らせ日を遡った。


 ……いた。冒険者が四人、見覚えのある顔。ベッシの夢の中で見たジョンだ。他の何名かも覚えている、ジョンを置き去りにしてしまった奴らだな。


 彼らはここにいた。そして霧の森深くに挑んでいったのだ。




「 ―― 行かねばならな 」


 誰かの記憶。ジョン……ではない。もっと古い?


「ここ もう危険だ、遠く 逃げ延びて  」


 男がいる。もう一人女? もっと前に滞在した冒険者か?




「ウィル君、大丈夫?」


 セレナの声。俺はボーっとしていたみたいだ。


「大丈夫です。ジョンの行先だけど、こちらを探してみませんか?」


 俺の指した方角は記憶の中で彼らが進んでいった道だ。


「根拠でもあるのか?」

「ここからだと一番道が開けてる。進むならまずここかと」

「ふうむ、今までもお前の言葉は当たることがあったし、他に手掛かりもない」


 ベッシも頷き歩き出す。


 視界が悪いため全員神経を尖らせながら進んだ。また道順も気になる。道中目立つ木には目印を付けているが心もとない。


「帰る時は巻物で地上まで飛べば良いさ」


 ライドはそう言うが、戻ってくることはできないから最後の手段だな。


「待て、変な臭いする」


 ツバードの言葉に足を止め、円陣を組んで互いをカバー。


「五層にいる魔物といえば……」

「こういう時はまずアレかな……来るぞ!」


 周囲から触手が伸びて襲い掛かる。俺たちは人食い植物の密生地に踏み込んでいたようだ。

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