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第154話 夢の後先

目的

◆決着をつける。

 最後の叫びが黎明の空で残響となった。


「元気で……」


 虚空に手を振り別れを終える。


 塔は崩落し始めている。そして俺の体も実体を失おうとしていた。


 ドリームズ・エンドを抜く。長いこと俺を助けてくれた相棒、その刃を床に添える。


 終わりにしよう。これでナイメリアの顕現は完全に断たれるはずだ。


「まったく酷い終わり方だわ」


 声がして振り返るとメアが佇んでいた。ナイメリアの化身の一つ、夢の少女。


「……遅かったな」

「あのクソ賢者のせいでこの様よ」

「おかげで俺たちの勝ちだ」

「ええ、今回は負けを認めるしかないみたいね」


 メアの様子はいじけた子供みたいで少し可笑しかった。俺の方は心が澄んでいて敵愾心(てきがいしん)も失せている。


「なあメア、気になってたことがあるんだ」

「ふぅん、最後だから聞いてあげる」

「君は前に、俺を引き止めるような物言いをしていた」


 俺が深く“潜行”しようとすると彼女に呼び止められることが何度かあった。


「深く潜るほどにオズワルドの記憶が蘇っていった。それは君にとって都合が良いことだったんじゃないか?」

「……楽しそうだったから」


 それがメアの答えだった。


「全てを忘れ冒険者として生きる貴方を見てたら、それはそれで幸せなのかもって思ったのよ」

「……だから止めるそぶりを見せたのか」

「何度も言ったでしょう、私は貴方の味方なのよ」

「ああ、そうだったな」


 その言葉に偽りはないような気がした。決裂はしたがメアなりのやり方で肩入れしてくれてたのだと今は思える。


「貴方の夢を叶えてあげたかった。だって私、貴方たち人間が大好きなんだもの。美しさも醜さも、喜びも哀しみも……」

「喜んでいいのか微妙だが……でも感謝してるところがあるのも事実だ」

「そう?」

「良い夢が見られたよ」


 多くの仲間を得た。めくるめく冒険があった。もう会えないと思っていた人に会えた。


「でも夢は終わらせなければ。たとえ消えるとしても、俺は朝を迎えたいんだ」

「まったく憎らしいこと……」


 メアの目が閉じられた。もう十分だと表情が告げている。


 改めてドリームズ・エンドを握り直す。不思議と体は軽い、消滅しかかっているのだから当然か。


「これで――」


 床に突き刺す。ナイメリアが創り出した空間を引き裂く。


「終わりだ!」


 虚空が口を開け鮮やかな光が迸る。その輝きを記憶に焼き付けながら俺は目をつむった。




 オズワルドの旅は終わった。



***



 薄く開いた目から光が飛び込む。あたしの目は何年も陽の光を見てないように驚いた。


 意識が覚醒して自分が眠っていたのだと気付く。横になった体を起こそうとした。だけど体が萎えちゃって力が入らない。


「え――」


 扉の方で声がした。目をまん丸くした女性が覗き込んでいる。観察してぼんやり思い出した、この人が自分の母親だと。


「母さん、やっぱり外の様子がおかしいぞ!」

「そんなことより見て、アイリーンが!」


 あれは父の声だ。そしてここはあたしの家。当たり前のことを一つずつ確認しながら頭と体を慣らしていく。


 長い、とても長い夢を見ていた気がする。内容はよく思い出せないけど、目が覚めてとても寂しい気持ちが残っていた。

 その夢で誰かが笑っていた気がする。


「……あなたは誰?」


 笑いながら泣いていた。その涙の意味が思い出せなくて、あたしの目からも涙がこぼれていた。

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