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第144話 探求の風

目的

◆夢幻の塔に侵入する。

◆異形の神ナイメリアの顕現を阻止する。

◆ナイメリアに囚われた人々を解放する。

◆賢者ホセを倒す。

『貴様……血迷ったか!?』


 ホセが振るったドリームズ・エンド、空間の裂け目を広げると同時にナイメリアを傷つけた。


「すまない、気が変わったのだよ」

『何だと?』

「探求心さ。貴様らの住む異次元がどうなっているのか、ずっと興味があったのだよ」

『……そんなことで!?』


 そんな言葉で契約の破棄を突きつける。ホセ、お前って奴は……。


「ウィル!」


 ホセがドリームズ・エンドを放った。淡い光に包まれてゆっくり落下、俺の手元に舞い降りる。

 戻ってきた。俺の片腕のような切り札、夢を打ち破るアーティファクトが。


「君に返すよ。そいつを持って塔の頂上を目指せ。捕らわれた者たちも中にいる」

「ホセ、全部あんたの計算どおりだったんじゃないのか?」


 急にそんな考えが浮かぶ。そうだ、地下九層のあの時から。


 引き際を(わきま)えない俺に撤退を促すために。迷宮で無敵だったナイメリアを白日の下に晒すため。ドリームズ・エンドを餌に近づき、そして今俺の手元にこいつが返ってきた。全て計算ずくの裏切りだったのではないか?


「ウィル、異形の神を相手に本心を偽るのは不可能なのだよ」

「そういうものか……」

「だが心のどこかで期待していた。君が私を打ち負かしてくれるのではないかと」

「俺が?」

「君はやはりエレアに似ている。あの夏の日に見た太陽の輝きがその瞳に宿っている」

「だとしても俺一人じゃないさ」


 隣を見ればゴッツとファリエドがいる。一人じゃない。ホセは一人じゃなかったぞ。


「ホセ……いやユースフ」

「ファリエド、ゴッツ、悪いが行ってくるよ」

「ああもう行け、さっさと行っちまえ!」

「ハハッ……そしてウィル、最後に押し付けることになってすまないが、皆のこと」


 皆……エドウィン、そして共に戦った<ナイトシーカー>の仲間たち。


「頼むよ」

「……ああ、任せてくれ!」


 最後にホセは笑った気がした。そして一瞬の光が弾けると裂け目は消えていた。




 行ってしまった。賢者ホセは探求者に戻って異次元へ旅立ち、後には風だけが吹いた。


「……あの野郎、好き勝手やったまま消えやがった」

「奴の根底にまだあの子供じみた部分が残っていた、ということだ」


 呆れと苦笑い。だが安心してるようにも見える二人。


「それを思い出せたのはゴッツとファリエド、信頼し合った仲間のおかげだと思うよ」

「それはない」

「ねえな」


 なんで?


「それより急がねば、ナイメリアは消滅したわけではない」

「やはり塔を登って決着をつけるしかねえようだな」


 夢幻の塔、その巨大な扉。ホセの守りは消失し阻む者はもうない。


 俺はここまで来てくれた皆に振り返る。


「皆の者、礼を言う。ここから先は我々三人で進む、皆は戻って大結界に備えてくれ」


 これが本当の別れになるだろう。惜別の念を抑え、皇帝の顔で感謝の言葉を紡ぐ。


「陛下……」

「オズワルド」

「ウィル……」

「ウィル様……」


 クロエが手を伸ばす。まだ立ち上がれない体で懸命に。俺は側まで行き手を握った。


「クロエ、短い間だったけどたくさん世話になった」

「私は……私は貴方に……」


 握られた手に小さな力がこもる。言葉を探しているようなクロエ、その体に腕を回した。


「今までありがとう、マリアンと仲良く……」

「……」


 立ち上がって歩み出す。クロエの瞳がうるんでいた気がした。


 視線を移し夢幻の塔を見上げた。いったい何階まであるのか、近くで見る巨塔は人間の築ける建造物でないと実感させる。歪で無秩序、瓦礫の寄せ集めでよくこんなものを……。


「さて、あの扉をどうするかだが」

「へっ、考えるまでもねえ」


 走り出したゴッツ、無造作に振りかぶったハンマーで扉を一撃、見事粉砕してのけた。


「どんなもんよ!」

「ほんとに死にかけの老人なのかよ」


 最後に一度だけ皆へ振り向くと、手を振って別れを告げた。忠義、義理、利害、想いはそれぞれだが一人一人戦い抜いてくれた。それもここまで、残った三人で塔に進む。


「……皇帝陛下万歳!」

「帝国万歳!」


 帝国の兵士たちから喚声が聞こえた。その声もやがて遠くなり未知の領域へ。




「へっ、中はしっかりしてやがる」


 帝都の瓦礫を寄せ集めて造られた塔。その通路はすでに一種の様式で塗り替えられていた。築き上げ、塗り上げる。そうして塔の全容が整った時こそ、ナイメリアがこの世界への進出を果たす時か。


「オズワルド、迷宮で捕らわれた者たちのことだが……」


 ファリエドが確認するように口を開く。


「ホセがこの中だと言っていたけど」

「覚悟しておいたほうがいい」

「……」

「ナイメリアは彼らを夢に取りこみつつ契約を迫っているはずだ。それに(なび)いた者はホセ同様、この塔の守護者となる」

「……それはエドウィンも?」

「十分にありえる」


 エドウィン、セレナさん、ガロ、アイリーン、そして多くの冒険者たち……。


「いいかオズワルド、そいつらに会っても情をかけるな」

「ゴッツ……」

「ワシらにも構う必要はねえ。一人になっても上だけを目指せ」


 ここから先は待ったなし、俺たちが死ぬか夢が終わるかだ。


「光が……」


 長い通路を抜け俺たちが出た場所、塔の中央フロアと言ったところか。


 そこは直線と曲線が混じったような、歪と緻密が交互に表れるような不可思議な空間。魔物の像が俺たちを見下ろし、壁の模様が目に見えてくる。


 邪悪で神聖、混沌にして荘厳。内部は吹き抜けになっているが頂上が見えない。柱と階段が入り組んで構造物を成し、それとは別に謎の浮遊物が島のように漂っている。


「……いやがるな」

「ナイメリアの戦士たちだ」


 フロアに出た瞬間から感じていた、敵の視線とただならぬ気配。これが最後の戦いか。


「行こう」

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