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第142話 鏡面

目的

◆夢幻の塔に侵入する。

◆異形の神ナイメリアの顕現を阻止する。

◆ナイメリアに囚われた人々を解放する。

◆賢者ホセを倒す。

「我が主よ」


 ホセが空を見上げて応じる。


『賢者ホセ、やり方はそなたに一任する。だが人間どもを侮るでないぞ』

「ご心配めされるな、彼らの手の内は知り尽くしています」


 異形の神々、奴らは通常この世界に干渉することはできない。だがその尖兵としてホセがいる。


「彼らが企んでいる大結界、あれも術式は把握しています。発動したところで脅威とはなりません」

『ふむ、よかろう。引き続きそなたに任せる、己が願いのためにも尽力せよ』

「承知」


 ……やはりホセは大結界の破り方を知っている、ナイメリアの封印はできない。戦って勝つしかないのか、この賢者ホセに。


「やるつもりかねオズワルド?」

「……」

「君の切り札は私が封じた、それでも戦うと?」


 俺のドリームズ・エンドはホセに破壊されてしまった。それでも――。


 盾を構えながら距離を詰める。ホセは杖を――使わず手から魔法を放射した。


「ぐうっ!」


 強烈な熱線が襲う。だがドワーフのおっちゃんが鍛えた盾は持ちこたえてくれた。


 俺がホセにつけ入るとしたらここしかない。奴は手加減している、俺たちを殺そうとはしていない。優しさか甘さか両方か、卑怯は承知でつけ込む。


「少し強くしてもよさそうだな」


 今度は岩の塊が次々と飛んで来る、これは転がりつつ回避。そしてまた距離を詰める。


「――っ」


 その鼻先に魔法の光、強烈な爆発。激しい衝撃が全身を打つ。鼓膜が悲鳴を上げ脳が揺さぶられる。


「ウィル様!?」


 クロエの声が聞こえる。ならまだ生きてる。盾はバラバラになったけど立ち上がれる。


 俺が立つのを待っていたかのように追撃、今度は炎が鳥の形を取って襲いかかる。耐えろ。ニンフ族からもらったマントが身を守ってくれる。


「ホセェ!」


 這うようにして前に抜けた。マントはボロボロになったけどホセの眼前。手には剣、白兵戦を挑む。


 ――キィン。


 振りぬいた剣。呆気ない音を立てて砕けた。賢者の杖で打ち砕かれた。


「くそっ!」


 杖に込められた魔力だけでこの様か。続くホセの反撃をゴロゴロ無様に回避するも、せっかく詰めた距離はまた開いてしまった。


「残念だったな」

「……まだ……まだだ」


 目を閉じて集中。意識を解き放つ感覚で広げていく……。


「無駄だオズワルド」

「……」

「ここはもう君の迷宮ではない。君はもう夢から覚めているのだよ」


 “潜行”はできない。意味をなさない。分かってはいたが、分かってはいたけど。


「オズワルド、君はもう無力だ」

「……」

「愚かで頑固で向こう見ず、そして多くの命を殺めた皇帝」

「……っ」

「それでも私は期待した。君の願いは我等が抱いた原初の願いに近い」


 願い……。俺は平和を願った。奪った命と失われた家族が無駄にならぬよう種族の融和を求めた。


「オズワルド、君は多くの皇族たちの中でも取り分けエレアを思い出させる。だがマクベタスが生んだ種族間の軋轢を捌けるほど君は器用ではなかった」

「……ああ、そうだよ」

「だから私は別の期待を抱いた。君の歩む道が閉ざされた時、君の抱く希望が絶望に変わる時、その慟哭(どうこく)が異形の神を呼び寄せる可能性を見た」

「まさかお前は……!」


 全て読み通りだったとでも言うのか。いずれ俺がナイメリアに(すが)ると。そうして生まれた迷宮に潜り、望みを叶えてもらうため、この日が来るのずっとを待っていたのか。


「今日この日、私の宿願は叶う。だがオズワルド、君にもその資格がある」

「今さらナイメリアに願うことなど無い!」


 異形の神々のやりようを見た後で一層気持ちは強まった。降る気はない。


「強情なところは相変わらずだ。しかし――」


 言葉が途切れる。風、吹き抜けると同時に影。


「――クロエ!?」

「ハァァァァァァ!」


 いつの間に回り込んだ、クロエがホセに閃光の回し蹴り。受けるホセ、ガードした腕が目に見えてひしゃげる。折れた。頭にヒットしていれば頭蓋を砕いたろう一撃。だがまだホセは生きている。


「クロエ、君に望むことはないのかね?」

「黙ってください!」

「ふむ、沈黙は時に便利なものだ」


 ――ホセの杖から小さな雷光が走った。するとクロエは糸の切れた人形のように崩れ落ちる。


「う……」

「クロエ!」

「軽く痺れさせただけだ。もっとも君の答え次第だが」

「どういう意味だ?」

「取り返しのつかない傷を負えば考えも変わるのではないかな?」


 賢者の杖が不気味に光る。


「待て止めろ、止めてくれ」


 背筋が冷たくなる。体の痛みも吹き飛んだ。


「ホセ、てめぇは!」

「そこまで堕ちたか」


 ゴッツとファリエドが立ち上がったものの手が出せない。手詰まりか、何か手は……。


「諦めたまえ。やがて全ての者に時が満ちる、それを待つが良い」


 諦める……仲間を、家族をナイメリアに捕えられたまま。彼らはどうなる、夢を見せられ何を想う。


 ……視界の端で何か動いた。次の瞬間、黒い影がホセに飛び掛かる。


「ニャアー!!!!!!」

「君は――」


 マイケルの声! だが目に映ったシルエットは大きい。あれは……鏡?


 ホセも躊躇した、その一瞬に鏡が光を発する。あれはまさか、迷宮にいた魔物ファントムミラー!?


 ホセの動きが止まっている。鏡が見せる幻覚に囚われた刹那の時間、今がチャンス。


「ホセェ!」


 勢いをつけた拳で思い切り殴りぬく。


「――ちぃっ!」


 大きく後退したホセ、そこにゴッツも追撃のハンマー。ホセは風の如く舞って避けるが、ファリエドの放った閃光が爆発を起こす。


 煙を裂いて姿を見せたホセ、軽いがダメージはあるようだ。


「マイケル、君まで私の邪魔をするのか」

「にゃー、邪魔したのはホセだにゃー!」

「私が?」

「綺麗なお嬢さんの屋敷で飼い猫になる夢が! 屋敷がぶっ壊れて台無しにゃあ!」


 お前、元は迷宮の魔物なのにそこまで……。


「おい、こいつはどうなってんだ?」

「こいつはネコモドキっていう魔物で」

「そうじゃねえこの鏡だ」

「鏡……」


 マイケルがどこかから持ってきたファントムミラー。その鏡面にゴッツが見入っていた。


「え、これは……?」


 冒険者風の人々が映っている。背が低いのはドワーフ、尻尾がある獣人など種族は様々。だが顔が空白になっていて何者か分からない。

 ……いや、どこか既視感がある。そもそもホセを映して現れた像なら答えは。


「我々の姿か」


 ファリエドが答えを言った。そう、俺も夢の中で見た勇者のパーティーだ。

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