第137話 激闘
目的
◆夢幻の塔に侵入する。
◆異形の神ナイメリアの顕現を阻止する。
◆ナイメリアに囚われた人々を解放する。
突き進む。前方には味方の防衛線。バリケードが開かれ俺たちを誘う。
だがその遥か先では魔物の軍勢が押し寄せる。破れなければ防衛線ごと崩壊する。
「しゃあらぁっ、一番槍!」
ゴッツが叫びとともに加速した。あれで本当に寿命間近の老人か、どんな魔術を使っているんだ。
考えているうちにもう敵の第一陣だ。馬から飛び降りたゴッツ、“大地のハンマー”を思い切り叩きつける。
――ズンッ! 土煙。石や土くれが巻き上がると同時に魔物の影が宙を舞う。
「なんちゅうパワーだ!?」
「奴め勝手なことを」
ファリエドは苦い反応だが実際ものすごい。魔物の群れを一陣の風が切り裂いていく、これが魔王と戦った伝説の戦士。
「あそこへ切り込め!」
ゴッツの開けた道に帝国軍の騎馬隊を突っ込ませた。対するナイメリアの魔物たち、ゴブリンやコボルトが群れを成し、ダイアウルフが駆け巡る。その奥に二段三段と待ち構え、迷宮で見たものもいれば未知のものまで。ナイメリアも本気だ。
軍団同士がぶつかり激しく打ち合う音。そこに獣王ナラーンが軍を繰り出して行った。
「側面に回り込め!」
多種多様な獣人たちで組まれた部隊、狼や豹、猪に果ては象タイプの者まで。重装甲に身を包み獣の猛々しさそのものでぶつかっていった。
「蹴散らせ!」
押す、圧す、獣人たちが押し寄せる。ゴブリンは数こそいるがパワーが違う、粉砕され蹂躙されていった。
「帝国軍はあれと戦ってよく勝ったものだな?」
「本当にそう思う」
ファリエドと苦笑する。本当に剽悍で勇ましい人々だ、味方で良かったと心から思う。
敵の第一陣は散った。だがその後から次の軍勢が押し寄せる。勢いだけでは破れない、ここらで戦線を整える必要があるだろう。
「ゴッツ、その辺りで戻って温存しろ!」
呼びかけに応えたゴッツが俺たちの下に戻る。すでに全身土塗れの返り血塗れ、ほんの半時ぐらいで何体倒したのか。
「肩慣らしにもならねえわ」
「まだそういう段階なの?」
帝国兵とドワーフたちが前線に出ると戦列を組む。一方の魔物たちは武装したスケルトンの軍勢が現れた。
「四層の再現だな」
「それだけじゃねえみたいだ」
ゴッツが空を指さす、空中にも敵か。翼を広げた魔物たち、オオコウモリにコカトリス、人身有翼の怪物ハーピーや悪魔じみたガーゴイルまで。
「連弩使えぇ!」
ティタンの号令でドワーフたちが機械仕掛けのボウガンを放った。物々しい機械音、そして空気を切り裂くボルトの雨。
空中で叫び声が上がると本当に雨が降ってきた。言うまでもなく血の雨だが、この攻撃をかいくぐった魔物が俺たちに襲いかかる。
「迎撃!」
槍を掲げ、盾を掲げて攻撃を防ぐ。地上にスケルトン、空に怪物たち、この二面攻撃で完全に足が止まった。
「陛下をお守りせよ!」
ベオルンが叫びつつ剣を振るう。俺も盾で守りながら兵を鼓舞した。
――その時、強烈な風が上空を吹き抜ける。目を閉じそうになるのを堪え、俺は魔物たちが風に漂うボロキレのようになる様を見た。
「ファリエドか!」
エルフ王ファリエドの風魔法だ。当代屈指の魔術師と言われる男、同じ系統でもエリアルが使うものとは別格か。
「上は任せよ」
「なら下は――」
突然スケルトンたちが吹き飛んだ。骨と武器の破片が空中に飛散し、敵の第二陣が見る見る崩れ立っていく。
「まさか……キャサリンさん!?」
オーウェン家のメイド長キャサリンが敵をなぎ倒していく。昔は戦士だったというけど何故ここに、メイド服はそのままだ。
「ウィル!」
もう一人前線に駆けこんでいく。あればベッシ、侯爵家の恐るべき老兵二人が揃った。
「お嬢様たっての願いだ、久々に暴れてやるさね!」
「ワシらが切り開く、先へ進め!」
キャサリンがスケルトンを振り回す、ベッシが次々と斬り倒す。そうして戦線を押し返したところで聖堂騎士たちが側面に回ると、ホーリーライトの魔法をスケルトン隊に撃ち込んだ。
「ベッシ殿、ワシも参るぞぉ!」
ギルバートまで躍り出て斬り伏せた。かつて最強と言われた近衛の剣、その技はまだまだ通用する。瓦解していく、敵の第二陣が崩れていく。
「なんだあの老人たちは?」
「ゴッツ陛下もいるし珍しくは……」
「あれは別だ」
前進している。帝都の城壁が近い。このまま城門を破って中へ……。
「何だ……?」
新たな魔物の影。壮大な帝都城門が小さく見えるほどの巨体。それが連れだって進撃してくる。
「オーガだ!」
「あれが!?」
鬼と呼ばれる巨大な魔物。頭に角、露出した牙は人間など噛み砕いてしまいそう。太い腕はこれまたいかつい棍棒を握り、俺たちに振り下ろさんとしている。
「キャサリン!」
「ハハッ、昔の巨人退治を思い出すね!」
だが老夫婦は動じない。オーガ相手に構えを取ると率先して挑みかかった。
「ガアァァァ!」
強烈な棍棒の一撃に地面が割れる。だがベッシとキャサリンは上手く避け、すかさずオーガの足下に。
「遅い!」
ベッシの剣がオーガの足を切り裂く。だが大木のように太い足だ、一撃では潰せない。
「なんの!」
オーガがベッシに掴みかかるが捕えられない。そのまま続けざまに二撃、三撃、ついにオーガは膝をついた。
「ほい来た!」
そこへキャサリンのハンマーパンチ、オーガの顔面を陥没させてノックアウト。すごい……鉄腕ベッシとメイド長キャサリンのコンビ、怪物をものともしないぞ。
「――後ろだ!」
だがオーガは一体だけじゃない、次々と襲い来る怪物たち。
「ヒュッ――」
空中を舞う一陣の風。黒い影がオーガの脳天に回転踵落とし、頭蓋を粉砕した。
「クロエ!」
彼女も来ていたか。しかし何だ今の威力は、俺にやってたのはどれだけ手加減してたんだ。
「ウィル様、許しませんからね!」
「ど、どうして?」
「お嬢様を泣かせて!」
「ご、ごめん!」
こいつは後が怖い、後があればだが。
「うちらも行くぜ!」
触発されたのかティタンもギガントアームで殴りかかる。棍棒が打ち下ろされる前にどてっ腹に一撃。どこかで破裂音がすると敵に鉛玉がぶち込まれる。壁のように巨大だったオーガたちがなぎ倒される様には兵士たちも呆気に取られていた。
「やるじゃねえか!」
「貴女こそお見事です」
押し返した。オーガたちを破り城門を突き進む。魔物の軍勢を突き破り帝都オルガに侵入する。その先に待ち受けるものは――。