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第10話 霊魂

目的

◆冒険者ジョン・オーウェンを発見し連れ帰る。

「俺は悪霊説を推すね」


 ライドがどこで聞いたのか自説を展開し、迷宮談義はちょっとあらぬ方向に盛り上がり始めた。


「悪霊って、まさか魔王の」

「それも良いが俺が言いたいのは皇帝の悪霊さ」


 ……皇帝とはすなわちアルテニア帝国の支配者、オズワルド1世。その名は聞く者に身構えさせる響きがあった。


「帝都が侵食される直前、皇帝は重病と言われ皇太子が政治を代行していた。だがこれは嘘で、実は密かに暗殺されていたって話だ」

「おいおい滅多なことを……」


 ライドの話にフォスが眉をしかめる。そうだ、ベッシのような騎士階級の人を前に物騒な話をしよる。


「その皇帝の恨み、怨念なんかが重なって地下の魔物を呼び寄せたってわけ。四層を守るアンデッドたちは皇帝の兵士たちだろうな」

「俺が聞いた話だと……」


 すかさずフォスが話題を変えてホッとする。その皇帝だけど、色々曰くつきでちょっとしたタブーに近い扱いを受けていた。


 人呼んで“狂帝オズワルド”。周囲の人間を次々と処刑した狂乱の皇帝。誰も信用できなくなって壁と話していたとか、妖しい宗教に洗脳されたとか様々な言われ方をされている。


 ……田舎者の俺に真偽のほどは分からない。ハッキリしているのは、帝都が襲われたドサクサで皇帝は行方知れずのまま今に至る、ということだけだ。


「お前ら話してばかりいないでそろそろ寝ろよ。見張りは交代だからな」


 アインに打ち切られて雑談は終わり、俺たちは暗闇とかすかな灯りの中でまどろんだ。




==============================================


「いい加減にしろ!」


 壮麗な屋敷に若々しい怒鳴り声が反響する。その怒りに屋敷全体が震えたようだった。


「俺に家を継げだと!? 散々出来損ない呼ばわりしてきたくせに、兄さんたちが死んだら急に態度を変えて!」


 オーウェン侯爵家の末子ジョンは相次ぐ兄弟の死により今や最後の嫡男である。しかし若者は今までの鬱屈した心境を父へ向けて爆発させていた。


「それが役目だ。歴史ある侯爵家は誰かが継がねばならぬ」

「その押しつけがずっと嫌だったんだよ。俺はアンタの人形じゃない!」


 ジョンは声を荒げるだけ荒げると部屋を出た。急ぎ荷造りを済ませると周囲に別れを告げる。


「兄様……」


 妹のマリアンが悲し気に見つめる。ジョンも辛そうに応じたが、もう止まることはない。若者は屋敷を後にし、残されたマリアンは侍女に慰められながら奥へ。


 ベッシは一部始終を見ながら何もできなかった。自分の教育が誤りだったろうかと忸怩たる想いが強まる。


「ベッシ……」


 主君の声がかかる。オーウェン侯爵はこの数か月で十年は年老いたように見える。息子二人が病で急死し、残されたジョンは家を出てしまった。


「ベッシよ、お前に頼みたいことがある」


==============================================




 ……またベッシの夢を垣間見てしまった。ジョンは帝都に来る前に父親と相当な喧嘩をしたようだ。侯爵家の暗雲とベッシ、マリアンの苦悩が俺にまで響く。


 仲間たちがぞろぞろと起床してくる。とはいえ迷宮内では時間感覚が分からなくなるため、今が朝なのか夜なのか自信もない。唯一腹具合だけは一定の間隔で空腹を訴える。


「いよいよ四層だ、ちゃんと食っとけよ」


 冒険の始めのうちは鮮度の良い食料を食べられるが、そろそろ乾いた保存食が比率を増してくる。


 俺は乾パンを飲み下しながら周囲を観察した。三人組はウッズが抜けた影響も少なく元気そうだ、冒険に慣れているんだろう。アインはよくベッシと話しているが、今は迷宮のことでなく侯爵家の様子についてだった。騎士に取り立ててもらった後のことを考えているのか。


 こういう時ツバードは一人黙々と食事する。仲間を避けている訳ではないだろうが、群れるのを好まない性質なのか、あるいは周囲を警戒しているのか。

 そしてセレナが俺の隣に座る。すでに触れたがエルフということで距離を置かれて俺の側に来ることが多くなっていた。


「セレナさんもその、ジョンのことは良く知ってるんですか?」

「うーん、あまり話したことはないかな。私は侯爵家の人じゃないから」

「そうなんすか、てっきり侯爵の騎士かと思ってた」

「ハハ」


 無邪気な笑いがこぼれた。子供っぽくも見えるがことエルフの年齢は分かりにくい。


「ウィル君、帝国の騎士は人間種しかいないよ?」

「あ……そっか、そうなんですね」

「私は雇われてるの。この迷宮に来たのも命令があったから。……まあ個人的な興味もあるんだけどね」

「興味、ですか」

「そう、迷宮に関してね」


 冒険の目的は人それぞれ、金のため名誉のため、中には研究、探求に命をかける人もいるようだけれど。この人の場合はどういった目的だろう、気になるがまだ踏み入るのはためらわれた。


「そろそろ行くか」




 先日潜ったばかりの第四層へ舞い戻る。暗い階段を下りて出口をくぐると視界が急に明るく開ける。


「空が……」


 セレナが驚くのも無理はない。地下であるはずの第四層には黄昏時の空が広がっている。


「まさか外に、地上に飛んだの?」

「いえ、ここも地下なんです。魔法の迷宮ですから。あの空は何時間経っても夕暮れのままなんすよ」


 俄かには信じがたいだろう。ベッシもやはり驚いている、と思ったが別の驚きがあるようだ。


「この場所は城……それもドワーフ族の城だな」

「ベッシさん、分かるんですか?」

「覚えがある。しかし何故……」


 ドワーフ族といえば精霊種の一つだ。何故、地下の迷宮にそんな場所があるのか。それはいるのかも分からない造り主に聞いてみなければ分からない。

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