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第135話 次代へ繋ぐもの

目的

◆夢幻の塔に侵入する。

◆異形の神ナイメリアの顕現を阻止する。

◆ナイメリアに囚われた人々を解放する。

 ファリエドが主導して決戦は決まった。各々が野営地に戻り戦いの支度に入る。

 徐々に空気が冷めていく中、俺はエレア王子の方を向いた。


「お爺様……」

「エレア、こちらへ」


 改めてエレアの肩に手を置いてやった。まだ戸惑い気味のエレア。無理もない、考えてみれば彼が物心つく前にオズワルドは姿を消してしまったのだ。まさに名前だけ知ってるお爺ちゃんか。


「……ウィルは本当にお爺様なのですね」

「ああ……帝国をこんな有様にしてすまない」

「いいえ、どうか父上を助けてください。父上はずっとお爺様に申し訳ないと言っていました」

「エドウィンが……そうか」


 エドウィンについてもそうだ、親子であるのに俺たちは互いを知らな過ぎる。その空白の時間はもう埋められないが届けたいものはある。


 行かねば。その前に俺はセルディックを見た。


「宰相、できればそなたの了承も得たかったが」

「……もう何を言っても止められませぬか?」

「ああ、覚悟は決まった」


 セルディックの目が閉じられる。そこには苦悩の色ばかりがにじんでいた。


「これ以上無理は言わぬ。せめてエレアのことをよろしく頼むぞ」

「……陛下、お待ちください」


 後ろ髪を引かれる思いはする。だが止まってはならない、振り返らず俺は歩く。


「私が悪かったのです陛下!」


 張り裂けるような叫び。それは帝国宰相たる者とは思えない慟哭だった。


「私が陛下を幽閉するようエドウィン殿下をそそのかしたのです! 殿下は何も悪くない、全て私が、この私が……!」


 そこにいるのはもうただの老人だった。膝をつき己の罪を懺悔(ざんげ)する老人。


「セルディック……」


 振り返る。歩み寄る。彼の手を取り立たせてやった。


「もういいんだ」

「陛下……」

「長いこと辛い立場を負わせてしまい、すまなかった」

「私のことはいいのです、殿下のことを……」

「お前のその苦しみ、エドウィンも抱え続けてきたことだろう……必ず助け出す」


 セルディックの肩を叩いてやると、俺は今度こそ重臣に別れを告げた。


「ベオルンよ、父上を大事にするのだぞ」



***



 丘の上に場所を移し帝都を遠望する。市街ではナイメリアの眷属たる魔物が跋扈しているようだが、今は各国軍による防衛線が防ぎとめている。


 これを切り抜けてあの塔に向かわねばならない。帝都中心部に出現した“夢幻の塔”、ナイメリアの新たな象徴。


「フン、ナイメリアめ調子に乗ってやがる」


 俺の隣にはゴッツとファリエドが立つ。いずれも伝説の男たち、俺がウィルだった時には並び立つなど考えもしなかった。


「あの塔が完成すればナイメリアは顕現する。この次元との繋がりが強固なものとなり、排除するのは非常に困難となるだろう」

「ファリエド陛下、完成までどれほどの時間があるだろうか?」

「始まりからの観測で予測するに五、六時間といったところか」


 五、六時間……ナイメリアの力が帝都を塗りつぶすまでの猶予。


「……迷宮の深層ではナイメリアに歯が立たなかった」

「聞く限りでは、奴は己を迷宮の番人にしていたようだな」

「俺の責任だ。俺に近づいた女司祭メア、ナイメリアの分身を無意識のうちに第九層の番人としてしまった」


 迷宮の番人はその階層において支配的な力を有する。


「だがその迷宮は崩壊しナイメリアは地上に現れた。これは守りを捨て攻めに転じたということだ」


 ファリエドの言い方だとピンチは同時にチャンスでもある。はずだが……。


「でもホセが向こうにいる」

「チッ、あの裏切者め」

「ホセ……ユースフ。奴が味方に付いたからこそナイメリアは行動に出たのかもしれんな」


 あの時ホセは初めて見るような魔法で攻撃してきた。あれがホセの本気か。俺たちを殺す気だったのだろうか。

 ナイメリアの夢に魅せられた者はその眷属(けんぞく)となっていく。ホセ以外にも敵となる者がいるかもしれない、やはりこの戦いは分が悪いか。


「二人はどうしてこんな危険を冒してくれるのか?」

「言っとくが帝国のためではないぞ。異形神なんぞに好き勝手させてたまるかってんだ」


 ゴッツはそう言うが温存した力と余命を使うのだ、余程の覚悟がいるはず。


「オズワルド陛下、私は貴殿に謝りたいことがあった」

「それは?」

「貴殿が帝位に就いた時、私は平和への期待を抱いた。その一方で信用しきれなかった。陛下は対話のために手を差し出してくれたのに、私は逡巡(しゅんじゅん)して静観してしまった」


 それは……無理もないことだろう。種族間の軋轢(あつれき)もあって決断は容易でなかったはずだ。


「結果的にその遅れは陛下を孤立させるのに一役買っただろう。そして気付いた時には全てが手遅れになっていた……」

「……だが取り戻せるものもあるはず」

「仰るとおり。今度は誤らない、決断すべき時なのだ」


 ――騎馬が駆けてくる。乗っているのはエリアルか。


「叔父上、用意できるだけの兵は整いました」

「ご苦労だ」

「ですが、やはり三人だけで塔へ向かうのは危険です。私もお連れください」

「若造には別の役目があるだろう」


 ゴッツがしっしとエリアルに手を振る。この巨頭二人からすれば皆若造だろうな。


「エリアルよ、私が戻らぬ時はそなたがエルフの王となれ」

「なっ、叔父上!?」

「そういうこった。こっから先はワシらジジイに任せて、オメェらは次の時代に備えるんだよ」

「……」

「エリアル」


 俺はエリアルの目を見て小さく頷いた。


「……武運を祈ります」


 言い残してエリアルは駆けて行った。いよいよ出撃が近い。


「……オズワルド陛下、まだやり残したことがあるのでは?」

「うん?」


 ファリエドの視線の先、そこにいるのはマリアン……。


「あまり時間をかけるなよ?」


 ゴッツとファリエドが去ると俺はマリアンに歩み寄る。


「ウィルさん……」

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