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第134話 決起

目的

◆異形の神々の顕現を阻止する。

 集結している。エドウィンの呼びかけに応じた各国の代表たち。


「どうなっているのだ?」

「ファリエド殿、この招集の用向きは?」


 喧噪の中にセルディック宰相もいた。特に俺たちがテントから出てきたのを見て目を丸くしている。


「ベオルン、お前が手引きしたのか!?」

「父上……」

「宰相、怒らないであげてください。私どもの我儘(わがまま)を聞いてくれたのです」

「皇后陛下、貴女まで……」


 これではセルディックも何も言えなかった。身分社会で申し訳ない。


 諦め顔のセルディックを尻目にファリエドが前に出る。


「皆の者、集まってもらったのは他でもない。地下迷宮より皇帝オズワルド1世陛下が救出された」

「何と!?」

「彼がオズワルドその人である」


 ファリエドの紹介で俺に視線が集まる。さあ、ここから先は後戻りできない。


「皇帝は異形神の魔力に捕らわれていたが、写し身となって今ここにいる。紛うことなき皇帝であることは私や宰相殿が保証する」


 巻き込まれたセルディック。隠しておきたかっただろうに、心の中では天を仰いでるか。


「だがそのために、皇太子殿下を始め多くの戦士たちがあの塔に取りこまれてしまった。皇帝陛下は彼らを救出するため出陣するおつもりだ」

「出陣!?」

「皇帝自らですか!?」

「左様。塔に侵入するのは少数精鋭の三人のみとする。一人は皇帝陛下。二人目はこのファリエド、そして最後にドワーフ王ゴッツ」


 ――ファリエド。共に来てくれるというのか? それにゴッツまで、大丈夫なのか?


「さあ陛下、彼らにお言葉を」


 お膳立ては十分すぎるほどだ。俺は代表たちの面前に立ち息を吸い込む。


「オズワルドである」

「……」

「まず皆に感謝したい。エドウィンの招集に応じ共に戦ってくれたこと。そして謝罪したい。帝都がこの有様となり異形神が顕現しようとしているのは私の責任だ」


 反応はない。それでも進め、言葉を放て。


「皆には我らが塔へ達するための道を切り拓いてもらいたい」

「……大結界は如何なさるので?」

「滞りなく進めよ。準備ができたら我らのことは構わず、異形神ごと封印するように」


 息を飲む音が聞こえそうだ。誰もが俺たちの死を思い浮かべたろう。


「私にはこのようなことを頼む資格はないが、それを承知でお願いしたい。エドウィンは私の罪を背負いながら帝国を支えてくれた。彼ならば必ず諸君と良き関係を結ぶだろう。また功労ある戦士たちも見捨てられない、私がここにあるのは彼らのおかげである。だがあの異形神に戦いを挑むには助けがいる。皆の力を貸してほしい」


 それが俺にできる唯一の償い。長く続いた悪夢に決着をつけること。そしてエドウィンたちを救い出したい。それだけが俺に残された数少ない救いだから。


「オズワルド陛下」


 口を開いたのは獣王ナラーンだ、自慢の枝角が天を衝く。


「陛下はアシカスのことを覚えておいでか?」

「……覚えている。先代の獣王であり、帝国と戦って命を落とした」

「私の父だ。貴方がた帝国の捕虜となり首を打たれた」


 あの男は忘れようがない。勇ましく手強く、そして誇り高い王だった。


「……だが陛下は帝位に就くと矛を収め、父の遺骸を返還してくださった。武人としてその恩に報いたい」

「獣王……」

「此度だけは陛下のために命をかけましょう」


 俺は熱いものをこらえながら獣王の手を握る。


「我らニンフ族はそのような無茶な作戦に兵は出せぬ」

「イレニア女王、無理強いはできぬ。自国の民を大事にしてくれ」

「……代わりに予備兵力の全てを大結界に投入する。必要な物資も残らず放出するとしよう」

「それだけで十分だ、感謝する」


 フンっと横を向くイレニア。その隣ではノームのヤムリンド酋長(しゅうちょう)が意味ありげな笑みを浮かべていた。


「陛下のお孫エレア王子に我らの姫を嫁がせていただけるなら」

「ヤムリンド、お主何を!?」

「図々しいノームめ!」


 これには眉をしかめる者が多かったが、その(たくま)しさには関心しそうになる。


「すまないが孫のことまで私が決めてしまっては……」

「私は構いません!」


 勢いの良い声。人垣を割ってエレア王子が姿を見せる、ずっと聞いていたのか。


「私は帝国のためならどんな相手と結婚しても構いません」

「……エレアよ、どんな相手でもなどと言っては妻となる人に失礼であろう」

「あっ……軽率でした。申し訳ありません」


 赤面するエレア。群衆からは小さく笑い声が聞こえた。


「無理にとは言いませぬ、引き合わせていただけるだけでも結構です」

「それで良ければ」


 ヤムリンドとも握手を交わした。少しずつ空気は和らぎ次第に諸侯も口を開いていく。全員の賛同とはならなかったが十分な協力は得られた。


「おぅいファリエド様ー!」


 あれはティタンの声、ドワーフ王ゴッツが家臣たちに担がれて来た。


「爺ちゃん連れてきたよ」

「ご苦労だ。早速で悪いがこの薬を飲ませてくれ」

「でも寝てるよ?」

「無理矢理でも流し込めばいい」


 言いつつ取り出した小瓶。無理矢理でいいのか。あっティタンが構わず飲ませる、容赦のない孫。


「んご、んご」

「……大丈夫なのか?」

「くわっ!?」


 ……! ゴッツが目を見開くと全身を痙攣させる。やはり老人虐待だったか。


「ぬうううううううん!」

「ゴッツ殿の体が……!?」


 これは、ゴッツの老いた体が盛り上がり筋骨隆々に仕上がっていく。肌にはハリができて眼光は歴戦の猛者そのもの。


「ファリエド殿、これはいったい?」

「ゴッツはいざという時のため体に秘術を施してあったのだ。生命活動を抑え少しでも延命する術を」

「ではよく眠っていたのはそのため?」

「左様。そして術を解除する時、温存していた生命力を解放して往年の体力を取り戻すこともできる」


 それは今この時に命を燃やし尽くすということか、ゴッツよ……。


「んん~おうファリエド、ワシを起こしたということは余程の事態だな?」

「異形神ナイメリアを倒す」

「カッカッ、あのババアまた出てきよったのか!」

「また追い返してやるぞ。我々と、ここにいる皆でな」


 伝説の勇者パーティーの生き残り二人。彼らが並び立つと途端に勝算が上がった気がする。それは皆も同じかにわかに熱気を帯びてきた。


「我々が目指すは帝都に出現した塔。これを“夢幻の塔”と呼称する」

「まあこれからぶっ壊すんじゃがなぁ!」

「感謝する。共に戦おう!」


 俺はファリエドとゴッツの手を握ると強く熱く力を込めた。

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