第133話 再会②
目的
◆異形の神々の顕現を阻止する。
「――マリアン!」
「ウィルさん……」
来てくれたか、マイケルに感謝……とその後ろから続々人が入ってくる。ファリエドにエリアル……そしてマティルダ皇后。
「すまないが護衛は外へ出ていてくれ」
ベオルンが人払いしてくれた。皆を案内してくれたのは彼か。
「よく無事で」
俺の手を取るマリアン、だが感情を抑えている。すでに知っている目だ、俺も敢えて何も言わなかった。
「皆、すでに聞いていると思うが異形神ナイメリアが顕現しようとしている」
「ええ、伺ってます」
「そして……俺は自分の正体を知った。否、思い出した」
「陛下」
マティルダが優しい目で俺を見つめてくる。やはりこの人は早くから気づいていたんだな。
「マティルダ、苦労をかけてしまった」
「よくお戻りくださいました」
「こんな格好だけど……」
「若い頃を思い出しますわ。それに良い目になられました」
そう言う辺りオズワルドはよほど憔悴していたんだろうな。
「エドウィンは今、築かれようとしている塔の中だと思う」
「……彼も覚悟はしていたはずです」
「それと……貴女には詫びねばならないことが」
「はい?」
これは言っておこう。言わねばならない。
「俺は、オズワルドには貴女より先に愛してしまった女性がいたのだ」
「まあ……」
「その女性との間には娘がいて、死んでしまったと思われていたのが訪ねてきたのだ」
「……」
無言は怖い。横目でマリアンたちを見ると、向こうもマティルダに注目してる様子。
「その娘は今どこに?」
「エドウィンらと一緒に取りこまれている」
「では救い出してあげねばなりませんね」
よく見るとマティルダは小さく微笑んでいた。
「陛下が他の誰かを忘れられずにいることは気付いていました」
「怒らないのか?」
「今さら嫉妬なんてしませんわ。私の方がずっと側にいて、陛下のことをよく存じておりますもの」
フッと笑いが漏れてしまう。この女性と共にいられて良かった、そう思わずにいられない。
「御対面の途中で申し訳ないが」
待ってたであろうファリエドが口を開く。
「皇帝陛下に今一度確認したい。陛下が全ての元凶であったのか?」
「エルフ王よ言葉が過ぎます!」
「いいんだベオルン、ファリエド陛下の言葉に相違ない」
「認めるわけか。では陛下を抹消すればこの騒ぎは収まるのかな?」
「それはない」
異形神の専門家ではないがハッキリ言える。ナイメリアの興味はもう俺から失せていて、今はエドウィンたち新たな触媒を利用して顕現を果たそうとしているのだ。
……いつか見た夢でアイリーンのことを思い出す。何者かが彼女に俺を殺すようにと指示していたが、それは俺とナイメリアの契約を断ち切るためだったのだろう。それをアイリーンは実行しなかった。
仲間と言ってくれた彼女の顔を忘れられない……。絶対、絶対に見捨てたくない。
「ふむ、そこまでは理解しているようだな」
「試していたのか。ところで大結界だが……」
「あれはかねてより異形神への対策に研究していたものだ」
ファリエドの説明によれば次元のレベルで空間を閉鎖する強力な結界ということだ。一度発現すれば帝都は外界から完全に切り離される。
「その前にエドウィンたちを救い出したい。協力してもらえないか?」
「すでに大結界は進行している」
「俺があの塔へ入る。戻ってこなくとも、時が来れば封印してしまって構わない」
「陛下!?」
ベオルンが驚く。マリアンやマティルダも心配そうだがファリエドはピクリとも動かない。
「何か作戦でもあるので?」
「作戦は……ない」
「勝算は?」
「分からない」
無謀と思われるだろうが考える時間も情報も足りないのだ、実際。
「あまり無茶を仰られるな」
「無理無謀は承知している。だが時間がないのだ」
「へ、陛下。先に重臣たちとも協議なさっては」
「そうはいかんのだベオルン。俺に、時間が残されていないんだ」
その言い方で皆ピタリと止まった。
「皇帝陛下、それはまさか……」
「俺は長く持たない。オズワルドは迷宮の魔力に生かされていた。契約が切れた以上、後は自然と消滅するだけだ」
そう、分かっているんだ。理屈じゃなく感覚で分かる、俺はあと一日と持たない。
「そんな……」
マリアンが絶句している。マティルダもさすがに言葉がないか。
「ファリエド陛下、俺が塔に入る。そのための道を拓いてくれるだけで良い」
「叔父上……」
あのエリアルまで心配顔だ。そしてファリエドはしばし瞑目していたが、そっと目を開いた。
「承知した。皇帝陛下を塔へ送り届けよう」
「本当か?」
「状況が変わった。あのホセが敵側に付いた、大結界ののことも筒抜けと見るべきだ」
「賢者ホセか……」
「ならば少しでも勝算を上げるため、余命の短い者が決死行を仕掛けるのも良かろう」
「余命などと……」
ベオルンがカッとなりそうなのを抑えている。直截な言い方だ。事実だけど、その。
「ファリエド陛下……もうちょっとこうオブラート包めませんかね」
「……」
「勇者パーティーで嫌われなかった?」
俺の言葉にファリエドはちょっと眉を動かした。図星かもしれない。
「何だこれは、どうなっている!?」
テントの外で大声。気付けば人混みの気配がする。
「父上が戻られた……!」
「セルディック……」
ファリエドの協力は取り付けた、次の問題はあの宰相だ。
「行こう」
話を付けるために外へ出る、そこで待っていたのは――。
「出てきたぞ!」
わっとざわめきが広がる。テントの周りは人、人、人。それも顔ぶれは獣人やドワーフなど各国の要人じゃないか。
「皆が陛下をお待ちかねだ」
ファリエドの口元が笑ってる、彼が集めてくれたのか。
「感謝する、エルフの王よ」