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第132話 再会①

目的

◆異形の神々の顕現を阻止する。

 本営のテント内でどっしり構える俺。こうしているとオズワルドとして軍を率いた頃を思い出すけど……。


 側には親衛隊の兵士が数人待機している。セルディック宰相が俺の護衛に寄こしたものだ。


「外に出たいんだけど、いいかな?」

「宰相閣下の御許しを得てください」

「宰相はどうしているのか?」

「申し訳ありません、我々には分かりかねます」

「呼んできてくれる?」

「お側を離れるわけには参りません」


 困るくらい実直な連中だな。エドウィンは良い親衛隊を持ったよまったく。


「……はっ、宰相閣下!」


 外で声がするとテントにその男、セルディックが入ってきた。


「皇帝陛下、何か足りないものはございませんか?」

「…足りないのは情報だ、もう少し状況を知りたい」

「陛下、ご安心ください。万事抜かりなく取り掛かっております」

「セルディック」


 少し語気を強めるとセルディックは観念して話を始めた。


「偵察隊によりますと、帝都は崩壊し地下から魔物が出現しております。現在これを各国軍の協力を得て押し返し、帝都城壁の内へ留めている状態であります」


 魔物の出現はかつての侵食の時と同じか。


「帝都の住民はどれほど避難できた?」

「概ね逃れられたようです、事前の避難計画が功を奏しました。もっとも地下にいたゴロツキまでは把握しきれていませんが」


 これもエドウィンたちの功績だ。マリアンたちの無事も確認したいが私事である、今は抑えろ。


「ですが……大探索のメンバーは過半が行方不明です。皇太子殿下の情報もありません」


 ……目の前でナイメリアに取りこまれたのだ、やはりナイメリアの手の内か。


「どうにかして救い出したい……」

「……陛下、我々は“大結界”による帝都封鎖の準備を進めています」


 それが問題だった。エドウィンがエルフ王ファリエドや<魔術協会>と計画した異形神封じの切り札。帝都を覆うほどの巨大な結界でナイメリアごと封じてしまう作戦。


 エドウィンは探索が失敗した後のことまで考えていたようだが……このままでは仲間たち共々結界に閉じ込められてしまう。


「頼むセルディック、あの塔に行かせてくれ」

「なりません。殿下は己を犠牲にしてでも大結界を完成させよ、と申されました。エレア王子を盛り立てよとも」

「……」

「このうえ陛下まで失うわけには参りません。どうかここで御静観くださいませ」


 言い切ってセルディックはテントから出ていった。そして俺は動けない、護衛という名の監禁に等しい。


 セルディック……これは忠誠心から来る行動なのだろうか。それとも余計な手出しをするなということか。彼とはあまり多く会話した記憶がないため、未だに人柄がつかめていない、彼に限ったことではないが。


「にゃあー」


 ビクッとして振り向くとテントの隙間から黒猫が入り込んでいた。兵士たちが追い払おうとするが、俺はそれを制して猫を拾い上げる。


「暇つぶしぐらい許せ」

「はぁ……」


 兵士たちは俺が脱出しなければ過度な干渉はしてこない。それをいいことに俺は猫へ囁く。


「マイケル、迷宮から脱出できたんだな」

「ウィルの方はこんなとこで何してるにゃー」

「説明してる時間がない。マリアンたちは無事か?」

「元気なう」

「よし……」


 マイケルをそっと放しテントの外へ。マリアンに連絡を付けてもらいここから脱出できれば……。



***



「マリアン様、マイケルが見つかりました」


 クロエが猫のマイケルを抱えてきました。良かった、ずっと姿を見せなかったり、急に現れたり、気まぐれな子です。


「怪我はないかしら?」

「ええ。それより気になるものを」


 何かしら? クロエが見せてくれたのはドッグタグ。<ナイトシーカー>のメンバーに配った認識票、名前は……。


「ウィルさん!?」

「マイケルがどこかで拾ってきたようです」


 ウィルさんが戻ってきている……。これまで<ナイトシーカー>の仲間は一人として行方が分からなかった中でようやく。


「にゃっ」

「マイケル君?」


 一人で走り出すマイケル。後を追えばウィルさんに会えるかも。クロエと二人で駆け出し野営地の喧騒を抜けていく。


「……あそこに?」


 マイケルが潜り込んだのは皇太子殿下の本営があるテントのようです。


「こちらのテントに入れていただけませんか?」

「今は誰も通すことはできない」

「私はマリアン・オーウェン侯爵。誰か取り次いでください」

「オーウェン侯爵……ですが宰相閣下の御許しがなければ」


 セルディック宰相……皇太子殿下も行方不明のようで今は彼が実質的な指導者ですね。


 それから方々を当たってみましたが宰相は忙しく捕まりません。その間に聞き込みもしてみましたが、どうやらあのテントにウィルさんがいることは確かな様子。ならば別の手を使ってみましょうか。


「マリアン……」

「お願いがあるのベオルン」


 そういえばいつぞや以来の顔合わせ、彼には悪いけど今はこれしかありません。


「ウィルさんが本営のテントにいるそうですが、お父上の許可がないと入れないとか。貴方に力添えをお願いしたいのです」

「……そいつは無理だ」

「お願いです、私の仲間たちが戻らない中、唯一の帰還者なのです」


 しばらく考え込むベオルン、けれど首を縦には振ってくれません。


「マリアン、お前は彼のことをどこまで知っているんだ?」

「ウィルさんは……」

「彼はお前が思っているような少年ではないんだ」

「またそんな言い方を」


 怒りそうになった私に対し、ベオルンは人目を気にしながら語りかける。


「彼は皇帝陛下の写し身、オズワルド1世そのものだったんだ」

「……え?」

「魔法でそうなったんだ、まるで生まれ変わるかのように」


 ウィルさんが皇帝陛下……写し身……。何を言ってるの、意味が分からなくて言葉を失う。


「とはいえ隠し続けてどうなるものでもあるまい?」

「……!」

「……貴方は」


 そこに現れたのは――エルフ王ファリエド。


「ファリエド陛下……エリアルも……」

「ベオルンよ、陛下をウィルに会わせてもらいたい」

「そ、それはできない。今は非常事態だ」

「では宰相殿に直談判を」

「ご遠慮願いたい、父上は忙しいのだ」


 ベオルンと若いエルフさんの間で空気がじりっと膠着。止めるべきでしょうか、でもウィルさんに会う糸口もつかめないままで。


「ようやく見つけましたわ」


 また? と言いそうになる闖入者(ちんにゅうしゃ)です。私たちの視線を一身に浴びるその人物は……。


「マ、マティルダ皇后?」

「ベオルンにマリアンさん、ファリエド陛下までご一緒ですか」


 たおやかな初老の貴婦人、まごうことなきマティルダ皇后ですわ。


「な、何故このようなところに……」

「帝国の、そして世界の危機ですもの。私だけ安全なところで傍観してられませんわ」


 うろたえるベオルンがちょっと不憫です。一方のファリエド陛下は悠然たる仕草で挨拶。


「ご機嫌麗しゅう皇后陛下」

「ファリエド陛下、申し訳ありませんね。ベオルンはこう見えて生真面目で、ご機嫌を損ねたかもしれませんが彼にも立場があるのです」

「重々承知しております」

「それでベオルン、お願いできるかしら?」


 今度は四方からの視線がベオルンに突き刺さります。退路を断たれるとはこういうことでしょうか。しばらく唸っていたベオルン、やがて項垂れると先導して歩き始めました。


「……ありがとうベオルン」

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