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第128話 異次元の歩み①

目的

◆異形の神々の顕現を阻止する。

 ――ガラガッシャン! 


「あだだだ……」


 ……酷い落ち方をした。体を起こしつつ周囲確認。


「エリアル、ベオルン、無事か?」

「どうにかな」

「うぐぐ……」

「クリフは」


 その時スッと伸ばされた手。クリフが俺を助け起こしてくれた。


「だいじょーぶかオズワルド?」

「すまない」

「なぁに……このスットコドッコイがー!」


 ――グシャアン、ガタゴトン! ぶん投げられて家具か何かに激突、玉突きしてすさまじい音が鳴った。


「いでで、何すんだー!?」

「せっかくお前に持たせておいたドリームズ・エンドを台無しにされて、このバカチン!」

「お、俺だってショック受けてるんだ」


 思い出したら頭が痛くなってきた。あのホセが、勇者とともに戦い帝国の創建に関り、歴代の皇帝を見守ってきたあのホセが裏切るなんて……。


「それよりも異形神よ、ここはどこなのだ?」


 エリアルの言葉で気付く。薄暗くて分かりにくいがどこかの屋内、倉庫とかか?


「エリアル、明かりを頼めるか?」

「それ」


 エリアルの手からいくつもの光の玉が舞い上がって周囲を照らした。明るい、セレナさんには悪いけどさすが本職の魔術師。


「……何だこれは?」


 明るくなって分かったが、俺たちは無数の石像たちに囲まれていた。いずれも精巧な人物像、種族や風俗も様々ときてる。まるで生きてるような……そして苦悶の表情を浮かべる物が多い。


「石像の工房か?」

「クリフ、ここはどの辺なんだ?」

「あーそのことなんだが……間違えたわ」

「間違えた?」

「地上に出るつもりが慌てて別次元に飛び込んじまった」


 ふーん別次元……。


「つまりどういうことだ?」

「ワシと同じ異形神の領域に迷い込んだのさ」

「んなっ」


 それって元の世界じゃないってことか。俺たちの世界に顕現しようとする異形神、その次元に逆に飛び込んだのか。


「二つの世界ってそんな簡単に行き来できたのか」

「言うほど簡単じゃないぞう、ワシはすでに経路を開いているからな。その経路ってのがお前さんとの契約なわけだが、それを安定させるまでが面倒なのだ」


 契約か……オズワルドが子供の頃に出会ったこいつが、混沌の柱アル・グリフだったとはなあ。そりゃ変な奴だったけど。


「この石像を見るにアレだな、支配の柱グリフォードの城だろう」

「その神は石像集めが趣味なのだな」

「少し違うが、まあ似たようなもんか」


 ちょい引っ掛かる言い方だけど……むっ。


「足音だ、誰か来る」

「異形神か? 見つかるとどうなるのだ?」

「殺されるかもなあ、ハハッ」

「早くさっきみたいに出口を作ってくれ!」


 まあ落ち着けベオルン。こっちにも異形の神、混沌の柱アル・グリフがいるんだしなんとか……。


 ――ガチャッ。扉が開いて姿を見せたのは……人型の蛸のような何か。


「魔物か!?」

「よーう執事殿か、久しぶりだのう!」

「人間? いえ貴方はもしやアル・グリフ様ですか?」


 良かった話が通じるみたいだ。


「ああ何という……貴方がこの城に来られると間違いなく災いが起きる」


 執事らしき人……人?は何本もある触腕をウネウネさせて悲嘆を表す。


「客人に対してなんちゅう言い草だ」

「いつも招きもしないのに来るではありませんか……お待ちを、まさか像を壊したのですか?」


 石像……ああ、ここに来た時にぶつかったのが何体か。


「……壊しました、すいません」

「ななな、何ということを。ここにある像は全て我が主グリフォードのコレクションですぞ!」

「弁償します!」


 むむむ石像かあ、マリアンに負担は……いや今の俺はオズワルド、自力で返済できるか。でも財布はエドウィンが握ってるのかなあ、エドウィンは無事だろうか……。


「弁償とは能天気な、これらの像は貴方がたの世界で名だたる英雄たちを石化したもの。一つ一つがオンリーワンで替えの利かないものなのですよ!」


 ……何て?


「グリフォードの奴は気に入らない人間を倒しては石にして飾るのが趣味なんだ。英雄とか支配者とか、意のままにならない奴をな」

「ああああああ、“竜殺しのデューク”がバラバラに、“怪盗ルピン”まで!」

「泥棒までいるんだ」

「あいつはグリフォードから宝を盗んだ奴だ」


 そういえば聞いたことがある。怪盗ルピンとは神々の神殿に忍び込み不老不死の秘薬を盗んだとか。だがその薬を飲むと体が石になり、確かに歳も取らず死ぬこともなくなったと落ちが付く。

 竜殺しのデュークは竜や怪物などを討伐し、名声をほしいままにしたという大英雄だ。しかし悪魔が人間に姿を変えて近づくと、毒を盛られて死んでしまったという。


 ただの伝説かと思っていたが元になる実話があるのかもしれない。歴史上、人知れず異次元との接触が行われてきたということかな。


「なあ執事よ、ワシら急いでるんだ。グリフォードには後で詫びるから見逃してくれんか?」

「そうは言ってもアル・グリフ様、主の怒りは想像を絶するものとなりますぞ」

「あいつが欲しがってた秘宝をいくつかやるからさ、話付けてくれよ」

「壊した像と同じ数いただけるならば」

「くぅ~仕方ない……」


 何かスマン。怒り冷めやらぬ執事を残して俺たちは城を後にした。




「……まさか異形神の領域に足を踏み入れるとはな」


 エリアルもベオルンもまだ現実感がない様子。俺もそうだ、今日一日で三柱の異形神に関わるとか一生分の体験だぞ。


「ゲートが用意できた、行くぞい」


 ゲート、つまりクリフ――アル・グリフの開く異次元の扉、空間に穴を開け別次元に移動する術。転移魔法とは文字通り次元が一つ違う魔法と言えるか。


「今度は上手く地上に出られるのか?」

「直接地上には抜けられん。航路みたいなもんがあるのだ」


 難しいらしい。そう言って俺たちを案内した場所は……何だここは?


「……本棚? 図書館か?」

「本だけじゃないな、布や木の板、石碑まであるぞ」

「古今の書籍を集めたってところかな」


 誰が集めたか、それを考えてちょっと唾を飲みこむ。膨大な数の書籍は高く積まれ、横にも縦にも広大な書庫だ。


「そなたら、ここを何処と心得る?」


 頭上から声。見上げると天井知らずの本棚たち、その間を舞い降りてくる人物があった。

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