表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/164

第120話 異形神殿

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆異形神の信奉者を探す。

◆夢から覚める方法を探す。

「ぎゃぼっ!」


 ゴロゴロと転がり落ちた。ここはどこ、すぐに灯りをつけて周囲確認。


「……あっ殿下」

「セレナ、それにこの者たちは」


 エドウィン皇太子が元の姿に戻ってる。ガロやアイリーンも、エリアルとベオルンも健在。


「イテテ、オレたち夢から出られたのか?」

「ここはどこだ、八層なのか?」


 分かんない、見覚えないけどあの八層ではなさそう。


「廃墟みたいだな、崩れないように気をつけろよ」

「うん……」


 ガロの言うとおり、ここは打ち捨てられた場所のようだった。でも今までと趣が違う、荘厳な神殿のようでいて不気味な石像群……。


 ――フッと松明が灯った。一つ、二つ、道を示すように連なる炎。


「見て、誰かいるよ」


 炎の先に小さく人影が見える。私たちは互いを守りながら、ベオルンはエドウィンを庇いながら近づいた。


「……ウィル君!?」


 うずくまった姿を見て思わず声をかけた。……でも様子がおかしい。こっちに向けた彼の顔、今までに見たことがない。

 泣いている。茫然自失って感じでただ涙を流してた。


「どうしたの――」

「セレナ」


 ガロに遮られて私も気付いた。もう一人いる、ウィル君の側、影から出てきた女の姿に。


「ようこそ我が神殿へ」

「――っ」


 何かマズイ、瞬間そう思った。場違いな司祭風の衣装、整った女の顔と所作、そして計算された音楽じみた声音。全てが揃って異質な存在感がこの地下に現れた。


「オイッ、ここはどこでテメェは何者だ!?」


 睨みを利かせるガロ。それでも踏み込むことはできない。


「ここなるは迷宮の第九階層、そして我が名はナイメリア」

「ナ――っ」

「そなたらが異形の神と呼ぶ者が一人、夢幻の柱ナイメリアである」


 異形の神、目の前に。現れた、こんな間近に。


「そんな、異形の神は既に顕現していたというの!?」

「少し違うな。我は写し身、陽の光が作る影、鏡に映る姿にすぎぬ」

「……分かりやすくお願い」

「分身という奴だ。我らはそなたらと住まう次元を異にする。そこから力の一端のみを送り込んで姿を見せている」


 神の先っちょてところかな。それでも危険な香りに心臓がきゅっと締まってる。


「よりによってこんな時に……」

「そう恐れるな、そなたらと争う気はない」

「何だと?」

「第八層、夢の試練を乗り越えた者たちは、この場に立ち会う資格がある。特にそこの――」


 女司祭、ナイメリアの手がしゅるりと指さす。


「……?」

「罪深き皇太子エドウィンよ、そなたは全てを見届けねばならぬ」

「……何だと?」

「皇太子と名うての冒険者たち、勇気と知恵に秀でた者たちよ。そなたらは苦難の末この迷宮を見事踏破した。褒美に今こそ見せよう、全ての真実を」


 エドウィンがどうだと言うの。ウィル君をどうするつもりなの。こいつ、この……。


 ――ピシッ。足下で音がすると地面の石が砕け始めた。


「セレナ下がって!」

「何をする気だ!?」


 石が砕けその隙間から光が漏れてくる。やがて地面に大きな穴が口を開け、眼下に広がる光景は……。




 温かな光、爽やかな風、緑と色とりどりの花。――秘密の花園、そんな言葉が頭に浮かぶ。


「何なの、何が……」

「これがそなたたちの求めた最深部、迷宮第十階層よ」


 違う、全然予想してなかった穏やかな場所。いやこれも幻か、夢の神なら何だって見せられる。

 その中心、小さな庭園の区画にベッドが置かれている。そこで眠っている人は……。


「あの人は」

「フフ、近くでよく見せようか」


 私の望みに応えるように視界が近づく。あれは、あの人は。


「父、う、え……?」


 疑問形のエドウィン、私も頭がこんがらかりそう。そこにいるのは夢で垣間見た皇帝オズワルドに見える。でもおかしい、ぼんやり光る肉体はところどころ欠けていて、どこか砕けた石像みたいだった。


「……生きてんのかアレ?」

「おい犬、礼儀を弁えよ」

「生きてやがりますのかあのお方?」


 ガロとベオルンは置いといて、エリアルがナイメリアを鋭く睨む。


「答えろナイメリア。皇帝陛下をどうした、こんな場所に捕らえて何が狙いだ?」

「それは御子息に尋ねた方が良かろう」

「皇太子……」


 視線がエドウィンに集まる。けど彼は押し黙ったまま眉間にしわを寄せた。


「……」

「閉じ込めたのね」

「セレナ?」


 止められなくなって口をついた言葉。


「……閉じ込めたとは、まさか幽閉したのか?」

「ま、待てよセレナ、そんなもん噂だろ?」

「噂であってほしかった……嘘であってほしかった……でも」


 それは前から耳にしていたこと。帝都侵食の直前、皇帝が表に現れなくなり皇太子が政務を取り始めたことで、そんな噂が囁かれたという。帝都の混乱に埋もれて聞かれなくなっていったけど、ならば目の前の光景は何を意味しているのか。


「……やむを得なかったのだ」

「エドウィン……」

「父上はすでに正気を失っていた。平和のためとはいえ周辺国に譲歩を繰り返し、国内に目を向けなかった。臣民の不満は募る一方であるのに反対派を粛清(しゅくせい)し、更なる軋轢(あつれき)を生み続けた」

「どうして話し合わなかったの?」


 思わず声に怒りが混じる。


「あの方に話し合いなど通じない」

「でも親子でしょう、側にいたのにどうして……!」

「どうにもならなかったのだ!」


 エドウィンが怒鳴る。為政者として泰然としていた皇太子が声を荒げて怒る。


「もう手遅れだったのだ! 廷臣や家族と話し合うより壁と話す時間が増えていく。自分で招いた司祭をその手で斬り殺した、あの人は狂っていたんだ! どうしようもなかったのだ、どうしようも……」

「それでも……」

「セレナ!」


 アイリーンに抱きとめられて何も言えなくなった。これが帝国を背負ってきた男の、人に見せることない苦衷というんだろうか。


「ククク……」


 笑い声は女の、ナイメリアのもの。何がおかしいんだ。


「皇太子よ、そなたは少し思い違いをしている」

「何だと?」

「小さな小さな勘違い、だが大きな過ち」

「何を……言っている?」


 ナイメリアの言いたいことが分からない。エドウィンとオズワルドのこと、それにウィル君がどう関わるのか、何もかも分からない。


「では教えてやろう、皇太子エドウィンの罪、迷宮、オズワルドの真実を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ