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第119話 勇気

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆異形神の信奉者を探す。

◆夢から覚める方法を探す。

「ハァ……ハァ……」

「セレナ大丈夫?」

「だ、いじょぶ。アイリーンは怪我してない?」


 自分たちの影との戦い。ボロボロになりながら私たちは生き残った。


「……まさかエリアルの影が一番雑魚だとはね」


 あの影、精霊は持ち込めないし喋れないから詠唱できないし、結局ナイフを振り回してきた。


「まさかエリアルの影が一番雑魚だとはね」

「二回も、ハァ、言わんでいい、ハァ……」


 憮然としてるエリアル。でも彼が魔法で支えてくれたから皆助かったんだろうね。


「グウゥ……」


 ガロが私の袖を噛む。そのまま引っ張った先には。


「ベオルン、その傷は」

「つぅ……」

「横になって楽にして」


 影にやられていたのね。傷口を確認してみるけど……これは深い。すでに相当出血してるから急がないと。


「アイリーン、治癒魔法を」

「あ、あたし……」


 アイリーンの戸惑う顔を見てハッとする。私が幼い頃に戻っていたように、今の彼女は修行を終えた聖女ではないのだった。


「エリアルはどう、使えない?」

「待て、魔力を……ダメだ枯渇している」

「くっ……」


 ……夢の中で命を落とすとどうなるのか、嫌な想像を振り払って治療に当たる。治癒魔法は肉体の回復力を促進して傷を癒すものだけど、私の力じゃ即完治とはいかない。

 過去に何度か手遅れになった記憶が蘇る……。


「アイリーン手伝って、貴女ならできるはずよ」

「う……でもあたし」

「お願い」


 私が元の姿に戻ったように心の持ちようでできるはず。根性論みたいだけどやらなきゃ。一緒に手をかざし治療を試みる。……でもダメ、アイリーンの体から魔力が出てこない。


「ダメ……やっぱりダメだよ」

「諦めないで、一緒に戦って」


 酷なことと承知の上、アイリーンの背中を押すしかない。


「ウィル君を助けるためにも貴女の力が必要なの」

「ウィル……」

「彼は……自分の正体が分からなくて不安を抱えながら、それでも私たちをここまで導いてくれた、戦い続けてくれた」

「……」

「でも彼は連れて行かれた、あのジェイコブに。本当なら今すぐ飛んで行って助けてあげたい。でも一人じゃ無理、だから力を貸して、お願い」


 沈黙。私なんかの言葉じゃ人を奮い立たせることはできないか……。


「あ……」


 アイリーンの手に優しい光が灯ってベオルンを癒した。


「セレナは強いね。あたしも、ちょっとでいいから強くなれたらな……」

「アイリーン……ありがと」




 ベオルンの回復を待って移動を再開。まだフラつくベオルンにエリアルが肩を貸してる。ちょっと苦しそうだけど体を鍛えろ。


「……また似たような廊下か」


 再び絵画だらけの廊下、でも少し雰囲気が重く、気味悪さが増してる。さっきの戦闘を切り抜けたことで変化があったのかな。

 現実の方ではホセが対応しているはずだけど音沙汰がない。向こうと交信できたのはウィル君だけだったみたいで、この点でも彼の不在が響く。


「見てこの絵、エレア王子に似てる」


 アイリーンが指さす先、確かにそんな感じの少年が描かれている。王子に似ていてウィル君に似ていて、そしてエドウィン皇太子に……。



==============================================


 幼い頃から父が分からなかった。皇帝たる父は仕事に忙しく家族の団欒などわずかなもの。まともに会話した記憶も数えるほどしかない。


 幼い頃から父が怖かった。謀反人や罪人が数えきれないほど処刑された。帝国の歴史では肉親同士で争ったことも少なくなく、いつか自分も殺される時が来るのではないかと眠れなくなったことがある。


 あの人が何を考えているか理解できなかった。何度も反逆が起き、廷臣たちも陰で不満をこぼしているのを知っている。


 ある時、妙な噂を聞いた。父が戦場に出ていた頃、異種族の女と交わったという話だ。取るに足らない噂と切り捨てたかったが、どこか納得できてしまう。自分は父に愛されていないだろう。


「皇太子殿下、どうか皇帝陛下をお止めください」

「陛下は他種族に譲歩し過ぎです、このままでは帝国を切り売りし始めてしまう」

「帝国が揺らいでいます。殿下しか頼れるお方はいません」


 私が大人になると廷臣たちが担ごうとし始めた。父は他種族との融和を進めることで戦争を収めたが、そのための度重なる譲歩は国内に不満を募らせていた。


「父と話し合ってみる」


 そう言って宥めるが、あの父とは話し合いにはならない。お前が案ずることではない等と言う一方で、壁や彫像に一人語りかける姿が目撃されていた。


 陰で“狂帝”と呼ばれていることは知っている。長らく不眠に悩まされ精神は摩耗しきっており、それもあってか怪しい手合いを招くようになった。


 近頃は胡散臭い女司祭を側に置いて、愛人などと噂されていた。母はそんな父を見守るだけだ。私が何とかしなければならない、何とか……。


==============================================



「――あれって」

「扉だ」


 ピタリと足が止まる。通路を塞ぐ大きな扉、その手前に小さな影がうずくまっているのに気付く。


「誰かいる」

「その顔は……」


 振り返ったのは少年だ。――ウィル君、一瞬そう思ったけど違う。


「エレア王子……?」

「ここにいるはずはない、あるとすれば」

「エドウィン皇太子ね」


 小さなエドウィンは怯えた様子だったけど、私の顔を見て少し安堵したみたいだった。


「セレナ、こんなところで……」

「皇太子殿下、私を覚えておいでですね」

「……扉が開けられないのだ」


 重そうな扉だ。エドウィンを阻む障壁、この先に何があるんだろう。


「……私が開けましょうか?」

「……」

「何があるか怖くて開けられませんか?」


 沈黙が答えだった。


「エドウィン、怖いのは分かるよ」


 エドウィンの肩に手を置くと声音を静めて優しく語りかける。オズワルドの子エドウィン、そして私の……。


「でもこの戦いは貴方が始めたの。貴方が皆をここに連れてきた、貴方の呼びかけに応えて集まった。勇気を出して、貴方は帝国を導く人よ」

「……セレナ」

「私も一緒に戦ってあげるから、行こう」


 エドウィンが前を向く。二人で扉を押し開けると、その先に広がる無限の空間が私たちを飲み込んだ。

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