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第105話 不死者たち①

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆異形神の信奉者を探す。

◆第七層を攻略する。

 私とレイヴァイン伯爵、二人で処刑人を目指す。奴の行動はステファニーの使い魔が捉えている、先回りは難しくない。


「しかしホセ、君も少し変わったかな」

「何だね伯爵?」

「今になってパーティーを組んで迷宮探索とは」


 伯爵の言う通り、ここ百年の私は単独行動を通してきた。それは自身の秘密をあまり知られたくないこともあるが、やはり人を避けていたのかもしれない。


「私を倒した勇者エレアのパーティーを思い出す……ゴッツ、ファリエド、タマ、キタサン、そしてユースフ」

「ゴッツとファリエドは地上に来ているのだよ」

「えっ……ファリエドはともかく、ゴッツまで生きているのか」


 そう、まだ生き残っている。そして他の者は皆いなくなった。二百年という時の中で取り残されたのは我らのみ。そして世の中はたいして変わっていない。


「あの岩みたいなドワーフ、私の頭をかち割ってくれたのを覚えているよ。いずれも時代を代表する英傑たちだった」

「<ナイトシーカー>はまだ若く、勇者パーティーにはさすがに及ばない。だが良い資質を持った仲間たちだ」

「君らと違って仲も良さそうだ」

「そうだな、まったくだ」


 彼らには可能性がある……大きな可能性が。この戦いで傷ついてほしくないものだ。よって処刑人は私たちで倒したい。その正体がロバート、私もよく知るあの男だとしても。


「そろそろかな」

「うむ、曲がり角の先に気配がする」


 伯爵が吸血鬼の鋭敏な感覚で察知した。接触まで時間はないか、できれば罠の十個でも仕掛けておきたかったが。


「……ホセ、言っておくが私に残された力は少ない」

「承知している。伯爵は耐えて敵を抑え込んでくれれば良い」


 もう頃合いか。二人で角を出て処刑人と対峙する。


「――っ」


 途端に斬撃が吹き抜け、我々の首が同時に切断された。10ヤードは離れているというのにお構いなしか。

 だがいずれも不死身の体、すぐに再生する。


「やれやれ不躾な奴」

「フゥ……ちょっと懲らしめてやろうか」


 同時に処刑人へ前進。奴はというと戸惑いも狼狽えもない、それしかないとばかりに大剣を構える。


「さきほどの礼だ!」


 まず私が魔法を連射、両手から炎の弾を撃ちまくる。これは監獄に立ち込める魔力によって減衰し、処刑人に軽々さばかれた。奴も近衛騎士と同じ、半端な魔法は剣で弾いてしまう。


 だが牽制には十分だ、距離を詰めて直接魔法を叩き込めば。


「また来るぞ!」


 処刑人の斬撃、魔法障壁を展開するが素通りしてきた。再び首が飛ばされ、また再生。一方の伯爵は体をコウモリに変え、攻撃を一つ二つと空回りさせ、その隙に距離は至近へと至る。


「この距離ならば――」


 私は両の手を本体から切り離し、処刑人に向けて飛ばす。そのまま上下左右、自在に展開し魔法照射。


 ――バシィ!


 雷撃の紫がかった閃光が監獄を染める。……それでも浅いか、処刑人が再び大剣を振りかぶった。


「――ちぃっ!」


 近い。私とて直接斬られればバラバラになってしまう。――だが処刑人の動きが一瞬止まった。

 何かが伸びて処刑人の腕を貫いている。あれは血か、伯爵の手から血が伸びて、凝固した槍となったのだ。


「ブラッド・ランス」

「助かる伯爵」


 この機を逃すな、両手をそれぞれ急接近させて処刑人の腕を掴む。発火。その厄介な腕を先に破壊する。

 直接の魔法攻撃だ、さすがにダメージがあったか処刑人が後退る。


「このまま押し切るぞ」

「うむ……うん?」


 その時、処刑人が踵を返して駆けだした。


「逃げるのか」

「……奴は番人、夢が作る魔物だ。死を恐れるとも思えぬ」


 私の推論と異なる。奴は手当たり次第に敵を、我らを排除する性質と想像していたのだが。

 戦闘を避けた? 奴には優先すべき事柄が、もっと絡み合った法則性があるとでも?


 脳裏に周囲の地図を展開。処刑人の入った道……迂回ルートがある。エリアルたちの元へ続くルートが。


「いかん、後を追わなければ」


 ウィルたちも危ない。あの場所には何かある、事象を引き付ける何かが……。



***



「ここか」


 例のポルターガイストが起きたエリア、そこにエルフたちの姿があった。


「……来てくれたか」

「どうしたの、問題が起きたような話だったけど?」


 セレナさんの問いにエルフの隊員が、一瞬目を見合わせる。


「隊長が動こうとなさらないのだ」

「エリアルが?」


 その背中が見えた。エリアルは暗闇を凝視している。俺たちが危険から引き返した幽霊地帯を。


「エリアル、体はなんともないのか?」

「……問題ない」

「処刑人がこちらに近づいてる。ここを離れた方が良い」

「他の者と行け、私はここに残る」


 隊員たちを振り返るとお手上げといった顔になる。


「エリアル、その先は危険だ。俺たちも進むことができなかった」

「これは私の問題だ、手出しは無用」

「……何があるのか知ってるのか?」


 この様子は普通じゃない、エリアルはこの場所に執着している。だがこうしている間にもホセと伯爵あの処刑人と戦っているんだ。


「ガロ、引っ張って連れて行こう」

「そうするか」


 強硬手段だ。ガロが腕を伸ばすとエリアルが後退る……待てそっちは。


「触るな!」

「エルフのお坊ちゃんは面倒だな」

「二人とも!」


 ――ザワッ。空気が急速に冷たくなる。エリアルが暗闇に踏み込んでしまった。あの時と同じ、ポルターガイストが起こる。


『……誰も、来ないで……』


 ガクンッと地面が揺れる。照明がかき消され闇が広がった。そこいらの動きそうな物が宙を舞いドタバタと音を立てる。


「……今のは」

「マズい、こっちへ!」

「隊長!」


 エルフの隊員たちが慌ててエリアルをかばう。闇に呑まれる前に早くここから。


 ――ザリッ。


 ……靴の音。暗闇の奥から聞こえた。


「何かいる!」

「ホ、ホーリーライト!」


 アイリーンの魔法が闇を切り裂いた。その一瞬、確かに見えた。――処刑人、記憶の中で見た姿そのまま。

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