第104話 処刑人②
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆異形の神々の顕現を阻止する。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆迷宮内でメアを見つける。
◆異形神の信奉者を探す。
◆第七層を攻略する。
――ッ。首に嫌な感触がして全身が跳ね上がった。
「ウィル?」
“潜行”が解けた。息を弾ませ思わず首に手を当てる。大丈夫だつながってる。
「落ち着くんだウィル。君は生きている、斬られたのは彼だ」
<クラブアーマー>が処刑人に殺された記憶、これは心臓に悪い。まさに一瞬の死、当人は知覚すらできなかったろうが、俺はそれをまざまざと体感したわけだ。生きたまま身を裂かれるとはこういう感じかもしれない。
……しかし何が起きたんだ。本当に一瞬のことで分からなかった。
「別の遺体も調べる」
「少し休んだらどうだよ」
「心配ないよガロ、行けるさ」
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仲間がやられた。突然首が飛んだ。何をされた? 奴は剣を振るった。でも距離はあった、魔法の類だろうか。
「気を付けろ!」
何に気を付ければ良いのか分からないが、野郎ぶっ殺してやる!
盾を構えて突進、接近戦に持ち込めば勝算はあるはず。近づく。徐々に見えてきたグロテスクな姿。汚れた穢れた装束の魔物。ゾンビとは違う、もしやこいつが処刑人――。
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「――ッ」
「大丈夫?」
……また首が飛ぶ辺りで意識が戻る。悪夢から覚めるようなあの感覚。背中に汗をかいたけど、セレナさんがさすってくれて落ち着いた。
「どうだね、何か見えたかい?」
「見えたは見えたけど……」
<クラブアーマー>の目に映った異様な光景。奴が剣を振るうとそれだけで首が切断される。……たとえ届いていなくとも。そんな曖昧な情報をどうにか皆に伝えた。
「何が起きたか分からねえが、もう決まりだろ」
「うむ。異様で凶悪、そいつが番人だ」
第七層の番人、血で穢れた“処刑人”……。
「ロバート……」
「誰だよ?」
「え、ああ処刑人の、うん?」
「ウィル、今ロバートと言ったのかね?」
ポンと出た名前なんだけどホセは心当たりあるようだ。
「思い出したのだよ、ロバートは刑罰を司る家系で処刑の執行役でもあった。特にオズワルドの治世に多くの罪人を斬った人物だ」
「そいつがあの処刑人だってのか?」
「大いにあり得る。ロバートは忠実に職務を遂行していたが、やがて自らも罪を犯して処刑されてしまった」
そうだ、ロバートは反逆罪で捕えられた貴族を逃がそうとしたのだ。……五層の近衛騎士と同じ、彼の無念が形となった魔物。……私を恨んでいるのかロバート。
「そこから連想できる番人の特性だが」
「……首を斬る」
「そう。鎧を着ていようが、離れていようが、彼の視界に入った者は確定で首を刈られるのではないか」
「反則みてえな能力だな」
「それが番人の恐ろしさだ。すぐ皆にも伝えよう」
徐々に敵の姿が見えてきた。問題はどう攻略するかだ。
『<ナイトシーカー>、こちらからも報告がある』
水晶球からステファニーの声。
『我らの使い魔がそれらしき魔物を見つけた』
「確かかね?」
『<クラブアーマー>から聞き出した外見とも一致する。赤黒い装束の剣士だ』
……元は処刑人の白い装束だろう、それを返り血で染め上げたか。
『幸い使い魔は眼中にないらしい。このまま追跡する』
「承知した、再び合流するとしよう」
『――誰か聞こえるか?』
不意に通信が割り込んできた。
「誰だね?」
『こちらエルフ隊、少々厄介な状況になっている』
エリアルの声ではない、隊員の一人か。
『危険なエリアに入り込んでしまった、援護が欲しい』
「ふーん、プライド高そうなエルフが助けを求めんのか」
「聞こえるよガロ」
『現在地を知らせよ――ザッ――誰かに向かわせる』
現在地と言ってもこの監獄で正確な位置情報は分からない。目印や辿った経路を地図と照合するが。
「……オレたちの道順と近いんじゃねえか?」
「危険なエリアって、もしかしてあの……」
「ポルタ―ガイストのあったとこ?」
マズい、あそこは処刑人と別の意味で危険だ。
『待て、こちらでも動きがあった』
「どうしたのステファニー?」
『処刑人が動いている。話が確かなら……エルフたちに近いぞ』
「まさか鉢合わせするってこと?」
何てこった、このままじゃ挟み撃ちなんてことも。まさに前門のタイガー後門のウルフだ。
「まだ番人対策もできてないのに……」
「では我々で対処しようか」
「ちょ、ホセ?」
何言ってんの賢者。
『どうするつもりなのだ?』
「処刑人とエルフ隊、一番近いのは我々だ。一部が敵を足止めし、もう一方がエルフ隊を救援する」
『話としては理に適っているが……』
「任せてくれたまえ。後から君たちも援護に来てくれると助かる」
『……承知した、くれぐれも無理せぬように』
通信が途切れ沈黙。
「マジでやるのかよホセ?」
「心配ない、処刑人とは私が戦う。ほら、私の体はね」
「ああそっか」
単純な話、ホセは不死身の骸骨だ。そうなると却って他人がいない方が全力で戦えるわけか。
「伯爵も手を貸してくれると助かるのだが」
「ちょっと……私を巻き込むのかね?」
頭上でコウモリ伯爵がバタバタ羽を動かす。
「伯爵さん、きっとエドウィン殿下も待遇良くしてくれるよ」
「エルフのお嬢さんホントだろうね?」
やる気になった伯爵がパっと人の姿に戻る。賢者と吸血鬼伯爵、二人の不死者が並び立った。
「処刑人は我ら不死者コンビに任せてもらおう」
「おー頑張って」
「だが例の幽霊も危険だ、心して行くように」