第103話 処刑人①
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆異形の神々の顕現を阻止する。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆迷宮内でメアを見つける。
◆異形神の信奉者を探す。
◆第七層を攻略する。
「来たか」
指定した合流地点ではいくつかのパーティーが待っていた。その中にあの<白の部隊>の顔もある。伯爵はコウモリに化けておいて正解だな。
「まだ来てないのは……<クラブアーマー>とエルフ隊か?」
「蟹の方は一度連絡があったきり、エルフは応答がない」
ステファニーが水晶球片手に答える。
「気になるな……無事でいてくれよ」
彼らを待つ間にここまでの情報を共有する。
<ライブラ>は魔法が不利な状況で苦戦しているようだが、使い魔を使った偵察で多くの情報を集めていた。それに合流地点には結界を巡らし拠点化も進めてくれている。
「やはり、元の見取り図はあまり役に立たないな」
「監獄が迷宮化してより複雑になっているということか」
より複雑に、より深く……。この迷宮が夢を形にしたものであれば、その複雑さは当人の心境を表すものだ。暗く、深く、捻じれて……。
「……誰か来る」
ガロが反応。すぐにステファニーも立ち上がった。
「結界に触れた。だが魔性の物ではない」
「助けを呼んでるみたいだぞ」
数人が急ぎ駆け出すと、ほどなく連れ帰ったのはカンセルたち<クラブアーマー>の面々だ。
……数が減っている。
「どうしたお前たち、やられたのか?」
「や……奴だ」
「何?」
「……処刑人が出た」
――ザワ。俄かに緊張が走る、遅かったか。
「近くにいるのか?」
「ハァ……わ、分からない。必死で逃げてきた……ハァ……」
彼らは立ち上がることもできないほど疲れ、かつ恐怖に支配された様子だった。
「確かに処刑人だったのかね?」
「あ、あれは普通じゃない、近づけば殺される」
「それほど危険なのか」
「訳が分からない……奴が剣を振ったら仲間が死んだ……何をされたか分からないんだ」
聞き取りできる状態ではない。魔術師たちが鎮静効果のある薬を配る間、ホセが一つの提案をした。
「我々で<クラブアーマー>の遺体を調べよう」
「何だって?」
「現場を見て少しでも処刑人の情報を得る必要がある」
「だが賢者よ、場所は分かるのか。連中はあの様子だぞ?」
ステファニーが整った顎をしゃくる。今のカンセルたちじゃ、どの道を来たのかも分からないだろう。
「なあに、方法はあるさ」
***
「何とまあ……」
視界を埋め尽くす幽霊たち、肝試しには贅沢だな。
「この監獄の先住民である彼らに頼らせてもらおう」
「蟹っぽい鎧の遺体と、処刑人の居場所を知らせてほしいの」
アイリーンが幽霊とコミュニケーション、短時間でこれほど味方に付けていたのか。
「誰かが殺されるの見たって」
「おっ、早速だな」
「お願い案内して」
求めに応じて幽霊たちが先導、灯のように通路に立って道を示してくれる。
「――前方にゾンビ!」
「ちぃっ、邪魔すんじゃねえ!」
ガロの斧が牙をむく。ゾンビは片腕を上げると。
「あっちで見ましたよ」
「お前喋れるのかよ!」
……そういうゾンビもいるらしい。
「ありがとう急ぐんで」
「後で浄化してくださいな」
「あれか……」
幸いにして処刑人とは出遭わず現場に到着。<クラブアーマー>のメンバーが二人、首をはねられ倒れている。
「一面血塗れね……」
「伯爵さんよ、血ぃ吸うかい?」
パタパタと飛んでいたコウモリがレイヴァイン伯爵の姿に変わる。
「……さすがに死体には手を出さないから」
「吸血鬼なのに倫理観しっかりしてんのな」
「とりあえずお祈りしておくね、放っておくとゾンビになったり死霊が湧いちゃうから」
「頼むよアイリーン」
「ねえ、これちょっと変だよ」
遺体を調べるセレナさん、何か気付いたようだ。
「首が切断されてるのに首周りの鎧は無傷だよ?」
「あれ、本当だ」
例の甲殻鎧は首まで覆っているのに目ぼしい傷はない。斬ったというより首だけ外れたような奇妙さ……。
「斬り合った形跡なし、一方的にそれも一撃で殺されたか?」
「でも傷跡の説明がつかない」
このままじゃ処刑人の性質が見えてこない……ここはやはり。
「俺が記憶をたどってみる」
「例の能力かね」
「あれ使うとやべえんだろ、また倒れるぞ?」
死者の記憶を読むのは死を疑似体験することに近い。ましてこの場所、また死者の念に囚われる危険はあるけど。
「この人たちの死を無駄にしたくない。これ以上の犠牲を出さないためにも」
「……分かった、バックアップは任せたまえ」
ドリームズ・エンドに手を添え集中、息を整え心の中で引き金を引く。広く見ようとするな、目の前の物事に意識を絞り、潜れ、彼らの最後の記憶に――。
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仲間と合流しようとする俺たちを、再びゾンビが阻んだ。だが最新式甲殻アーマーは傷一つ付かない。クラブソードで撃砕、クラブハンマーで粉砕、クラブアックスで伐採。
この程度なら相手にはならない。できればもっと大きい獲物を狩りたいものだ。情報にあった“処刑人”……番人ならば討伐してやりたい。これ以上<ナイトシーカー>にばかり良い恰好させたくないぜ。
――通路の奥で何かが動いた、また新手か。かすかな煌めき、敵も武器を持っている。盾を構えて警戒、例え雑魚でも油断はしない。
仲間が松明をかざして姿を確認しようとする。敵は武器を構えた。両手持ちの剣、まだまだ間合いの外だが、奴はそれをただ振る――。
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