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第102話 死者の呼び声

目的

◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。

◆異形の神々の顕現を阻止する。

◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。

◆迷宮内でメアを見つける。

◆異形神の信奉者を探す。

◆第七層を攻略する。

「うりゃっ!」


 ガロの斧がゾンビを斬り伏せる。もう何度目か分からない遭遇戦。探索と戦闘の断続的な繰り返し。


「あおぉぉあぁ……」

「こいつ!」


 ゾンビはなかなか堪えない。頭をかち割られながらガロに迫る。


「ガロ下がって!」


 そこにセレナさん、魔法銀の剣でゾンビの脚を切り裂く。崩れ落ちたゾンビに再度斧が振り下ろされ、今度こそ活動を停止した。


「もうホントにしぶとい……」

「もっと魔法で攻めようか?」


 ホセが提案したがガロが首を横に振る。


「魔法は幽霊が出てきた時にとっとくべきだ。斬り倒せるうちはオレらに任せとけ」

「フム、処刑人も気になるし温存するに越したことはないか」


 その処刑人だが、他のパーティーからの目撃情報もなく状況は停滞気味か。


「ここは……」


 ガロの足が止まった。見た目には普通の通路だが耳をピクピク動かしている。


「急にゾンビどもの気配がなくなったぞ」

「あっヤバいかも」


 言ったのはアイリーン。そしてレイヴァイン伯爵も反応した。


「ここはマズイ、逃げた方が良いぞ」

「逃げるって何から……」


 ――っ。足が動かない、誰かに掴まれてるような。


「いっ!?」


 足下を見ると霧のようにうっすらとした腕が絡みついていた。


「遅かったか……」


 幽霊だ。こいつらは力を増すと俺のような素人にも見えるようになる。それが床から、壁から、次々と這い出してきた。


「あわわああ!」

「にゃろう、こいつら!」


 セレナさんやガロも捕まった。四方八方から伸びる手、放置すれば俺たちの体は憑りつかれる。


「ホセ、アイリーン!」


 魔法でこいつらを――。


「アイリーン?」


 躊躇する姿が見えた。それも束の間、ホセが魔法を放つ。細い光が無数の筋となって駆け巡ると幽霊たちが一斉に退いた。


「ここから離れるぞ!」


 引きずるようにして退避、幽霊たちから逃れる俺たち。


「アイリーン、もっとズバッと撃たねえと」

「ご、ごめん」


 ガロの苦言にアイリーンただしおれる。


「その子が気になったのだろう」


 そこでホセが中空を指さした。……その子とは子供の幽霊か。


「アイリーンの魔法は威力が高すぎて巻き込みかねない」

「それでホセの魔法はああだったのか」


 繊細な魔力の調節はホセの方が熟達しているからな。


「……その坊主には離れるよう言っとけよ」

「うん、分かった」


 アイリーンは頷きガロもそれ以上は言わなかった。危ない場面ではあったけど、ああいうところがアイリーンの優しさであり、またガロの厳しさも必要なものだと思う。


「フ……」


 そんな様子を見て微笑むのはレイヴァインだった。


「ホセよ、なかなか良い仲間を集めたじゃないか」

「私が集めたのではないさ。何と言うべきかな……」

「ウィル君に集まったんでしょ」


 セレナさんはそう言うけど、どうだろうか。むしろ迷宮の秘密が皆を集めた、そんな気もする。そして俺自身の謎もここにある気がした……。


『こちら<ユリシーズ>、多少の怪我人が出たものの問題なしだ』

『ここらで一度合流して位置情報をまとめておきたいな』

『では看守たちの詰め所がよかろう。構造上も集まりやすい場所にある』


 この提案が各地へ飛ぶと移動を開始する。


「……この辺は初めての場所かな?」


 通りかかった区画は何か雰囲気が違った。どう言えば良いのか……そう整っているんだ。今までの陰惨な監獄の風景とは違い人の住む場所という感じがする。


「ここが詰所って奴なのか?」

「まだ先のはずなのだよ」

「ちょっと待って」


 アイリーンが呼び止めた。……声が固くなっている。


「また幽霊でもいるか?」

「そんな感じだけど今回は、ちょっと何か……」


 マズイのか。――瞬間、魔法の灯りが消えた。


「おいホセ」

「すぐに点け直す……これは?」


 ホセが手こずっている。そうしているうちに何だ、辺りの空気が冷たくなってきた。


「アイリーン、見えたらすぐに撃って」

「う、うん」

「……いや、待てよ」

「伯爵?」

「そこらの幽霊から聞いた覚えがある。この場所はもしや……」


 ――ガタン。そこらの扉がガタガタ軋みだした。――ガタン、ギシィ――。何かで聞いたことがある、ポスターガイストって奴か?


「ホセ、灯りを早く!」

「ダメだ、何かに阻害されている」

「何かって……!?」


『――来ないで』


 声だ、聞いた途端に体中を悪寒が包む。絶対マズイ何かがいる。


「魔法撃て!」

「撃つってどこに!?」

「ダメだ逃げるぞ!」

「待って見えない……!」


 誰かの転ぶ音がした。助けたいが体が上手く動かない。暗闇が膜となってまとわりつくような不快感。そして吹き抜ける風は温度を奪っていく。体ではなく心の温度を。


「こっち!」


 手を引かれた。声の主はアイリーン、俺たちを導いてくれる。走った。本当に死にたくなくて走り抜けた。


「ハァ、ハァ……!」


 だいぶ来た辺りで正面に灯りが。人の気配も。


「うおっ、何だぁ!?」


 ティタンだ、ドワーフ隊がいる! 俺は安心して地面に転がってしまった。


「いや助かったよ……」


 掴んでくれた手の先を見る。そこにいたのは薄っすらとした人影……幽霊だ。


「あ、ども」


 アイリーンかと思ったけど違った。幽霊は軽く会釈して消えていく。


「この子が仲間を呼んでくれたみたい」

「坊主の幽霊か……サンキューって言っといてくれや」


 ガロが見えない霊に手を振って見せる。本当に助かった。


「お前たち、えらい必死だったな」

「それがさティタン、えらい目に遭ってさ」

「全員いるか?」


 見回して確認。俺よし、アイリーンよし、ガロよし、セレナさんよし、ホセよし。


「……伯爵は?」


 いない。すると頭上でパタパタと羽の音。コウモリが天井の隅でこちらを見ていた。


「あれが伯爵なのだよ」

「……人目を避けたのか」

「でもさっきの何だったの?」

「何か強力な幽霊がいたようだ」

「もしかして、あっちが番人じゃねえだろうな?」


 それは何とも言えない。敵の姿すら確認できなかったから。


「いずれにせよ、あの場所はしばらく近づかない方が良さそうだ」


 おぞましい幽霊もいれば友好的なものもいる。そのどちらもこの暗い地底で果てた人々。第七層を攻略することで解放してあげたい……。


 俺たちは息を整えると、ドワーフたちとともに合流地点を目指した。

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