第100話 棺
目的
◆帝都地下迷宮の謎を解き明かす。
◆異形の神々の顕現を阻止する。
◆皇帝オズワルド1世の手掛かりを探す。
◆迷宮内でメアを見つける。
◆異形神の信奉者を探す。
◆第七層を攻略する。
『こちら<ライブラ>、衛兵の詰め所らしき場所を発見した。武装したゾンビが多いので手を焼きそうだ』
『こちら<クラブアーマー>、食糧庫を見つけた。食い物はネズミが頂いたみたいだな』
「<ナイトシーカー>は引き続き監房を調べていく。また何かあれば連絡しよう」
通信終了。他のパーティーも今のところは順調か。
「しかしどんだけ広いんだか、この監獄」
「最大で一万人の囚人を収容できたと言われている」
「一万……」
大探索の総員より多いじゃないか。そんな大監獄が迷宮化して混沌を極めている。
「元は魔王城の監獄で、魔王が討たれると囚われた人々が解放された。やがて帝都が築かれると今度は罪人が捕えられたわけだが」
「フン、帝国もやることはやってたわけだ」
重罪人や国事犯、反逆者などを収容してきた地下監獄。ここで果てた彼らの声がまだ耳に残っている……。
「へぇー、さみしかったでしょ」
列の後ろでアイリーンの声、壁に向かって話している。
「アイリーンどしたの?」
「そこで会った幽霊と話してたの。皆には見えないかな?」
「生憎と」
随分と何でもないように対話するんだな。アイリーンらしいっちゃらしい。
「その幽霊に聞き込みできないかね?」
「うーんちょっと難しいかな。子供の霊だし、弱ってるみたい」
「子供までここに囚われていたんだ……」
それはすまないことを。
「あ、でも会ってほしい人がいるって」
「この監獄の中で?」
「うん。なんか物知りおじさんがいるんだって」
物知りおじさん……なんざそら。
幽霊とアイリーンに案内されて監獄を進む。途中いくつかの戦闘を挟みつつ、しばらく歩くと周囲の気配が変わった。
「この一帯は特に守りが固いようだな」
ホセがすぐに反応した。部屋の数は減り扉は重々しく、何重にも施錠された鍵が冷たい沈黙を保っている。
「結界の痕跡も残ってるみたいね」
「どうしても閉じ込めておきたい囚人がいたわけだ」
特別監房ってところか。その内の一室にアイリーンが近寄る。
「ウィル、ここ開けられる?」
「やってみるよ」
こいつはちょっと固そうだ。錠前だけに集中して“潜行”、余計なことは聞かないように、構造を把握することだけに意識を向けろ。
一つ、二つ、着実に解錠。そして全て開けると錆びた扉が軋みを上げた。
「……こいつは?」
その牢は異質だった。壁中に巡らされた呪文の列。その中心に安置されるのは……。
「棺?」
「……まあ、こんな場所だ。そんなこったろうと思ったが」
「これも開けられる?」
棺は鎖でぐるぐる巻きである。死してなお閉じ込めておこうというのか。
「下がってな、斧でぶった切ってやる」
ガロが斧を一閃、鎖を断ち切り棺もついでに損壊。
――ガタンッ。
「ひゃっ!?」
「……」
「今、棺が動いた?」
またこのパターンか……。
「おぉい勘弁してくれ、何が出てくるんだよ……」
「先手を打って滅却するかね」
「この人に会いに来たんでしょ?」
「フフ……クククククク……」
……棺から物の怪のような笑い声が。
「ククク……久しぶりに活きの良い獲物が舞い込んできた」
「全然友好的じゃない!」
「やっぱ先制攻撃だ!」
「あ、待って」
今度は少し動揺したように棺が揺れる。
「その、軽い冗談さ。生きてる客人は久しぶりなもので、ね」
「覚えのある声だ」
反応したのはホセ。
「だがおかしい、何故こんなところに」
「……私もその声を知っている。そしてこの魔力、我が友ホセだね?」
「まさか本当に……棺を開けてもらえないか?」
警戒しながら蓋を開けてみる。すると無数の影が棺から飛び出し、それが部屋の隅に集まると人の姿を取る。場違いなまでに豪奢な服を着て、ちょいとくたびれた感じの紳士だ。
「やはりレイヴァイン伯爵か」
「伯爵?」
「彼は帝国の貴族なのだよ」
「それが牢獄に、というか迷宮化したのにどうして生きて……」
「話すと長くなるけどね、簡単に言うと」
レイヴァインは自分の首に手をかけると無造作に力を加え、へし折った。
「いっ……!」
「お前何をして!?」
「あ――」
折れた首はすぐ元通りとなった。常識外れの回復力、そんな力を持つのは……。
「アンデッド?」
「そう、中でも高位の吸血鬼なのだよ」
ああもう、異質な出来事が続いてどう驚いたらいいのか分からん。
***
吸血鬼、強大な力と魔力、そして不死性を持つアンデッドの代表格で、その名の通り人を喰らい血をすするという怪物。まともじゃないとは思っていたけど、この牢屋が固く封じられていたのはそのせいか。
「帝国は吸血鬼まで貴族にしてるのかよ?」
「それには事情がある。彼はかつて魔王の配下だったが、勇者エレアに敗れると人類に協力するようになったのだ」
「じゃあホセとはその頃からの」
「不死者友達さ」
二人は不死友。勇者の戦いに吸血鬼の協力者までいたとは……。
「その後、エレアが帝国を築くと服属して伯爵の地位を与えられた。以来、長らく人類と歩調を合わせている」
「それがマクベタスと諸民族の争いに意見したら即投獄された。フフ、酷い奴だよ」
マクベタス、先代の皇帝が戦争をしていた頃のことか? じゃあいったい何年閉じ込められて……。
「なあホセ、この監獄おかしなことになっているけど、マクベタスは何をしてるんだい?」
「マクベタスは亡くなって、今はオズワルドが皇帝だ」
「オズワルド……あの何考えてるかよく分からない王子かい? 私が閉じ込められてから何年経ったのかな?」
「半世紀は過ぎているよ」
「半っ」
レイヴァインの蒼白な顔がもっと真っ青になった、さすがに哀れである……。この人の領地とか今どうなっとるんだっけ。
「……ホセ、私は君が取りなして解放されないかと期待していたのだが」
「ああ、その、うん」
「ずっと待ってたんだけどな……」
「すまない、忘れてた」
なんてやつ。




