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冒険に行こう

挿絵(By みてみん)


「冒険に行こう」


 そう言い出したのは誰だったか、記憶に(もや)がかかって遥か昔のことのように思える。その言葉を追いかけて俺は今ここにいる。


 というか走っている。


「追ってきてるぞ!」

「走れ走れ!」

「待って見てあれ! アレ!!!!」


 女剣士が引きつった声を上げるから振り返ってソレを見た。薄暗い通路の奥から重く硬質な足音とともに、異形の怪物が追いすがる。


 “ゴーレム”だ。超常的な神秘“魔法”の力で動く自動人形、無機質な攻撃者。


「しかし趣味悪いな!」

「輝いてやがるぜ!」


 通常ならば土や岩を素材に人型をしたものが多い。だがこいつは蜘蛛のごとく多脚で俊敏、そして全身金ピカに輝いていた。


「金だよ金、すごっ! いくらで売れるかな!?」

「過去にもっと珍しいゴーレムを見た。人間を素材にしたやつとかね」

「知りたくなかったな、その情報」

「んなこと言ってる場合か!」


 獣人が仲間を叱りつける。こんな状況での図太さは頼もしいが今は走ってくれ。


「ちょと、速い、待ってー」

「ああ、もう仕方ねえな!」


 遅れそうになった女神官、それを獣人が担いで走り始めた。助かるけど長くは持たない、状況を打開しなくては。


「魔法はいける?」

「あの大きさでは半端な魔法は通じない、時間がいる」

「ならもう少し行けば……!」


 俺は仲間を促して目的の場所まで逃げる。そして合図とともにジャンプ――!


 ――ガコン!!


 床に仕掛けられた落下罠。それを飛び越えてゴーレムだけを嵌めてやった、呻くような駆動音が空回りする。


「よし、今のうちに魔法を……!」

「待て、一人捕まった!」


 女剣士がゴーレムの腕に掴まれていた。最後の粘りで捕らえられたか。


「ストップ、魔法ストップ!」

「むむ」


 魔術師が躊躇(ちゅうちょ)する。獣人が唸る。女神官がどうしようと言う。そして女剣士は叫んだ。


「黄金は私のもんだ!」


 目を輝かせながらのサムズアップ。


「撃つね」

「えちょ」


 ――バシュッ。魔法炸裂、ゴーレムは爆発四散。




「これは酷い」


 黒焦げになった女剣士を横たえ治療に取り掛かる。


「治るのかこれ?」

「任せてー、ちょちょいのちょいっと」

「真面目にやれっての」

「だーいじょうぶだって」


 女神官の軽い口調と裏腹に、女剣士は光に包まれ見る見るうちに傷が治癒していく。


「良かった……」

「金は!?」

「意識はハッキリしてるな」


 俺は神妙な顔で指さした。そこには煤けた岩がゴロゴロと転がっている。


「何あの岩?」

「ゴーレム」

「金は?」

「先生、説明を」


 魔術師に振るとコホンと咳払い一つ。


「結論から言うとあのゴーレムは鉱物魔法と錬金術を組み合わせた代物だ。ご存じかと思うがゴーレムは岩や鉱物など様々な素材を魔法で結合し意のままに操るものだが、錬金術で岩を金に変えて組み上げた特殊なのゴーレムだったのだ。その目的はおそらく錬金で生み出した金をそれ自体に守護させるためだろう。そこに私の複合魔法を食らわせたことで奴を破壊することはできた。これはゴーレムを物理的に破壊するための爆破魔法と、魔術的に無力化するための解呪魔法を組み合わせたものであったため、岩にかかった錬金術まで解除してしまったものと考えられる」




「読み飛ばしたな」

「つまりどゆこと?」

「アレは元々ただの岩」

「ゲボォッ!」

「血を吐いた」


 卒倒した仲間を介抱する。これ以上の探索は諦めた方が良さそうだ。


「地上へ戻ろう。帰還の魔法を頼むよ」

「すぐ用意する。そうだ、あのゴーレムの破片はサンプルに持ち帰りたい」

「そっちはオレがやっとくわ」

「できれば500ポンドは欲しいかな」

「そんな持てるか!」


 ――ジャキンッ。音がしたので振り返ると今度は女神官が大変なことになっている。罠に触れてしまったのか、壁から飛び出した槍が彼女の腹を貫通していた。


「……あんまり無暗に触らないでって言ったよね?」

「ごめーんいだだだだだだ」


 引っこ抜くと血がブシュっと吹き出すが、そんな傷も彼女は瞬時に治癒してしまう。


「治った?」

「きれいさっぱり、ホラホラ」

「服めくったりしないの」


 仲間たちを横目に一つため息。俺は冒険に出た、そして今この地底にいる。


 ……だけど、どうしてこうなった。


「あーん、このままじゃ赤字だよ~」

「よしよし、帰ったら甘いもの食べにいこうね」

「できればゴーレムの主人を捕らえてサンプルにしたかったが」

「いいから帰り支度しろ!」


 何が切っ掛けだったろうか。色々あるだろうけど、あの日が変化の始まりだったか。俺は激動著しい最近の記憶を(さかのぼ)る。

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