9.今日は休日^^
入学式の翌日。
今日は土曜日だ。そして何と、この土日、部活が休みなのだ。何でも顧問の予定上、監督が出来ないらしく、休みとなった。
部活は部活で楽しいが、やはり何もない休日には勝てないのだ。
休みの日、俺が何をするのか。そんなことは初めから決まっている。
「おにぃ! じゅんびできたよっ!」
「お水は持ちましたか!」
「はい!」
「絆創膏は持ちましたか!」
「はい!」
「タオル、ハンカチは持ちましたか」
「はい!」
「ティッシュは持ちましたか!」
「はい!」
「よし! 行ってきます!」
「いってきます!」
元気いっぱいの理恵。そしてその可愛さにつられて元気いっぱいの俺。
そう、休みの日にやること。それは理恵とお出かけだ!
今日はこの元気いっぱいの大天使と少し離れたショッピングモールへお出かけするのだ! そしてその後は公園で遊んで、夕方頃に帰宅の予定である!
と、言っても。俺たちだけで行くのではない。
「んじゃ、私も行ってくるね~」
凜花ももちろん一緒だ。なぜなら、俺は女子トイレには入れないからだ。そして凜花もショッピングモールで買いたい物があるらしい。なんでも少し離れたところにしか、その店がないらしく、わざわざ近くのショッピングモールではなく離れた所に行くのはそのためだ。
「は~い、気をつけて行ってきてね~」
リビングからひょこっと顔を出したママンがにこやかに俺たちを送り出す。
「ゆう~、頼んだわよ~」
「は~い」
いざ! 久しぶりのお出かけへ!!
***
「おでかけっ、お~で~かけ~!!」
俺と手をつなぎながら、にっこにこでよく分からない歌を歌いながらご機嫌の理恵。
ああ、かわいい!! くそ! なんだこの生物はっ!
「ゆう兄、顔だらしないよ」
「っと」
いかんいかん、あまりの可愛さにニヤついていたようだ。
ここはショッピングモール。一般の人達もいるのだから、あまりニヤニヤしているのもいけな…やっぱり可愛いなぁ~!
「はあ、」
隣で凜花がため息をついているが、知ったことではない。
「あ! ねえね! あった! らふらんす!!」
「あ、ホントね。着いたわ」
「かわいいおようふくいっぱい!!」
理恵がラフランスと書かれた洋服店を指さしてはしゃぐ。
ラフランスは凜花が服をよく買っているお店だ。洋梨の名前そのままの店名を初めて聞いてしまった時は笑ってしまい、凜花にキレられたのを覚えている。
「よし、じゃあ理恵。行こうか!」
「うん! いく!」
「私、見て回ってくるから理恵のことよろしくね」
「任せろい!!」
「まかせろい!!」
「…じゃ、見てくるね」
凜花は店内に入ると、目当てのものや、自分にあう洋服を求めて、歩き回り始めた。
俺と理恵は同じく店内に入り、ぶらぶらする。
「かわいい~!!」
「お、理恵。このふりふりのやつがいいのか?」
「りえもはやく、おねえさんになってこれきたい!」
「そうかそうか。理恵がお姉さんになったらこの服はとっても似合うな?」
「うん!!」
間違いない。理恵が成長して、この服を着られるくらいの年齢になったらモテモテになっているだろう。そして、虫が理恵に寄ってくるのだ。そんなときは俺が全て撃退する。理恵は俺が認めた奴としか付き合わせない! 理恵は俺が守るのだ!!
「お、ここサングラスなんてのも売ってんのか。雑貨コーナーって感じだな」
「おにい! りえもさんぐらすする!」
「え、サングラスって何か分かるか? 理恵」
「ぱぱがやってるくろいやつ!」
「…そうだ! つけてみたいか!」
「うん!」
サングラスを知っていたことには驚いたが、付けてみたいと言うなら仕方がない。理恵のやりたいことはやらせてあげたいのだ。
俺はそこにあった、男女両方が使えるようなサングラスを取って理恵の耳にかけてあげた。
「ふおおおおお! くろい! よるになった!」
「な、な、なんて、者を生み出してしまったんだ…」
サングラスをかけてはしゃぐ理恵とは対照的に俺は驚愕していた。
サングラスをかけた理恵。可愛さ倍増じゃないか!! はしゃいでいるのも相まって凄まじい破壊力だ。まだ理恵には大きすぎるから顔の半分くらいが隠れてしまっている。でもそれが可愛い!
「よ、よし、理恵。それお兄ちゃんが買ってあげよう…」
「ほんと!?」
「うん、ほんと! ついでにお兄ちゃんも買ってお揃いにしよう!」
「おにいとおそろい! やったぁ!」
飛び跳ねながら喜ぶ理恵。サングラスには5000円と書かれていたが知ったことではない。俺は理恵と一緒にサングラスを二つレジに持っていき、買って、二人で着けた。
「ほら、お揃いだ。理恵」
「わあ~! おにいかっこいい! おそろい!」
「うっ」
胸が苦しくなる。か、かっこいいだと!? なんて、なんて男心を分かっているんだこの子は! よ、よし。
「理恵、お兄ちゃん、か、かっこいいか?」
「うん! かっこいいよ!」
「も、もう一回!」
「かっこいいいよ!」
「うっ、お兄ちゃんのこと好きか?」
「大好き!」
「くっ…」
可愛すぎる…! なんて破壊力だ! 大好きの時なんて満面の笑みだぞ。我が妹ながらやはり可愛い!!
「……何やってんの?」
理恵と一緒にはしゃいでいると、買い物袋を抱えた凜花が変なものを見る目で近づいてきた。
「あ、凜花。見ろ、俺と理恵はおそろいだ」
「おそろいだよ!」
「……私も買ってくる」
ふっ。クールぶってはいてもやはりあいつも俺の妹。理恵とお揃いで着けることが出来ることにはあらがえないらしいな。
「みんなおそろい!」
「な、おそろいだな~」
「うん!」
ショッピングモールの中でサングラスを着けて俺たち三人は歩いている。
理恵は大満足の様でるんるんだ。
「じゃあ、次はお昼ご飯食べようか!」
「うん!!」
「何が食べたい?」
「はんばーぐ!!」
「よしきた! 行くぞハンバーーグ!!」
「いくぞ~!」
「じゃ、理恵はここで凜花と待っておくんだよ? お兄ちゃんが取ってきてあげるから」
「うん! ありがと!」
「うっ、じゃ、じゃあ頼んだよ、凜花」
「は~い、いってら~」
フードコートにてハンバーグを頼み、待っているとブザーが鳴ったので取りに行く俺。
今回は凜花と理恵の分で、俺の分は後から別で頼みに行くことにした。理恵は一個は食べられないので凜花とダブルハンバーグを分ける様にしている。
サングラスを頭に引っかけ、フードコート内を歩く。
昼時であるため、多少混んではいるが、他の飲食店もショッピングモール内にあるため行列が出来るほどではない。
早く戻って、理恵と一緒にご飯食べたいな。手と口を拭いてあげなくては…。
ん?
ふと、ある人物が目にとまる。なんか見たことあるような感じ。
ベレー帽を目深にかぶって、髪を後ろで結んでいる。どうやら何かを食べている。
なぜか気になる…。なんか知ってる人な気がする…。
気になったので、少し近づいて誰なのか見てみることにした。知らない人だったらいけないので、さりげなく。
何を食べて…、え、うそでしょ…。あれ、クワトロハンバーグじゃん…。
四枚のハンバーグが載ったプレートをバクバクと食べている。さらに、米も食べている。見た感じ女の子で、なんなら痩せている方だと思う。どこにそんな量が入ってるんだ…。
やっぱり気になるな…。
どうしても誰なのか気になるな。
あ。
その子の方をずっと見ていると、不意にその子が顔を上げた。
そして目が合ったのだ。その子は、すぐに目をそらし、うつむいて固まった。
………まじか…。