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14.ゆでられたタコ


 教室はざわざわとしていた。

 噂が飛び交っている。それは先日突然、学校の非公式鍵アカウントからSNSに投下された写真によるものだった。

 教室を去る顔の紅い春祐一という生徒を正面から移した写真と、同じく顔を紅くして嬉しそうに笑っている小野桜の写真。そしてそれと共に投下された『春祐一は姫を奪った我らの敵』という文字。

 悲しくも、その非公式アカウントをフォローしている生徒は大勢いた。故に一瞬で話は拡散されていったのだ。


 写真を見て春祐一が告白して小野桜がそれを受けたと判断する者。それはまだ時期尚早だとブレーキをかける者。姫のスキャンダルに沸き立つ野次馬。

 春祐一は始業式の日から姫に近すぎると一部の人間から危険視されていた人物だった。それだけでなく、春祐一と言う人物は一部で問題児として少し有名だった。それも相まって学校全体にその噂は広まっていた。




 ***




 ガラガラっ!



 勢いよくドアが開く。今は登校の時間帯だ。だからドアが勢いよく開いてもなんら不思議ではない。だれかが廊下に出たか、登校してきたのだくらいにしか思わない。

 しかし、今は状況が違う。登校してきた生徒誰もがその人物を待っていた。


「え、恐っ」


 その人物は教室のドアを開いた瞬間集まる視線に少し恐怖をしたようだ。

 無理もないだろう。これまでだったらすぐに逸れていた視線が一転、じろじろと見られている。


「……」


 その人物は他の生徒と目を合わせないようにしながら、すっと席に着いた。

 そして、本を取り出し、読み始めた。

 誰も声をかけない。かけられない。皆が皆、周りの出方を窺っていた。







 ***




 …………。

 


 見過ぎだろ! 昨日までわざと見ないようにしてたじゃん!! 昨日みたいにしてろよ! そんなに観察されたら緊張するだろうが!


 十中八九あの写真と投稿のせいだ。だってみんなスマホ見ながらこっち見てるやついるもん。それでもそいつはチラチラとかだからいいんだけど。他の奴ら、ほぼ凝視。

 異常だろ!! 


 見ろ、名倉の奴なんか殺す勢いだぞあの目。充血しちゃってんじゃん。てか口動いてるし。明らかにコロスって言ってるよ。


 俺は今後どうなってしまうのだろうか……。



 俺が今後の生活について、いや俺の命について不安視していると後ろから声がかかった。


「あ、春。もう来てたんだ。おはよ~」

「お、おはよう。佐藤さん…」

「いや~、大変なことになったねぇ」


 他人事だからだろうか、にやにやとこちらを向いて話しかけてくる。

 それでも佐藤さんなら誤解を解いてくれるかも知れない。こういう恋愛話は本人からではほとんど意味はない。第三者、それもそこそこ仲がいい人からの言葉が一番効くのだ。


「さ、佐藤さん。…頼む、この噂どうにかして…!」


 俺は藁にもすがる勢いだ。

 だってクラスに入るまでも凝視されて、クラスに入っても凝視されて。廊下なんてやばかったぞ。わざわざ歩いているのに止まって見てる奴もいたし、なぜか俺の前の人達がまるでモーゼの十戒の絵画ように割れていくのだ。ちょっと気持ちよかったけど。

 このまま穴が開くように見られては、俺の胃に穴が開いちゃう。…あ、ちょっとうまい。


 そんなことを考えていたからか、佐藤さんは予想外の答えを返してきた。


「う~ん、嫌だ!」

「なぜ!」


 この悪魔! 悪女! 性悪! サディスト! ギャル!」


「…途中から聞こえてんのよ。てかギャルは悪口じゃないでしょ」


 …しまった。心の声が漏れてしまったらしい。千載一遇のチャンスが……。


「す、すみません。で、でもなぜお助け下さらないのですか…」

「面白そうだから。さっき小野さん…もう桜でいいや。桜見たけど、面白いことになってたよ」

「…最低じゃないか……」

「ギャルは噂が好きなのよ」


 意味分からん…。友人が窮地なのに助けないとかこいつはやっぱり悪魔なのだろうか?試しにニンニクと十字架用意してこいつの鞄に詰めてやろうか。ニンニクはもちろんすりおろしだ。…え? それは吸血鬼? うるせえ!


「あ、噂をすれば、来たよ春」

「んえ」

「あんたのこ・い・び・と」


 佐藤さん、いや、こいつはもう佐藤だ。敬称なんていらない!

 佐藤が火に油を注ぐような真似をするので、クラスがより騒がしくなった。

 やっぱりそうなんだ! とか きゃあ! とか聞こえる。

 

 ……このアマァ!!


 

 

「は、春。お、おはよう」



 ………。


 

 春。そう俺を呼ぶのは数人しかいない。まず、俊也。そして幼馴染の美咲。んで、バレー部の先輩達。佐藤。

 でも、横から聞こえる声はそのどれとも違う。でも聞いた事はある。何なら昨日聞いた。

 しかしその人は学校では俺のことは春さんと呼んでいたはずだ。俺の記憶が正しければ。


 ゆっくりと俺はその人物に目を向ける。




「は、春? おはよう」



 そこには茹で上がったタコのように顔を紅くした小野さんが立っていた。


「お、おはよう」

「う、うん、じゃ、じゃあまた後で…」

「あ、うん」

 

 ……いや、友達になったし、昨日遊びに行ったからってことなんだろうし、口調も友人に接するなら敬語なんていらないよね。うん。俺もそう思う。

 でもね? 小野さん。違うんだよ。タイミングが。

 しかも廊下とで何か言われたんだろ? 顔が真っ赤だったじゃないか。



 仕方ない。仕方ないとは思ってるんだ。

 でも、でもさ。



 小野さんがそんな反応しちゃったら、噂が本当っぽくなっちゃうだろうがああああああああああああああああ!!!!






 


「あ~おもろっ!」




 


 


 

 

 


 

 

 

 

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