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13.バッフェには人をおかしくさせる魔力がある


 ガラガラっと。


 教室に入るとみんなの視線がこちらに向いて慌てて、一瞬で逸らされる。

 ふふっ。いや~、素晴らしい団結力。


「おはよ、春」

「あ、おはよう佐藤さん」


 そんななか、変わらず話しかけてくれる佐藤さん。

 ありがとう佐藤さん。君がいなかったら俺は、逃げ出していたかも……。


「おはようございます。春さん」

「あ、小野さんもおはよう」


 わざわざ少し離れた席にいた小野さんがこちらに歩いてきて、挨拶をしてくれた。

 昨日のことが少し恥ずかしのか、若干顔が紅い。

 そして、小野さんが挨拶をしにきたことに少し驚いているのか周りが驚いた顔で見ていた。

 

 特に名倉。ふふっ。とんでもなく間抜けな顔をしてやがるぜ…!


「は、春さんはき、昨日何食べたんですか…?」


 おそらく、口調に関してはみんなの前だからって所だろう。でも、話すことはするらしく、話題を投げてきた。


 初っぱなから昨日のご飯の話か…。え、話題の作り方下手すぎないか?

 い、いや、だめだ。小野さんはせっかく話しかけてくれたのだ俺も答えるべきだろう。


「ハンバーグ!!」

「は、ハンバーグ食べたんですか…。どうでしたか?」

「おいしかったよ~。肉汁がジュワジュワーッて感じで」

「ふふっ、おいしそうですね?」

「いや~ママン、…母さんの作るハンバーグは世界一だね~」


 危ない危ない。高校生でママンなんて呼んでるのがバレたらやっていけないぜ…。

 ふぅ……。


「そ、そうなんですね。私は昨日はロコモコ丼を食べました。似てますねっ!」

「…ロコモコ丼? 何その「いつでも遊べるドンッ!」みたいな」

「あんた馬鹿なの? ハンバーグを米に乗っけて目玉焼き乗せてるやつよ」

「佐藤さん知ってんの? まじかよ」

「…あんた、うちのこと何だと思ってんの?」

「見た目は清楚。心はギャル。表裏一体の存在」

「…ぶっ飛ばすわよ?」

「ふふふっ」

「桜?」

「あ、ごめんなさい。面白くて…」


 眉間にしわを寄せながら俺たちをにらみつける佐藤さん。やはりこころはギャルだ。じゃなかったらこんな顔できないもの。こっわ。

 てかキレちゃって桜呼びじゃ~ん。


「あ、そう言えばあんた、今日放課後いけんの?」

「昨日LIMEで言ってたやつ?」

「そそ」


 昨日の夜、小野さんと佐藤さんと俺のグループが作られ、今日の放課後のことについて話されていた。

 何か来ていたが、話している最中で寝ちゃったのだ。


「ああ、多分大丈夫。今日は部活早番だし。あ、俊也も誘っていい?」

「うちはいいけど、小野さんはど?」

「私も大丈夫ですよ。春さんのお友達なら全然大丈夫です」

「おけおけ、じゃあ俊也にも声かけてみるわ~」


 





 ***



「と、言うわけで。今からこの4人でパフェを食べに行きます」

「おー!」

「…いや何言ってんの?」


 部活終わり。俊也を連れて小野さん達と合流して一言。

 俊也には何も言わずとりあえず連れてきた。なぜ言わなかったのか。

 理由は単純。小野さんがいるとしたらこいつは絶対来ないから。これまで俊也といたときに小野さん達が話かけてきたことがあったがその度にこいつはなんか逃げようとしてた。俺を置いて教室に行くような奴だ。言ったら来ないに決まってる。


「おい…! 何の話だ…!」


 小野さん達がいる手前、大声も出せないのでこそっと言ってくる。

 なんだよ、俊也ぁ。随分と焦ってるじゃあないかぁ。


「今言ったろ。パフェ食べに行くんだよ」

「そうじゃない…! そんな話聞いてないぞ…!」

「言ってないからなぁ」


 いかんいかん。思わず頬が上がってしまうよ。

 俊也といえば目をきょろきょろさせながら落ち着かないようだ。


「てめっ…!」

「おやぁ? まさか断るのかなぁ? 見ろよあの二人の顔を。昨日から楽しみにしてたそうだぞぉ?」


 小野さんと佐藤さんは二人でスマホを見ながらはしゃいでいる。

 今日行くカフェはインスタで最近有名になっているカフェで、そこのパフェが話題となっているのだ。昨日の夜、佐藤さんがそこに行きたいと言いだし、小野さんはもちろん、せっかく友達になったんだし一緒に行きましょうと言うことで俺も行くことになった。

 小野さんも女子なので映えには一応関心があるらしい。しかもそのパフェは女子受けを狙ってか可愛いデコレーションがされている。

 と言うわけで小野さんも佐藤さんもテンション上げ上げである。小野さんはにっこにこだ。


「…てめぇ」

「行く、でいいな?」


 渋々と言った感じだが俊也は頷いた。


「よし、じゃあレツゴ!!」

「おー!」


 二人の方に向き直って拳を突き上げると、佐藤さんが元気に拳を挙げた。










「うおおおおおお、こ、これがハムパフェ…」

「可愛いっしょ!」


 俺の目の前にはお目当てのパフェがこちらを見ていた。

 いや、正確にはパフェの上にメレンゲで作られたつぶらな瞳をしたハムスターがこちらを見ていた。

 な、なるほど…。中々やるではないか…。


 お目当てのパフェに着いた俺たちは数分待った後、タイミングよく出た女子高生グループと入れ替わるように店内に入ることが出来た。四人がけの席に座り、俺の前に小野さん、俊也の前に佐藤さんという形で座っていた。

 俊也も来ると決まった以上、嫌な顔せずににこやかに着いてきた。道中はとんでもなくどうでもいい話をみんなでしながらやってきたのだ。


「おい、春」


 小声で俊也が話しかけてきた。

 え、何こいつ。さっきまで「楽しみだな」とか言いながらにこにこ知ったのにめっちゃ真剣な顔してんだけど。


「…なに」

「俺、こいつ飼うわ」

「何言ってんのお前」


 だめだ。俊也がイカレてしまった。

 メレンゲハムスターの可愛さにやられてしまったらしい。今もなんかどうやったら家に持って帰れるかをブツブツ言ってる。

 俊也…。楽しそうで何よりだよ。


「私この子飼う! ムーちゃん!」


 おっと、もう一人おかしい奴がいたわ。

 今度は佐藤さんがメレンゲのハムスターを愛でている。目が常軌を逸している。

 瞳孔開いてんじゃん…。こわぁ。


「ムーちゃんか。俺のはハムの助だ!」


 俊也がさらにおかしくなった。

 メレンゲに名前を付けて、ハムの助、ご飯いるか? とか言ってる。

 こいつ実は疲れてんのかな…。今度なんか奢ってやるか。



 

「春、これおいしそうだね!」


 頭のおかしい二人とは違い、こっちはまともだった。

 小野さんはテンションマックスだ。スプーン持ったまま目を爛々と輝かせている。

 …しかし可愛いよりもおいしそうか。おかしいな、可愛いもの好きのはずなのに食欲が勝ってしまったか…。


「だね、小野さん。さてさて、そろそろ食べるか。あんまり時間もないし」


 一応部活後なのでそんなに時間はない。もう店外は薄暗くなっている。

 そろそろ切り上げて帰らないとママンが心配しちゃう。


「食べよ!」


 小野さんは元気にそう言って、持っていたスプーンを思いのままに、






 

 ……ハムスターの脳天に突き刺した。




 

「ハムの助ーっ!!」

「ムーちゃああああああん!!」


 うるせえなこの二人……。




 


 


 ***



「じゃあね~」

「また明日!」


 小野さんと佐藤さんがこっちに向かって手を振っている。


「うい~、じゃあまた明日~」

「は、ハムの助食べちゃった…」


 なんか落ち込んでいるアホは放っておいて、二人に手を振る。

 二人とは途中まで一緒に帰ってきたが道が分かれたのでそこでお別れとすることにしたのあ。ちなみに俊也は俺の家の近所なので一緒に帰っている。

 二人の姿が見えなくなるまで俺は手を振り続け、隣の馬鹿はへこんでいた。








「…んで、なんでお前小野さんとあんな仲なん?」


 小野さん達の姿が見えなくなると俊也は俺に聞いてきた。

 まあ、気になるわな。数日前まで関わったことないとか言ってた俺が今や一緒にパフェまで食べに行ってるのだ。


「…う~ん、友達になったからかな」

「何だよ煮え切らないなぁ」

「小野さんに友達になってほしいって言われたらなるだろ」

「ま、それもそうか。よっと」


 歩道と車道の境目にあるブロックに跳びながら俊也は驚いた様子もなく言った。


「…驚かないのか? 小野さんに友達になってほしいっていわれたこと」

「いや、驚いてたよ、最初は。でもあんなに可愛くて完璧だったらそりゃあんまり友達はいないだろうなぁとも思ってたし」

「そうなのか。俺は逆だったなぁ。いると思ってたわ」

「ああいう人は、敬遠されるんだよ。人って自分よりも容姿が何倍も優れていたり、頭が良すぎる人には憧れても、隣を歩きたいとは思わないもんだよ」

「そんなもんか?」

「多分なっと。女子はそんな感じだろうし、男子はなぁ。あのスタイルと顔なら下心なく近づく奴はいないだろうなぁ」

「…俺も一応男なんだが」

「さあ? それは小野さんの中で感じたんじゃないか? 他の男子と違うって。実際、お前、小野さんに異性としての魅力とか感じてないだろ」

「まあ、うん」


 実際そうだ。小野さんに異性としての魅力、つまりは性的欲求や恋愛的な魅力は全く感じていない。

 でも嫌いなわけじゃない。むしろ好きな部類ではある。ゲームとかしてるし。

 綺麗な人だと思うことはあっても好きになることはない。

 

「ま、そういう所がなんとなく分かったんじゃないか?」

「そういうもんかね」

「ん、多分な」


 不意に始まった話題。でも俊也なりの考えを聞けた。俊也はたまにこう言う真面目な話をする。それは決まって俺に何かあった時や、俺が悩んでいる時だ。今回は別に悩んでもいないが。


「それはそうと、お前。これから大変じゃね?」


 俊也はそんなことを言い出す。

 ブロックの上を歩きながら平均棒のように手を水平に伸ばして。

 

「え、何が?」

「え、お前知らないの?」

「…何が?」


 なんか嫌な予感がする……。 

 

 俊也はポケットからスマホを出しながらポチポチと何かを操作して、俺の方へ画面を向けてきた。


 そこには俺の写真と、小野さんの写真。

 俺が4階の空き教室からエナメルバックを持って出て行く写真。俺の顔は日に照らされているからか少し紅い。

 そして小野さんが携帯をおでこに当てながら顔を隠すようにしてニマニマしている写真。

 そして


『春祐一が出てきた教室には顔を紅くして笑顔の姫。

 春祐一は姫を奪った我らの敵』


 の文字。




 


 やっべええええええええええええええええ!!!!


 




 


 





……。ガリッ。



 

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