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11.お友達!! お友達!?


 「はい、では今日の授業はここまでとする」


 今日の授業が全て終了する。

 ここまで長かった…。5限目は非常に眠かったが、後の6、7限目はしっかりと起きていた。しかし、内容が大体オリエンテーションで、どこまで何をどういう風に学ぶのかと言うのが題材であった。故に暇。かなりどうでもいいことを話されていたので、退屈だったのだ。

 

 俺は教材をしまい、代わりに今朝受け取った紙切れを取り出した。


「放課後、4階の空き教室に来て下さい。か」


 この学校は無駄に広いので、空き教室が何カ所かある。鍵は解放されていて生徒達が自由に使っている。


 小野さんは…と、早! もういないじゃん…。


 先ほど授業を終えたばかりなのにもういないじゃん! どんなスピードで出て行ったんだ。しかもあれだけ目立つのに全然分からなかったぞ…。






 ***




 4階空き教室。

 何カ所かあるその教室を一つ一つ回っていく。まだ他の生徒達は来ていない様で誰もいない。



 

 あ。いた。



 

 4階の一番奥の空き教室。そこにやってくると、小野さんがいた。椅子に座って本を読んでいる。窓から差し込む夕日と相まって、まるでアニメの中にでも入ったかのような風景が映し出されていた。


「小野さん。来たよ」

「…春さん。ありがとうございます」


 小野さんはパタンと本を閉じてこちらに目を向ける。改めて見るとやはり姫と言われるだけはある。綺麗な瞳をしていた。


 


 …なんか、ちょっとドキドキしてきたな…。何言われるんだろう…。


「春さん、あなたに言いたいことがあります」


 小野さんはいつもは凜とした声をしている。

 でも今は少し声が震えている。

 

「……はい」


 少し、小野さんの顔が紅い。

 まさか…。まさかそうなのか…!? いや、でもまだ話して数日だし、小野さんのことよく分かってないし…。


「私、あなたが……」


 

 ゴクリッ。

 


 バクバクと心臓が激しく騒ぎ立てる。

 お、落ち着け、俺。れ、冷静に受け止めるんだ。




「あなたが…」



 小野さんの口に目が行く。その口から何を言うつもりなのか。かつてない集中力を発揮して見つめる。


 そしてついに、彼女の口から音が紡がれる……。



 


「あなたが、土曜日のことを言わないか気が気じゃなかったんです!!」

「……………え?」

「だ、だから、土曜日にフードコートで見たことを言わないか不安だったんです!」


 ん?? え? あなたが好きなんですじゃないの? ん? え?


「ど、土曜日…?」

「私がハンバーグを4枚も食べたり、その、ゲームを買ってたり…」

「…あ、あ~、ああ、あれね」


 なんだ、そんなことか…。…え、それだけ!?

 あんなのショッピングモールでちょっと知り合いに会っちゃったって感じじゃないの?

 えっと、しかもそれを言わないかって? 誰に……。

 俺が「小野さんと会ったよ!」なんて言ってみろ。名倉あたりがキレて殴りかかってくるぞ。



 

「その、ひ、引かないんですか…? 私があんな風だったってことに…」

「…? えっと、ごめん小野さん。話がよく見えないというか何と言うか…」


 なんか顔真っ赤じゃん、小野さん。そしてちょっと涙目だし。いい加減にしないと、俺も好きになっちゃいそうだ。……いや、理恵が一番だけどね!


「わ、私、昔から大食いで…、ゲームとかアニメとか好きで…」

「あ、うん…」


 もうよく分からんけどとりあえず聞くことにする。じゃないと話進まないと思うし。

 てか、こんなところ見られたら俺、学校生活おわるよね…。

 学校の姫の顔が真っ赤で涙目なんだもん。一刻も早く終わらせたいな…。


「でも、中学校の時に仲良くしてた子達にそれを言ったら引かれて、なんか思ってたのと違ったって言われて…」

「あぁ…」

「…特にアニメとか好きなの気持ち悪いって言われて…」


 要領を得ないがつまりは、中学校の時に仲良くなった人に実はたくさん食べるとか、アニメが好きとか自分を晒したら気持ち悪がられたと。ふむ。

 アニメや漫画は俺も好きだし、俺の周りには気持ち悪いと言う人はいなかったけど、彼女の周りにはたまたまいたのだろう。やはり、今もアニメが気持ち悪いと言う奴はいる。それはもちろんメジャーなアニメに対してではない。アニメが好きで自分で発掘している奴らが見るようなアニメに対してだ。…ちなみに俺はそういうの大好きです。


「そ、それで友達もいなくなって…」


 彼女の友達はそういう人種だったようだ。人には好き嫌いがあるからな。ある意味仕方がないのかも知れない。でも、友達をやめるまでになるのはなんか変だ。


「だから、高校は親の引っ越しに合わせてここにして、友達も新しく作ろうと思ったの…」


 あ、引っ越してたんだ。だから彼女の中学生の時の話を知っている人はいないのか。


「でも、こっちに来たら姫とか言われて、お嬢様なんだとか、休みの日はアフタヌーンティーを楽しんでるとか言われて、それに合わせて自分を作って…」


 なんと。つまりはみんなが見ていた小野桜という人物はみんなの期待や声が作り上げたと。


「それでも引かれないように、みんなに嫌われないようにしてきたの…。でもこの前春さんに見られて…、引かれたと思って、またみんなから嫌われると思うと恐くなって…」




 ………。


 

「…なるほど。小野さん、とりあえず俺は誰にも言ってないし、特に引いたりもしてないよ」

「…え」


 そんなことで引くような甘ちゃんと一緒にしてもらったら困る。


「だって、大食いなのもゲームが好きなのも小野さんじゃん? そもそも引くも何も、俺、小野さんがどれくらい食べるのかとか何が好きとか知らないし」

「……」

「それにさ、俺、別に小野さんを特別な人とか、まるでお姫様みたいなんて思って接してないよ? 確かに見た目は綺麗だし、性格も優しいとは思うけど、ただ一人の人間として接してる」

「……」

「う~ん、なんて言ったら良いのかな。何と言うか、たくさん食べてるのを見ても、あ、そういう人なんだって感じしか思わなかったな…」


 伝わっただろうか? 俺はあまり言語化するのが得意ではないので伝わったか不安だ。逆に彼女を傷つけることになってないといいが…。

 とにかく俺はそこまで小野桜と言う人物に先入観的なものを持っていない。でも確かに、他の人、特に男子連中は彼女を聖女か何かだと思っている節がある。


「…いなら…」


 ん? うつむいたままの小野さんが何か言った気がする。


「引かないなら…」

「ひ、引かないなら…?」

「わ、私と、お、お友達に…なってくれ、ませんか」


 最後の方に行くにつれて声がどんどん小さくなっていった。

 …え! 友達じゃなかったの!? 俺たち!! 衝撃なんだけど!?


「……な」

「私、さっき言ったように自分を作って、みんなの理想に沿うようにしてきたから、ホントに友達って言える人っていなくて…」

「…ほんとの友達?」

「その、春さんと俊也さん、みたいな、仲のいい友達が…」

「…え、そうなの? あ、まあそうか…」


 確かに自分を偽って作り上げた小野桜という人物で言えばそれなりに話せる人はいるんだろう。みんな話しかけてくるし。でも、友人はいないと。素の自分。仮面を脱いだ小野桜と言う人物には友達はいない。


「ど、どうですか? 私とお友達に…」


 これまでの俺が見てきた小野桜はキリッとしていてしっかりしてて、そんな女子生徒だった。でも今の俺の前にいるのはその全てを捨てた、小野桜。不安げで、小動物の様に他者の様子を窺う。そんな人。

 なるほど。俺がこれまで友達だと思っていた小野桜とは別の人物みたいだ。

 でも。


「ああ、もちろん、友達になろう」


 拒む理由なんてない。彼女のこれまでの行動は確かに作られたものであったとしても、その根底にある優しさは決して作り物ではない。そう感じるからだ。

 そして何より、俺に友達になろうと言ってくれた。


「ほ、本当!?」

「ああ、本当だよ」


 不安げな表情から一点、晴れやかな笑みを浮かべる小野さん。


「やった!!」


 ガッツポーズをして喜ぶ小野さん。

 これまで見たことないほどに感情を表に出している。こんな体全身で喜びを表されると少し照れくさくなってしまう…。


「あ、春さん!! LIME! LIME交換しよ!」

「あ、ああいいよ」


 こっちが本当の小野さんなのだろう。気を遣った様子も、丁寧過ぎることもない。何となく、俺はこっちの小野さんの方が好きだなぁ。


 LIMEのQRコードを差し出し、小野さんとLIMEを交換した。


「やった! 初めて友達とLIME交換できた!」


 初めてLIMEが交換できたとはしゃぐ小野さん。俺が初めてなんて思ってもみなかったが…。

 ん? おかしくないか? だって懇親会の時…。

 

「…あれ? 佐藤さんは…?」

「あ、みーちゃんは」


 みーちゃん!?


「親戚だよ~」

「親戚なの!?」


 あの隠れギャルと小野さんが!? 血のつながりを一切感じないぞ!?


「あ、ごめん! いつもの口調に戻っちゃってる」


 小野さんはなぜか慌てた様に言った。

 俺はそれどころじゃない…。


「あ、春さん? 春君? いつもの口調…」

「春でいいよ。あと、口調も別に話しやすい方でいいよ…」

「あ、じゃあ春って呼ぶね! ありがと!」


 うっ。ちょ、ちょっと照れるじゃないか…。

 ま、いいか。小野さんは楽しそうだし、スマホの画面見ながらニヤニヤ、いやニコニコしてるし。


 

 それに、そろそろ部活の時間になってしまう。

 俺は置いていたエナメルバックを肩にかけて、ニコニコしている小野さんに声をかけた。


「じゃあ、小野さん。これからよろしくね」

「うん! 春もよろしくね!」

「じゃ、俺、部活だから」

「うん! 頑張って! 今日は体育館違うけど応援してるよ!!」

「あ、お、おう。ありがとう」


 なぜか少し照れくさくなってしまった俺は顔が熱くなるのを感じながら、急いでその場を後にした。



 教室にはまだ、ニコニコしている小野さんがいた。















 ……ギリリリッ。


 




 






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