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1.春は俺の季節


 4月。

 4月と言えば桜が舞い、新たな出会いや生活に期待をする季節。

 特に、学生であるならば、誰もが心をざわつかせるイベントがある。


 そう、クラス替えである。


 クラス替えは大抵の生徒に取っては、楽しみであり、不安なイベントだ。

 好きな人と一緒になれるかな、○○ちゃんと離ればなれになったらどうしよう。そんな風に考えるだろう。大人から見れば些細なことなのかも知れない。

 しかし! 

 学生に取っては今後一年間の学生生活を左右する一大事なのである。

 

 かく言う俺、春祐一もそんなイベントに心をざわつかせる1人であった。





「はよー」


 春休みが明けて、初日の登校日。

 よく晴れ、気持ちの良い風が吹く朝に、後ろから眠たげな声がかけられる。


「おお、はよ。眠そうだな」

「昨日、夜まで美咲と電話しててな~」


 開いているのか開いて居ないのか分からないような顔で声をかけて来たのは、高橋俊也。去年、同じクラスで同じ部活になった友人である。


「美咲との電話って疲れそうだな。あいつ口うるさいし」

「いや~、分かってないね~、春は。普段口うるさいからデレた時に燃えるんだろうが」

「うぜぇ……」


 先ほどまでの眠そうな顔をにやつかせながら、鼻で笑う様に俊也はいった。

 いつもこいつはこうである。隙を与えれば、美咲の自慢をして、彼女がいない俺をからかってくる。

 

 別に、俺は彼女が作れないわけじゃない。()()()()()()()()()()だけなのだ。だって、作れば自分の時間が減るからな。自己投資が重要なこの時期に彼女を作って遊ぶなど馬鹿げている。 

 …そう、俺は彼女を作らないだけなのだ。だから、羨ましくはない。


「っと、噂をすれば、美咲だ」

「ん…」


 顔を上げると、通学路の先に、女子生徒が立っている。黒髪を後ろで一つに結び、きつそうな見た目をした生徒。俺の幼馴染であり、俊也の彼女である、野々宮美咲である。


「おはよう、俊也。あ、あと春」

「おはよう! 美咲!」

「おい、待て。何だそのおまけみたいな扱いは…」


 思わず、声が出てしまう。昔からだが、こいつは俺の扱いがひどい。まるで下僕の様に俺を扱いやがる。もちろん、俺だって人間だ。堪忍袋の緒が切れたこともある。

 でも、泣かされた。悉く負けを刻まれているのだ。


「あら、そんなつもりはないのだけれど。そんな風に聞こえてしまったかしら」


 女王の笑みである。悪びれた様子などない。下々の者をおもちゃにして遊んでいる。

 しかし、新学年に上がり、心機一転の今日、俺は反旗を翻すのだ。女王への反乱だ!


「ああ、聞こえたね。美咲、前から思っていたが、俺だって…」

「は?」

「お、俺だって…」

「……」

「す、すみませんでした。何でもないです」

「そう、ならいいのよ」



 …すんごい形相で睨まれた。それはもう殺す勢いだ。愚民風情が何を意見してるのよとでも言わんばかりだ。

 膝が笑ってやがるぜ。


「なあ、美咲! 今日、クラス替えだぞ!」


 俊也は美咲が来てから犬の様にはしゃいでいる。俺を助けることもせずにすごい笑顔だ。


「ええ、そうね。同じクラスになれると良いわね」

「おう! 春もな!」


 真ん中を歩く俊也はそう言って両端の俺と美咲に腕を回す。


「きゃっ」

「おっ」


 ガッと肩を組み、俊也はにこやかに言う。


「同じクラスでも違うクラスでも、これからもよろしくな!」

「…何言ってるの、当り前でしょ?」

「だな。今更だ」


 俊也にいきなり近づいたからか、美咲の顔が赤い。きつい所もあるが、こいつは初心なのだ。甘ちゃんなのだ。でもそこを指摘すると泣かされる。


 俊也はいつも、いきなりこんなことする。

 いつもなら、うっとうしいが、今日は別だ。なんとなく、嬉しく感じている。

 


 やはり俺も、クラス替えに心を躍らす一般的な学生なのだと、改めて実感した。







 


 

 


 


 









 

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