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鉱山での攻防

「うわあああああ!誰かあ!!」


町の方から、背の低くて子供みたいな体格の人々が逃げて来た。


バイキングみたいな角付きのヘルメットをかぶっていて、レザーアーマーを着ている。どうやら女性達のようだ。


ジェイドが、走り去ろうとする女性達の1人を捕まえた。


「おい、俺達は月光だ!一体どうしたんだ!?」


鎧の襟元を掴まれた女性は必死に逃れようとしていたが、ジェイドが月光と言ったらバッと振り向いた。


「月光!?ドロテウナの冒険者パーティーの!?」


「ああ、そうだ。何があった!?」


ジェイドは襟から手を離した。女性は俺達を見回すと、口早に喋り始めた。


「あんた達も逃げた方が良いよ!!あんな大群なんて無理だよっ!坑道方面からゴブリンの集団が攻めて来て、町の南門で男達と激戦になっているんだ!」


「敵の数と状況は?」


「武装したゴブリン多数!多分100体以上、それと魔法を使う奴が1人!」


「判った!感謝する!!」


女性は走り去ろうとして、興味がわいたのか近くの岩陰に隠れて俺達の様子をうかがっている。


「...よし、ゴブリンなら何とかなりそうだが、問題は魔法だな。イザベラ、何とかなりそうか?」


ジェイドの問いに、イザベラは首をかしげた。


「うーん、さっきのが爆烈の魔法なら、相手のレベルによるわね。大した威力がなければ防げるわ。」


「...よし、俺に考えがある!皆、行くぞ!!」


全員が頷いた。俺達は止めようと声をかける女性を横目に、町へ突入した。正門に門番とかは居なかったので、すんなり入れた。


そのまま激しい金属音のする方向へ向かって走った。


「うわあ...!!」


俺達は絶句した。無数の屈強な体格の男性が倒れていた。全員が部分的、または全身に酷い火傷を負い、中には腕や足が無くなっている者もいる。


それを、背が小学生位の青黒い色の人型生物が、レザーアーマーを着て槍や小剣でトドメを刺している。


こちらに気付き、10体以上が襲いかかって来た!


「イザベラは、魔力温存、他はゴブリンを各個撃破だ!!」


各々が頷くと、近くの敵へ攻撃をしかけた。ふーん、あれがゴブリンかあ。思ったより強そうだな。どれどれ...


俺はショートソードで切りかかって来たゴブリンの攻撃を見切って回避した。


正面から突いて来た剣筋を体捌きで左へ流し、武器を持つ手首を手刀で打った。グキッ!と音がして、武器を落とした。


パァン!!


同時に右掌打が相手の脇腹を通した。ガクッと膝を折ったゴブリンを放置して、その背後から槍を突き出して来た敵の攻撃を右手で左に流し、脇に挟んで両手で槍を掴んで自由を奪い、ローキックを足へ決めた!


べキッ!!


と音がして、足がくの字に折れた。あら!?ゴブリンって骨が脆いな。ああ、身体強化の影響かあ。


倒れた相手に、ドロシーが短剣でトドメを刺していく。ものの1分で襲って来たゴブリン達は全滅した。


「よし、全員無事だな?このまま警戒しながら南門まで急ごう。」


どうやらジェイド達はこの町を知っているらしい。迷いなく、警戒しながら歩いて行く。


中央通りは、町の北門から南門までを一直線でつないでいるのが見えるから迷う事はないそうだ。


しかし、脇道や十字路に差しかかる手前は、俺以外の全員が緊張している。多分、伏兵を恐れているんだろう。


やがて広場が見えた。中央に噴水池があり、その向こう側に濃い紫色のローブを着た長身の人間?と複数のゴブリンがいる。


「...あれ、多分魔術師ですね。」


と、ドロシーが言った。流石は元ギルド受付だな、知識的に識別したのだろう。俺の視界にも、そう表示されている。


魔術師がこちらに気付いた。片手に持っている杖を前に突き出しつつ、精神集中しながら聞き慣れない言葉で何か指示を出している。


すると、周囲のゴブリン達がこちらへ向かって来た!


と、周囲の空気が一瞬黄色くなり、俺以外の全員がよろめいている。確か酩酊めいていの魔法だ!抵抗できないと酔っ払った状態になる。


そうしている間にも、ゴブリンの集団が迫っていた。ぱっと見で50体位はいるか。


「イ、イザベラ!周辺防御だ!」


ジェイドは酩酊しながら指示を出した。イザベラはすぐに立ち直ったようで、魔法を行使した。


人差し指で周囲の空間に何かを書き込むと、パーティーを岩のドームが囲んだ。


そして左側面に、アーチ型の入り口がある。なるほど、これなら敵の進行方向を一方向へ制限できるな。


そして、パーティーが酩酊から回復するまで、俺が入り口で攻撃をしのいだ。ゴブリン達は一体ずつしかドームに侵入できない。


魔法篭手を装備しつつ、俺は敵を殴打し、蹴り飛ばした。


アムがさっきから何かを呟いているのが聞こえる。すると、急に全員が回復した様だ。


「...よし、動ける!マヒト、すまんな!」


俺は頷いた。そして入って来ようとしたゴブリンを、足払いで倒した。すかさずドロシーがトドメを刺した。


と、強烈な爆音が頭上で炸裂し、地響きが起きた。どうやら爆烈の魔法がドームに直撃したようだ。


「ひいいいい!!」


ドロシーが頭を抱えてしゃがみ込んだ。まあ無理もない。それに、アレの直撃は多分即死だな。


「ドロシー!立て!!」


俺は一喝した。ドロシーはビクッと反射的に立ち上がった。


「ジェイド!あと数発でドームが壊れるわ!」


イザベラが叫んだ。ジェイドは後ろを振り向くと、


「イザベラ、後ろに出口を作ってくれ!脱出後、2手に別れて術者を挟み撃ちにする!」


イザベラは頷くと精神集中を始めた。ゴブリン達の突入が止んだので、俺は戦況を見ようと入り口から顔を出そうとした。


その瞬間、背筋を悪寒が走った。まずい、これは不味いぞ!!俺は咄嗟に顔を引っ込めた。と、次の瞬間入り口付近が爆発した!


バン!!ドドォォオン!!!


俺は反射的に魔法篭手で顔面を防御した。が、爆風で後ろに吹っ飛んだ!


「マヒト!!!」


イザベラが駆け寄って来た。俺は立ち上がって状態確認をしたが、無傷だった。


「あれ!?大丈夫だな。」


全員が一瞬固まったが、ジェイドがすぐに覚醒した。


「イザベラ!早く出口を!!」


イザベラはハッとして、再び精神集中した。後方に穴が空いて、俺達は全力で走り、1つ手前の十字路の家屋の陰に逃げ込んだ。


ジェイドとグレッグとドロシーが、反対側の路地へ逃げ込んだ。俺の方はビンセントとイザベラが一緒だ。


「じゃあ、そっちは頼んだぞ!」


ジェイドはそう叫ぶと、迂回して噴水の側面に回り込むルートへ走って行った。


ドームの去り際にぱっと見で、爆発に巻き込まれたゴブリン達の残骸が散らばっていた。


そして魔術師の周囲に、十数体のゴブリンが残っているのが見えた。それを確認しつつ、ジェイド達と反対側の路地を疾走した。


「おいマヒト、お前大丈夫なのか!?」


「え!?なんて言った?」


走りながらビンセントが尋ねて来たが、耳がキーンとしてて、聞き取れなかった。数分後には、路地裏から噴水の側面に通じる通路へ出た。


通路の曲がり角の物陰から噴水方面を覗くと、何かがこちらへ飛んで来るのが見えた!でかい火の玉が軌道を変えながら目前に迫った!!


「あっちょ退避!!」


ドォン!!!


火の玉は爆ぜて散った。周囲の建築物に飛び火したが、全体が石造りなので延焼しなかった。俺達は辛くも火球を回避出来た。


「あら!?おかしいわね。今、岩の破片が当たったと思ったのだけど...」


イザベラが自分の体を見回している。俺も殺られたと思ったんだがな。


「お、おい、マヒト。もしかして身体強化のおかげじゃねえか!?」


ビンセントが気付いた。どうやら身体強化は、体組織も強化するらしい。イザベラが俺の頬肉をつまもうとして絶句した。


「はああ、ナニコレ!凄く硬いわよ!!」


俺もイザベラの頬をつまもうとして、指が肉を掴めなかった。まるで強固なプラスチックでも触れている感じだ。


「おおお、何だこりゃ!何かスゲエ!」


俺は驚いた。普通は、運動能力向上の魔法だと聞いていたが...。


ん!?待てよ、これなら爆烈魔法も直撃さえしなければ大丈夫じゃね!?さっきは大丈夫だったし。そして完全隠密すれば懐に入れるんじゃね?


「ビンセント、ここの位置から弓で援護してくれ!イザベラは魔法で手数を増やしてくれ!今から隠密で奴に近接するから!」


2人は頷いた。俺は隠密モードに入る前に、2人に合図した。同時に完全隠密状態で路地へ躍り出た!!


案の定、敵の魔法は俺へ飛んで来ずに後方で炸裂し、俺は通路を疾走して魔術師に肉薄した!!


ふと反対側の通路で、ジェイド達がゴブリンの集団に行く手を阻まれているのが見え、このチャンスが唯一だと悟った!


そして紫ローブに近接した俺は、背後からドラゴンブレスをオンにした魔法篭手で掌打を決めつつ気を捻り込んだ!!


「喰らえっ!!!」


ドシッ!!!ブシャアアアッ!!ヒィィィイイインズゴオオオオオオッ!!!


「ぐばあああっ!!」


魔術師は不意に背後より強烈な打撃を食らった直後、口や耳から体液を激しく噴出させながら断末魔の嗚咽を漏らした!


そして次の瞬間、ドラゴンブレスの直撃で腰から上が消滅した!!


「やった!!!マヒト、グッジョブ!!」


ビンセントが走って来た。その後ろにイザベラもいる。


「まだ終わってない!ジェイド達は!?」


ジェイド達の方を見ると、数十体のゴブリンを相手に苦戦していた。が、後衛のゴブリン達は俺達の方を凝視して固まっていた。


まあアレを見せられたら、普通そうなるわな。


明らかに戦意喪失した後衛に向かって、イザベラがストーンバレットの呪文を発射した!


拳大の石つぶての雨が、すごい勢いで真上からゴブリン達に命中した!!その一撃で、大半のゴブリン達は倒れた。


戦意喪失して逃げようとした数体は、ビンセントが弓で漏れなく倒した。浮足立った前衛はジェイド達があっけなく殲滅した。


「...援護出来なくてスマン、あいつ残りのゴブリンを全部こっちへ振り向けやがった。」


ジェイドは肩を落とした。


「いや、でもこっちにゴブリンが来ていたら、上手く行かなかったと思うけどね。だから俺は気付かれずに魔術師の懐へ入れたと思う。」


俺がそう言うと、ジェイドは救われた表情になった。グレッグとドロシーも頷いている。


「...よし、じゃあ残敵の掃討だな。かなり殲滅できていると思うので、各自手分けしよう。村人の生き残りはドロシーとマヒトが北門付近まで誘導し、怪我人はマヒトのポーションで治療だな。」


俺達は頷くと、各々が役割を果たした。ドロシーは実戦経験が少ないのでジェイド達について回り、逃げ遅れの怪我人や地下室などで息を潜めていた婦女や子供を見つけては、北門に避難するように誘導や説得をした。


俺は倒れている生き残りをポーションで治療し、動ける者から北門へ行くように説明した。


ほとんどが男達で、豊かに蓄えた口髭で背丈の小さい連中だ。俺の頭一つ小さいくらいだった。


大量のポーションの予備がバックパックの中に入っていたので、全員に行き渡った。


驚いたのは、重体で瀕死の者でも、一気に自力で歩ける位には回復できる事が判った。


そして更に、欠損した手足も再生するのだ。医者が要らないレベルだった。


「おおお...ワシはもう助からんと思っていたのだがな...お若いの、恩にきるぞ。」


最後に助け起こしたのが、どうやら町長だったらしい。話を聞けば前戦を指揮していて、真っ先に爆烈に巻き込まれたそうだ。


丁度俺達が遠巻きに見た、あの時だったらしい。


町長に肩を貸しながら2人で北門まで戻ると、既に通路には毛革が敷かれ、男達や怪我人が寝ていたり、ポテューンと言う強い火酒を気付けに飲んでいたり、食事をしていた。


「アンタ!!無事だったのね!?」


俺が振り向くと、ジェイドが足留めした女性が立っていた。町長に抱きついて、肩を震わせた。


「おおお、お前、無事で何よりだった...。」


どうやら夫婦らしい。俺はお邪魔虫なので、そっと離れて他の怪我人を確認して回った。


ふと何かを感じて南門への通路の方向を振り向くと、黒いローブの女が路地の向こうに立っているのが見えた。


こちらの様子をうかがっているようで、視界の表示が呪術師となっている。


「あ...アイツは!!」


アムがいきなり叫び、呪術師に向かって突進した。俺は何事かと思いつつ、後を追った。


それを見た呪術師は、身を翻した。その瞬間、パッと姿がかき消えた。


「待って!!あたしの事をこんなにしておいて、逃げるなあああああっ!!」


アムは叫んだ。あれ?と言う事は、さっきの女が、コイツに呪いをかけた奴かあ。


「おいアム、もしかして...」


「そうよ!アイツが呪いをかけたのよっ!!」


両手を固く握り震わせ、アムは泣き叫んだ。しかし既に逃げられた後では仕方がない。


「お、おいアム...」


アムは女が消えた場所を睨み続けたが、クルッと俺に向きを変えると「...行きましょ。」と一言呟いた。


「ああ。でも良かったなお前、敵は健在らしいぞ。これで遠慮なく叩き潰せるじゃねえかよ。」


「...全くもう。前向きなんだから!」


アムは半べそ顔でそう言うと、俺のウェストポーチへ入った。最近このポーチが、コイツの隠れ家になっている。


「マヒト!!」


ジェイド達が走って来た。


「おい見ていたぞ、今ローブの女が立っていたよな?」


ビンセントに見られていた様だ。さて、どう取り繕うかなあ?


「うん、俺もよく判らんけど、敵かと思って走って来たんだよなあ。んで、いきなり消えてしまったな。」


「そ、そうかあ...何だったんだ、アイツ。」


ビンセントは、そう言うとこの件に関しては何も言わなかった。ジェイドはしばらく考えてから、


「うむ、今は考えても仕方ないな。他の事を優先させよう。」


と、結論を出した。俺達は頷くと、村人の介抱やサポートに専念した。


                ♤


数時間後、荒らされた家や通路、遺体の応急処置や埋葬が終わり、俺達は街の公民館に集められていた。


やはり想像通り、彼らはドワーフだった。月光の面々は、以前武器調達でここを訪れたことがあるそうだ。


ああ、だからジェイドは無理矢理にでも助けるつもりだったのな。考えがあるとか言っていたが、作戦というより対症療法的だった気がする。


「お若いの。お陰ですっかり元気になった。我らドワーフ族は、等価交換と言うのが常でなあ。ワシらの命を救ってくれた恩義には命を尽くす。どうか今後は、この命を好きに使ってくだされ。」


年輩っぽい男達が10人くらい、跪いて頭を下げている。多分村の重役みたいな人達なんだろう。


「おい、ジェイド...。」


ビンセントが困ったような顔をしてジェイドに判断を仰いだ。だが、彼は笑いながら拒否をした。


「あっはっは、服従など不要だ。俺らは伊達と酔狂でこんな事をやっているような者だしな。町長、頭を上げてくれよ。」


朗らかな笑いに、ドワーフ達の雰囲気が和んだ。と、女衆達が酒と料理を運んで来た。本当に感謝してもらっているんだなと、俺は思った。


「せっかく出してもらったし、この料理は御馳走になろう。でも、あんた方はこれからの復興が大変なんだから、俺達のことは気にしないで欲しい。皆、休んでくれ。」


ジェイドは真っ当な意見を言った。ドワーフ達は困ったように、お互い顔を見合わせている。


「...これは我々の伝統と感謝の気持ちです。受け取っていただかないと、今後気が引けてしまいますでのう。」


食い下がってくる町長に、彼は困った顔をした。ああ、こいつ本当に良い奴なんだな。俺はジェイドの言動に、ちょっと感動してしまった。


「...ジェイド、それならドワーフ製の装備を格安で売ってもらえれば、今後も役に立つのではないでしょうか?」


グレッグが、ナイスアイディアを提案した。


「グレッグ、ドワーフの装備って強いの?」


俺はよく判らなかったので尋ねた。


「ええ、それはもう。古今東西、魔法付与された武具を創作できるのはドワーフ族の技術のみですからな。その秘技は一族相伝で、他種族には漏れ伝わらないのですよ。」


「ふーん...。」


あれ?これって物理クラフトとかで真似できるんじゃね?だってドラゴンブレスだってコピー出来たんだし。


何なら魔法の拳銃とかライフルの素材とか...ああ、でも強力な弩でさえドラゴンの鱗は弾くらしいからなあ。


ちなみにドラゴンなんだが、個体数が人間より圧倒的に多いそうだ。そのクラスの魔物なら、他にもうじゃうじゃ居るらしい。


何これダメじゃん、てかよく人間は生き残っているなと...いや、世界のパワーバランス的には良いのかも。


魔法抵抗力の高い敵の場合、無効化されるから弾の無駄になるし、小さい傷口位ではオークの時のように回復されてしまう。


ドラゴンに致命傷を与える遠距離武器と言うなら、対戦車ライフルやロケットランチャーとかかな?後で物理クラフトで調べてみるかな...。


その重火器のメンテは物理クラフトに依存すれば良いだろうけど、そこまでするなら中級の攻撃魔法等で何とかなる気がした。


なるほど、それで知識とか魔法が最高価値になると言う...。さっきの紫ローブの火球、あれが多分グレネード並みくらいだ。


「...ヒト。ねえ、マヒト!!」


イザベラに現実へ引き戻され、気づいたら全員が俺に注目している。


「あ、すまん。ちょっと考えていた。」


「ああ、そう言う事ね。それで、アンタはどうするの?」


「ごめん、聞いてなかった。」


「もう...しっかりしてよ!ええとね、町長さんからの申し出で、魔法の武具を譲ってもらえる事になったわ!それで、あなたは何が希望?」


「ふうん、そう言う話ね...ちなみに何がある訳?」


俺がそう聞くと、町長が明日から町中の店を案内するという事になった。


何せここは鍛冶屋の町だそうで、装備ショップばかりだそうな。無ければオーダーメイドで作ってくれるそうだ。こりゃあ良いな。


「...本当にそれだけで良いのじゃろうか?ワシらはもっとこう...」


町長はなにか物足りないようだ。何となくだけど、この人達は体で受けた恩は体で返す主義なんだろうな。うーん、そう言う事なら...。


「ジェイド、こんなのはどうかな?この事件で助けられた人達が生きている限り、俺達月光の専用装備をオーダーメイドで何時でも優先で作ってくれて、価格は材料代のみっていうの、どうかな?」


この意見に、町長をはじめドワーフ達が手放しで喜んだ。


「おおお、そう言う考えも良いですな。それなら、我々も死なないように命を使って貢献できますな!」


町長が嬉しそうに、そう言った。ジェイドも考えていたが、


「うん、それならドロシーみたいに新人が来ても、装備が充実していれば断然死亡率が下がるだろうしね。」


と言って、嬉しそうに笑った。


「それによう、この町で作った装備を俺達が使うのを他の連中が見れば、良い宣伝になるんじゃねえか?それで性能差が判れば、皆ここへ買い物に来るだろうしな。良い事尽くめじゃねえかよ。」


ビンセントが良い事を言った。つまり俺達自体が広告宣伝塔になると言うことだ。


「素晴らしい!マヒト、グッドアイデアですね!」


グレッグも絶賛してくれた。イザベラとドロシーも満足そうに頷いた。


「じゃ、明日のために英気を養う事にしましょ。私、お腹が空いたわ。」


イザベラの一言で、俺達は宴会を始めた。ポテューン(火酒)は酒精が強く、原液は視界の表示ではアルコール度が52%となっている。


俺やアムは加護持ちで全然大丈夫だが、他のメンバーは大丈夫なのか...?


その後、町長や鍛冶職人、自警団の戦士諸君と色々話し込んでしまっていた。


何しろ全員が職人肌、技巧派にして寿命も300年程は生きる人種だから、話の知識量がハンパなかった。だから夢中になって話を聞いていたのだが。


「...あれ?そう言えばイザベラやドロシーは?」


「マヒト、あっち。」


ビンセントが真っ赤な顔をして指差した先に、グレッグと女性2人が寝ていた。まあ、今日は疲れただろうし。ドロシーは明日も朝練だしな。


グレッグは元々酒に弱いのかも。イザベラは一緒に飲んでみると案外強い。


それにポテューンの口当たりがまろやかで、濃い酒なのにグイグイ行けてしまう。これで本当に52%なのかあ?まあミルク割りなんだが。


原料は不明だけど、まるでカルアミルクのような苦味の少ない甘さで、甘味の少ないこの世界では贅沢品なんだとか。


ドワーフ達は、なんでも酒の強さがステイタスみたいになっているらしい。


よくありがちなドワーフ女性の趣向で、賢くてマッチョで酒豪と言う三拍子がモテ要素だとか。まあ人間でもそう言う奴がモテそうな気もするが。


そして俺達の周囲はいつの間にかドワーフの女性達に囲まれている。


ちなみにドワーフの女性に関してRPGやファンタジー本では低評価で、中には女性がいないと書かれている場合もある。


でも今、俺の周囲は美人揃いだ。正確には童顔で背も小さく、ロリヲタには最高逸材と思われる。


全員が伝統らしく、編んだ髪を色々なスタイルにまとめているのが特色だろう。


エルフ種はイザベラしか知らないが、彼女を綺麗と表現するならドワーフは「可愛い、チャーミング」と言う感じだと俺は思った。


現にビンセントはドワーフの女戦士とデレデレだ。冒険者同士の飲み会とかではあんな表情は見たことが無かった。


結構宴会は好きな方だと思うし年中参加しているのだが、人間の女性とくっついているのを見たことがないな。あっもしかしてロリ...。


「...お酒、強いんですね。」


何だか右脇で小さい声がした。何事と思い斜め下を見ると、かなり小さめの女性と言うより少女?サイズの娘が、いつの間にか座っていた。


下を向いていて顔を真っ赤にしながら酒瓶を差し出している。


ここの女性達とは違い、フリル付きの白黒ゴシックドレスっぽい服を身に着け、ちょっとデザインは違うけどメイド服っぽい感じだ。ゴスロリか?


そしてどう言う訳だか、今俺の周囲は他のドワーフ女性が遠巻きに遠慮している感じがした...。


と言うことは、俺が何かやらかしたか、このお嬢の影響か、かな?


「いやいや、俺が飲むと底なしなので、酒が無駄になる。あちらのメンバーにでもお酌してやってくれ。」


「...あの、父を助けて頂いて、本当にありがとうございました。」


少女?は、酒瓶を前に出しつつお辞儀をした。何ていうか不器用なのか?と言うか中身は全然普通で、律儀な性格っぽい。


「ああ、それなら気にしないで。回復役だったので、負傷者のほぼ全員を担当したから。こうやって食事出来るだけでも幸運だよ。」


「...謙虚なんですね。お名前を伺っても?」


「マヒトって言うんだ。君は?」


「ラピって言います。助けて頂いた町長の娘です。」


俺は彼女の方をまじまじと見た。確かに母親に似ている。あの北門で岩陰に隠れていた女性だ。


「ああ、これはどうも。そう言えばお母様に似ているね。」


「ええ、よく周囲からも言われます。と言うか父と似なくて良かったなとか言われる方が多いです。」


ラピが顔を上げた。比較的太い眉に、優しそうだが強い意志の眼差し、ちょっと低くて小さい鼻、薄ピンクの唇、ブロンド髪を三つ編みにして後ろで綺麗に纏めている。


ロリ体型を除けば美人で通るだろう。ドワーフ女性、クオリティが予想よりかなり高かった件。


「実は私、マヒトさんがあの魔術師を、とても強い炎で滅したのを見ていたんです。いきなり背後に現れて、ドン!って。」


「あー...そうなんだね。出来ればその事は内緒でお願いね。」


「分かっています。あなたがこの町のために、私達家族のためにしてくれた事、忘れません。」


「...じゃあ、そう思っているなら、困った人を見かけたら助けてあげてね。出来るだけでいいんだ。そうやってサービスの円環をつないで広げれば、もうちょっとは良い世の中になるかもね。」


「サービスの円環?」


「そう。自分の出来る限りで、精一杯のサービスをする。そうやって助けられた人が、また違う人々を助ける。そう言う連鎖が世界中に広がっていくと言う訳だ。その事を、俺達は素敵だと思っているんだ。」


「そうだ!マヒトの言った通り!」


ジェイドが真っ赤な顔で、俺の方に拳を突き上げながら叫んだ。彼の周囲にもドワーフ達が集まって酒を酌み交わしている。


ビンセントも、強く頷いた。俺も親指を立てた。


「サービスの円環...助け合いの輪を広げる生き方。」


「うん。そうそう。」


「フフッ、素敵です。私もそうなれたらいいなあ。」


「なれるさ。ただ心を開いて他人と接すれば、チャンスはいくらでも来る。」


「ええ、きっとそう...。」


俺は目の前に置いてあった未使用のカップを彼女に渡し、ポテューンを注いだ。彼女は一瞬ためらったが、グッと飲み干した。


おーさすがドワーフ、こんだけ強い酒なのに、むせずに飲んでいるのがすごい。


食事と酒宴は、いい感じで2時間ほどで終了した。宴会中もだが、交代制で村の警戒を行っていたらしい。


その晩は俺達も参加して、警戒を続けた。だが結局、朝まで襲撃は来なかった。


次の朝、山の天候は不安定で、小雨だった。ドロシーの朝練をこなして、清潔化でサッパリした。


今日は全員参加で、寝泊まりした集会場内で馬歩だけ行った。ちなみに新規参加勢は2分保たなかった。


それが終わると朝食で、それから昨日の予定通り町内の各ショップを案内された。通常の武器防具でも、目玉の飛び出る値段と品質だった。


正直これ等をプレゼントって、どんだけ気前が良いのだろう?


ガイドは町長とラピだった。彼女は作業服?みたいな装いだ。


何か昨日から付きまとわれている気が。まあ親父にくっついて来ているだけなのかも知れんが。


「バッカねえ、アンタ。どう見たってホの字じゃないのよ、あの娘。」


アムが耳を引っ張った。イタタ、コイツのヤキモチも大概だな。てか最近何気に俺の思考を読んでないか?恐いんですがそれは。


「そうなのか?そんな昨日出逢ったばっかなのに...。」


ああ、一目惚れってやつなのか?あれって外見だけ見ている連中の話だろ...。


「あの娘の箱入り具合、見てれば判るでしょう?まだ男性経験がなさそうだし、アンタの場合は活躍とか色々見れば、ぱっと見で普通じゃない奴だ、くらいは思うでしょ?」


「アムの評価が高いのは嬉しいんだけどさ...なんと言うか、ありがた迷惑なんだよなあ。大体ドワーフとか年齢が判り辛いんだけど、あの娘何歳くらいよ?」


「年齢聞くとか、その気マンマンじゃない!...多分100歳は行ってないんじゃないの?寿命は300年くらいだから、人間だと20歳程度かな。」


あれで!?何か中学生にしか見えん。そうすると他の連中って相当若造りなんだな。そして何だかんだ言って答えちゃう、お前もなんだかなあ。


「へえ、そうなんだな...アム、ひょっとして俺、またトラップ踏んだ系?」


アムは大きなため息をついた。


「...まあ昨日みたいな、ああ言う話が出来るのがアンタの良い所でもあるんだけどね。どの道私達みたいな加護持ちには避けて通れないしね。」


「...おい、それじゃ俺的には不可抗力じゃねえか?責められても困るんだが。」


「うっ、そ、そうなんだけど...と、とにかく気をつけてよねっ!」


「何をどうしろと...。」


アムはフンッ!と言いながらポーチへ入ってしまった。何だこいつ、ただ文句を言っているだけじゃん。理不尽である。


さて村長は、5軒目の装備屋を紹介している。中に入った俺達は、そこでとんでもない代物を見ることになった。


「...おい、これ見てみろ。」


さすがスカウトのビンセントの目利き。店の片隅に置いてあった異形の鎧を目ざとく発見した。全員がそれの前に集まって来た。


一見すると、人型生物の首から上を無くしたような、生々しい裸の肉体みたいな外見だ。


皮膚の色は青みがかっていて、今は外皮が正中線より左右に割れて、内部は裏側に複雑な繊維状の筋組織?みたいな物が見える。


まるで人間の胸郭を中央で開いた様に、肋骨状のフレームが内部を補強している。そう、内臓を抜いた人体を着る、と言う感じだ。


メッチャ薄気味悪いのに、何故か全員が惹かれる。禍々しいと言うか...。


手足は同じ様な素材で、通常のガントレットやレッグガードと同じ使い方っぽい。


だが、こうやって頭抜きのフルプレート状態で飾ってあると、装備後に一体化しそうな雰囲気だ。


「あの...こ、これは一体何なんだ?」


ジェイドが町長に聞いた。彼はそれを見た瞬間、目を瞑り頭痛のように掌で額を押さえた。


「それ、私の作品です。」


全員の視線がラピに集まった。この娘、職人だったのか?


「...はあ、お見苦しい物を。娘は幼少から、さる変わり者の名工に師事してましてな。その者、この山の地底にある遺跡から持ち帰った遺物で、装備を創る事に情熱を燃やしていましてな...。」


遺跡?へえ、そんなのがこの世界にもあるんだな。俺はメチャクチャ興味がわいた。


「その、名工の人は何処の工房なの?」


俺は町長に尋ねた。


「それが、10年前に死んでしまいました。老齢でしたので...。」


親父に聞いたのに、ラピが答えた。何ていうか、俺が興味を示したことで興奮しているらしい。


町長が返事しようとするのを押しのけて答えた感じだ。


「へえ、そうなんだね。それで、お弟子さんは君だけ?」


「そうです。私しか師事できませんでした。」


「...そりゃお前しか...。」


何か親父がボソッと言った気がするが。娘が後ろを振り向くと、口元をムニャムニャさせているのが笑う。


「あ、そうなんですね。ふーん。あ、じゃあこっちの...。」


俺が話題を変えようとしたら、ガシッと腕を引き戻された。何気にすごい力だった件。


「マヒトさん、是非これを試してください!私の作品中、今までで最高傑作なのです!」


両手で俺を鎧?の前へ引っ張り戻した。さすがにイザベラが抗議を。


「ち、ちょっと!あなた強引じゃなくて?マヒトは嫌がっているじゃないのよ!」


イザベラとドロシーが、俺とラピの間に割って入った。ドロシーも、両手を広げて接近禁止アピールしている。


「そ、そうですよぅ!先生はそんな物がなくても敵の攻撃なんて当たらないのですぅ。」


結構眉を吊り上げて抗議している。おいおい、このカオス...。


「いいえ、攻撃だけではないわ。この鎧は、ドラゴンブレスを3回まで耐える事が出来るのよ!そして、各魔法を制限付きで無効化出来るわ。」


このラピの言葉に、またもや全員の視線が集まった。ええ?プラズマ並みの熱波を防御?本当なら科学とかでは説明つかない案件だぞ?


「お、おい、ラピや...」


「お父様は黙ってて!今の話は、全て実験済です。各実験は私自身が防具を着けて行いました。」


いやそもそも、ドラゴンブレス耐久試験とか、どうやったんだ!?


「...でもこれ、君より大分サイズが大きいよね?」


ジェイドがもっともな質問をした。すると、ラピはニコッと笑った。屈託のない笑顔だ。


「見ていてください。」


そう言って、彼女は胴鎧?をハンガーから軽々と外した。そして首〜上腕〜股間までの一体物を背中に羽織った。


グニャッ!


いきなり鎧が生物みたいに変形して、自動でサイズダウンした。そして前面開放部位の皮膚?が正中線沿いに下から上に向かって癒合して行く。


わずか数秒で、彼女は手足以外の部位が青みがかった肉?に覆われた。


と、外皮が変形し始めた!さらに3秒くらいで、まるでスケイルメイルのような形状と色合いのゴツい外観に変形したのだ!


分厚かった胴回りは、今はボディーラインに密着してスリムに見える。かなりのスキニーなデザインで、超自然だ。


そして何より、体を動かすと鱗のある生物のように柔軟で、なめらかな動きが出来る!これってバイオテクノロジーでも使っているのか?


町長は、娘の開発品を初めて見たのだろう、驚愕の表情になった。わかりやすい反応で笑うが、ドワーフが純粋で嘘をつけないと言う証なのだろう。


「隊長さん、私の胴を本気で剣撃してみて!」


ラピは店の外へ出ると、ジェイドにそう言った。彼は俺達の方を見て、それから町長に助けを求めるような視線を向けた。


町長も両手を前に出してヤメロのジェスチャーをしている。


「お父様!お止めになるのであれば、絶縁させて頂きますわ!!」


と言う娘の一言で、町長はガクッとうなだれた。父ちゃん、大変な娘を育てちまったな!


「ジェイド、それじゃあ俺が試着するよ。さすがにお嬢には手を挙げられんだろう?」


俺は仕方なく、実験台を買って出た。すると、メッチャ嬉しそうにラピは笑った。


「是非!マヒトさんが、私以外で初めてこの鎧を試す人なのです。」


ビンセントが、うわあ...と言う顔をしている。グレッグも、カクカクオロオロしているのがシュールだ。


ラピが一言「分離」と言うと、さっきとは逆に鎧が開いた!鱗が青い外皮に変化し、正中線沿いに上から胸郭が開いていく。そしてサイズや状態が元に戻った。


「マヒトさん、どうぞ。」


俺はハードレザーアーマーを脱ぐと、手渡された鎧を背中に羽織ってみた。丁度サイズはピッタリくらいだ。


すると、さっきと同じで鎧が閉じた。そして、表面がさっきより更に強固そうな白銀の鱗でびっしり覆われた。


「ええ!?ドラゴンスケイル!」


ラピが驚いている。ドラゴンの鱗?何でさっきと違う形状なんだろう?俺の周囲を周りながら、色々観察している。


「これは新しい機能の発見です!この素材は、地下遺跡の中深度あたりの隠し部屋で発見されたんです。さる王族と思われる人物のミイラが着ていた鎧の表皮が、この粘体状の素材でした。」


「その鎧も、こんな見た目だったの?」


「いえ、黄金色のフルプレートの一部に使われていました。それをこそぎ取った物を研究分析用のサンプルとして持ち帰ったのです。それで1ヶ月くらい放置していたら、容器の中でこの素材が自然に増殖していました。」


イザベラが気味悪そうに尋ねた。


「ね、ねえ、それって生きていると言う事よね?使ってはいけない素材なんじゃあ...」


「いえ、その後数年で大量に増殖した素材を、遺跡にあった鎧を真似てプレートメイルの胸郭前部に移植しましたら、今みたいに装甲が強化される事が判明したのです。その後は研究が進み、安全が確認されて、この通りの使用方法が確立されました。」


「へ、へえ...そうなのね。マヒト、感想は?」


「うん、案外快適だよ。まるで鎧が自分の肌みたいに一体化した感じがする。あ、空気の流れとかも感じるんだなこれ。それに何か力がみなぎる!」


そしてここでは町長が完全に空気だった件。ラピが夢中で、店から他のパーツも持って来た。


頭部も含めて全てを装着し終わると、全身が白銀色のドラゴンスケイルで覆われた。まるで違う生き物になった気分だ!


周囲のギャラリーの視線が痛い。人だかりが出来てしまった。子供たちも指をくわえてこっちを見ている。


「ジェイド、実剣で背後から斬りつけてくれ!」


「分かった。よし行くぞ、マヒト!」


ジェイドは長剣を腰に下げて、居合のポーズになった。


「シッ!!」


バキッ!!!


袈裟斬りに、背中を剣圧が通り抜けて行ったが、全然痛くない!


「おおー!こりゃすげえな!」


ビンセントが目を丸くしている。俺も驚いてしまった。鱗で剣撃は完全に無効化された。


よく見ると、各パーツの継ぎ目が見えない。完全な一体化と、内部が密閉されているようだ。


そして今まで感じたことが無い安心感。これさえ着ていれば、敵地のど真ん中でも大の字で寝られそうな感じだ。


「お、おい...」


何だか全員がドン引きしている感が。俺は首を傾げた。すると、イザベラがミラーオブジェの魔法を使った。


「マヒト、こっち見て。」


「うお!こっこれは...」


既に人間に見えなかった。ドラゴンニュート?みたいな人型生物がそこに映っていた。


体格も一回り大きくなっている。顔面は面長になり、竜と人の中間っぽい。高貴な生物に生まれ変わったようだった。


「ああ、何て幻想的な形態なの!装着する人によって、ここまで変化するなんて思わなかったわ!」


ラピが自分の作品に陶酔している。他の連中は、ドン引きなのだが。


「なあこれ、盾役が装着すれば最強だよな?目立つし、そんじょそこいらの武器では歯が立たなそう。どっちかと言えばジェイド向きじゃないかな?」


「おっ俺か?」


俺は「分離」と言うと、防具を脱いだ。改めて、未装着時は見た目が悪いな。他の連中が更に引いている。


「試してみると良いよ。いや、悪いのは装着してない時の外見だけだぞ?驚く性能だと思う。」


俺に勧められたジェイドは、渋々全身に装着した。すると、今度は中世の騎士が着るような、白銀のヘビープレートへ変化した。


「ああ、やっぱり!!この素材は、使い手によって形状が変化するのね。心の形っていうか、在りたい姿になるんだと思うわ!」


ラピがまたもや興奮している。と言うか、俺の時よりこっちの方が断然カッコいいと思う。


「ジェイド、ほら。」


イザベラがミラーオブジェでジェイドを映した。


「おお!思ったよりマトモだなっ!それにマヒトが言うように、すごくしっくり来るな!それと絶対的な安心感があるし、本当に力がみなぎる!」


ジェイドは自分の状態を色々確かめている。雰囲気では大分気に入ったようだ。俺も前向きな意見を言った。


「ジェイド、何かカッコいいぞ!俺が着ると竜みたくなっちゃったけど、アンタだと聖騎士様みたいだな。」


「そ、そうかな。エヘヘ...」


ジェイドは完全に気に入ったようだ。ラピと町長に向かって、彼は頭を下げた。


「ラピ、この鎧をもらえるかい?俺、すごく気に入ったんだ!」


ラピはニコニコしながら、「毎度っ!」と威勢良く返事した。ジェイドは今まで着ていた鎧を売りに出し、約束通り無料提供してもらった。彼はその場でフルフェイス(頭防具)以外を装着した。


「...この、未装着の時の見た目だけが難だよなあ。」


ジェイドはそう言ったものの、大事そうにフルフェイスをバックパックのカラビナに引っ掛けた。


まあ、あれだけの性能を出せるのだから、贅沢は言えまい。


「ラピ、この鎧って他と大分種類が違うよね。何ていうカテゴリー名なんだい?」


俺が尋ねると、ラピは焦った顔をした。


「えー、いえ、決めていませんでした...そうですね、トランスフォームアーマーとか?」


「それ、良いじゃない。ピッタリの名前よ!」


イザベラが笑った。その場の全員が納得したようだ。


今日ここに、この世界で新たなジャンルが加わった。斬新すぎる鎧はラピの技術と月光により広められ、その後広く普及する事になるのだった。


「ラピ、これ以外でトランスフォームアーマーはあるのかな?」


俺が尋ねると、ラピは首を横に振った。


「ごめんなさい、今の所これだけです。材料はあるから、半年くらいあれば作れますけど...。」


その時、俺は自分の視界に新たな表示が赤文字で点滅しているのに気付いた。なんとトランスフォームアーマーというカテゴリーが加わっている。


と、言う事は...。


「ラピ、頼みがあるんだが。この鎧の素材を分けてもらう事は出来ないかな?」


俺はラピを拝み倒した。当然だが、彼女は怪訝そうな顔をした。


「何に使うんですか?」


「いや、俺も実は色々製作する趣味があるんだよ。ラピの鎧にすごく興味があってね。自分でフルプレート一式を旅の途中で作ってみたいのさ。素材を売ってもらえれば、俺はそれ以上要らないから。」


「...売り物にしないのなら、大丈夫ですよ。何でしたら、オーダーメイドで私が作りますけど?そもそも、この素材は板金に定着させる技術を習得しないと、無理ですけど。」


「うーん、多分何とかなると思う。自らは販売や技術漏洩しないって神に誓うよ。新しいデザインのやつを作れたら、情報交流でもやろうか?」


「是非!私と違う製造方法が見つかれば、お互い利益になりますものね!」


ラピは嬉しそうに笑った。今まで同じジャンルの研究者が居なかったのだから、嬉しいのだろうな。


その後、俺は素材を一式入手した。他のメンバーも、満足のいく武器防具を入手出来たようだ。


ビンセントは魔法の弓を、イザベラは魔法のワンド、グレッグは高い防御力の法衣を、ドロシーは魔法の短剣を2つも提供して貰った。


各々が、必要な防具や武器を気に入った店の店主にオーダーした。


そして事情を話し、微調整が仕上がったらシルバーガーデンに連絡をもらえるように手配した。


これで、ルク村に帰る頃には戦闘力が格段にアップすると、俺達は確信した。


それから一週間ほど、敵の再襲撃の警戒でギブリスへ残った。その間に俺は暇だったので、ラピに物理クラフトを披露した。


スキル依存でアレンジした胴鎧が完成したのを見て、彼女は驚嘆した。


そりゃもう、自分の技術や半年の工期が数百秒で仕上がるのだから、職人泣かせなスキルなんだろう。


俺からすると、万能性は職人の頭脳に叶わないと思うのだが。


イザベラやドロシーと喧嘩になるレベルで俺にまとわりついて来るラピだったが、単に箱入りで空気を読めなかった事もあったようだ。


イザベラが二人きりの時(アムも一緒)に、そう言っていた。


そのうち女性同士で仲良くなり、月光とラピの距離が近くなった頃、ドロテウナから応援が到着した。そこで俺達は旅を再開する事にした。

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