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オーク討伐

アムの食事後、俺達は約束の通り冒険者ギルドへ向かった。


中へ入ると、受付カウンター前に4人が立っていた。ギルマス、ビンセント、グレッグ、イザベラだ。


「よう、来たな。」


ビンセントが、手を挙げた。


「待たせたな。これからどうする?」


俺はギルマスに尋ねた。


「あっ、あのー、マヒトさん...?」


カウンター奥から、ドロシーが出て来た。何だか顔が赤くてモジモジしている感じだ。


「やあ、こんにちは...どうしたの?」


「...あの、き、昨日は送って頂いてありがとうございました!」


そう言うと、恥ずかしかったのか顔を真っ赤にして、全速力で奥の部屋に走って行ってしまった。


ギルマスが手を顔に当てて空を仰いでいる。ああ何か...この展開は不味かったのか?


「えーと、あのー?」


「ああ、受付が横槍を入れてすまんね。これからの事だが、先ずは道中で話を聞きながら馬車で移動しよう。」


そう言うと、ギルマスは村の入り口まで案内してくれた。そこに幌付きの荷馬車があり、馬と言うより走竜が繋いであった。


二足歩行のラプトル型で、赤いウロコ状の肌だ。こちらを見て、クエーッ!と鳴いた。


ビンセントが行者を務めて、他が荷台へ乗り込むと、馬車?は出発した。案外早いスピードだ。


「それで?考えってのを聞かせてくれ。作戦を練りたいんだ。」


ギルマスに尋ねられて、俺は掌打の事を説明した。


「現物は見て貰わないと理解できないと思うけど、俺の格闘術は相手の装甲やスキンを無視して、内部に打撃を与えるんだ。だから武装してても関係ない。但し、あくまで格闘なので一対一が原則なんだよ。大概、囲まれたら何だってアウトだから。」


全員が頷いた。ギルマスはうーんと唸ると、


「よし...じゃあ、君の話が事実としてだな...地形を上手く利用して、その状況を作り出せばいいな。」


グレッグが、目的地周辺の地図を開いた。


あれ?この地図の中央にある月光丘の迷宮って、多分俺が寝ていた所かな?そこから北東の方角、つまりルク村とは真反対の位置が目的地だな。


「出没場所はこの村で、以前は人が住んでいたんだが、今はオークのねぐらだ。そしてここ...ここだ。丁度地形が渓谷になっている。足場は小川なので良くはないが、谷の底は狭いので前衛二人でカバー出来そうだな。」


ギルマスは現地を熟知しているらしい。俺の話を聞くと、すぐにアイディアが出て来た。


「そうね。足元に関しては、私が事前に整えられるわ。敵を誘い込む場所にマジックウォールで足場を作れば良いわね。」


「ふむ、それなら後衛からも支援がしやすい。私もイグニスバーストを斉射し易そうですな。」


「ふん、じゃあ俺は事前に罠を仕掛けるのと、敵の囮役かな。後衛なら弓で対抗できる。」


ギルマスが地形を提案しただけで、パーティー全員が役割を即認識出来ている。場馴れしているなと思った。


「それで、敵の人数はどれ位なんだ?」


「オークが11体。それと、村の近くにコボルドが恐らく20体以上。そちらは武装していないから、簡単だろう。」


ギルマスがそう言った。俺は少し考えて、


「それなら俺も囮役と、村に潜入して出来るだけオークを暗殺しよう。」


と、申し出た。すると全員が此方を向いた。


「暗殺って...君は格闘家なんだろう?」


と、ギルマスが尋ねた。


「そうなんだが、隠密も得意なんだ。実はこっちの方が自信あるかも。」


「ほう、それなら俺はアンタのフォローに回ろう。すると作戦は明るい内だな。」


と、ビンセントがやや訝しげな表情で言った。


「明るい方が良いのかい?」


俺はビンセントに尋ねた。


「ああ、オークやコボルドは夜行性だ。」


「ああ、そうなんだな。了解。」


「よし、決まりだ。谷へのグループは現地到着時より速やかに移動し、状況を見ながら準備。ビンセントは罠を設置するんだろう?先に渓谷へ向かってくれ。グレッグはその手伝い、イザベラは地形を整える。マヒトは俺と村の偵察だな。そしてビンセントが終わり次第、俺と交代しつつオークを暗殺と、渓谷まで誘導してくれ。」


全員が頷いた。流石ギルマスだなと俺は思った。打合せ後は行者以外は休憩し、馬車は2時間くらいで目的地の1km手前に到着した。


出来るだけ敵に察知されないようにしなければ。


「我が主よ、全員が無事に帰還できますように。」


グレッグが祈りを捧げて、全員が行動を開始した。


ギルマスが俺を先導し、風下から問題の村へ接近した。何でもオークは鼻が利くらしい。臭いで察知されると面倒だ。


俺とギルマス以外は、渓谷へ向かって走った。今はまだ昼前なので、オーク達は睡眠時間帯だ。急いで準備する気なんだろう。


「君は体臭とかを消す手段はあるかな?俺は清潔化魔法で何とかなるのだが。」


ギルマスにそう尋ねられたので、俺は完全隠密を使った。姿が見えなくなったらしく、焦って周囲を見回している。すぐに解除すると、ギルマスは驚いた。


「これで、臭いや音も完全に消せる。」


「...全く君は、規格外だな。なあ、この作戦後も村に残ってくれないか?ルク村には君の様な手練が必要なんだ。」


「考えておく。先ずは目先の問題からだね。」


面倒は御免なのだが、実は結構ルク村を気に入っている。それに旅行とか移動とかが、あまり得意じゃない。


アクリルの件が無ければ、村に定住でも何ら問題はないのだが。ああ、アムの件もあったな。


「...そうだな、そうしよう。」


俺達は木々の間を縫う様に、村へ接近した。特に斥候等は確認出来なかった。


道沿いの森を進むと、やがて村の入り口が見えて来た。ルク村と同じく木の塀に囲まれていて、門の前にオークが2体、槍を持って立っている。


「よし、ここで待機しよう。」


ギルマスがそう囁いたが、俺は首を横に振った。


「隠密で中の様子を見て来るよ。そしてここへ戻るので、待っていてくれ。」


「分かった、くれぐれも手出ししたり、発見されないように。」


俺は頷くと魔法篭手を装着して、完全隠密で正面から村へ入った。村内へ入った途端、凄惨な光景を見る羽目になった。


男達と思われる焼け焦げた死体が山積みになり、門から入った正面の広場の中央に積まれていた。


そこにもオークが1体、広場の入り口で見張っている。さっきから凄い異臭だ。


その位置から道なりに進んだ広場のもう一方の入り口を出ると、居住区になっていた。


ここまで来ると、何やら女性の悲鳴のような声が「ヒッ...ヒッ...」と言う感じで聞こえて来る。


音源と思われる近くの家屋へ侵入すると、2体のオークが宙吊りにされた人間の女性に暴行を加えていた。


目に余るというか見て居られなかったので家を出ようとしたら、いきなり後ろから絶叫が聞こえた。


「ヒッ...い、痛い!痛い!ぎゃああああああああっ!!」


思わず振り向いたら、宙吊りにされている女性が全身痙攣していて、1体のオークが後ろから羽交い締めにしている。


もう1体が女性の股間の辺りから何かを引きずり出した。よく見たら、豚の顔をした血まみれの赤ん坊だ。


「うっ...。」


アムが両手で顔を覆った。事前の情報だと、モンスターと認識されている亜人種は基本的に雌が居ない事が多いらしい。


それで、種族を増やす手段で人間種の村を襲う事もあるそうだ。亜人の成り立ちってどうなっているんだ?雌が居ないのに発生するものなのか?


「マヒト...あれ、放置で許せる訳?...ズズッ。」


アムが尋ねてきた。泣いて鼻水をすすっている様だ。お前ババアの癖にそれは弱いんだな...まあ無理もないのか。


「お前には毒だから見るな。ほれ、ここにでも入っていろ。」


俺はウェストポーチを開けた。アムは渋々頷くと、ポーチへ避難した。今は手を出せない。仕方なく外に出ると、あちこちから悲鳴が聞こえた。


おいおい、ここでそんなに増やして、育成とかどうするんだろう?


凄惨な叫びが聞こえる住宅密集地を抜けると、村の裏門へ出た。ここにもオークが2体、門番をしている。そして、何か違った異臭が鼻を突いた。


何と言うか、オークとは違ったケモノ臭さだ。風向きによって臭ってくる。


裏門の先は森になっていて、道が通っているのが見える。その結構先の森の中に、小さい人型のシルエットが見えた気がした。


視界の表示では、コボルドと表示されている。


俺はそこまで確認すると、報告に戻った。来た道を逆走しギルマスを見つけて背後に回り、隠密を解いて接近した。


安易に近づくと切り捨てられそうだったから、慎重に接近した。


そして小石を投げると、上手くギルマスの足元に落ちた。こちらに気付いた様で、音を殺して接近して来た。


「...本当に気配がないな。それで、どうだった?」


「オークの配置だけど、今見えている2体の他に広場に1体、反対側の出口に2体、その奥の住宅地に残りが居る様だね。それと、やはり村を出て離れた森にコボルドを確認できたが、如何せん距離が近いので何かあったら感付くかも。」


「ふん、予想通りだな。」


「あの、質問なんだけど。」


「何だ?」


「オークは男性を焼き殺し、広場で野積みにして、女性を繁殖の道具に使っている。その赤ん坊が戦力になるのって、どれ位の時間かな?」


ギルマスは目を見開いた。


「うーん、やはりな。オークの幼体は成長が異常に早く、わずか2日で成体になるんだよ。早急に始末をしなければな。被害に遭っている人達も、早く救出しないと。」


「ああ、同感だよ。マスター、コボルドとオークは反目し合ってるよね?」


「ああ、そうらしいな。お互い監視し合う関係で、漁夫の利を狙い合っているそうだ。だから共闘はしないが、常に近くに居るらしい。」


「と言う事は、監視が異常を察知しなければ、動けないと言う事かな?」


「ああ。」


「オークは屋内を優先的に殲滅し、数を減らしてからおびき寄せると言う手もあるよね?コボルドは、監視を潰しておけば乱入される事も無いかなと。」


「なるほど。よし、ビンセントが来たら、コボルドの監視は弓で対応させよう。オークは頼めるかな?」


「了解、やってみる。」


ギルマスと俺は頷いた。それから20分くらい待つと、背後からビンセントが接近して来た。


「...準備完了。ジェイドは渓谷へ行きな。交代するから。」


「ビンセント、さっきマヒトが村内を偵察したら、オークが増殖しているらしい。まだ戦力としては増えて無さそうだが、それも始末だ。」


「ああ、分かった。」


「それと、近い位置にコボルドが居るそうだ。弓で斥候や監視を気付かれないように仕留められるか?」


俺もギルマスの意見を後押しした。


「隠密で屋内のオークを先に処理出来れば、後が楽だろ?俺がやるよ。」


「よし、じゃあまずマヒトが室内のオークを減らすのが、主目的だし先だな。終わったら俺が即監視を潰す。後は手筈通りだな。」


俺達は頷くと、ビンセントから渡されたホイッスルをそれぞれが持って、単独行動へ移行した。監視に見つかったら、即座に仲間へ知らせる手段だ。


「よしマヒト、行け。幸運を祈る。」


俺は完全隠密で、再び村へ潜入した。先ずは住宅地へ行き、さっきの家屋へ侵入した。


すると、うまい具合に一体はソファーに座ったまま居眠りをしている様だ。もう一体は、宙吊りの女性に相変わらず集中している。


まず、女性に暴行している方へ接近した。因みに2体とも全裸で鎧を着ていないが、尻から豚のしっぽが生えている。


そして立ったまま激しく腰を動かしている背後から、側頸部の三半規管付近へ手刀で一撃を入れた。


「フゴッ!」


訳が分からず、オークは倒れた。だが、元々悲鳴や騒音がうるさい環境だけあってか、居眠りオークは寝たままだ。


女性はもう周囲を注視する力も無いのか、宙吊りのまま呆然としている。

俺は急いで倒れたオークを放置してもう一方のオークへ向かった。


寝ているオークの頚椎を狙ってナイフを突き刺した。


ゴリッ!


鈍い音がして、大量の鮮血を吹き出しながらオークは絶命した。そしてもう一方の、うつ伏せに倒れているオークにもトドメを刺した。


女性には悪いが騒がれても困るので、宙吊りの縄だけ切って放置一択で。


俺は次々と家屋へ侵入し、屠殺しまくった。村民の女性は、若い人は繁殖道具、老年者は虐殺対象だ。


村の子供達が見つからないのは、食料にでもなったのだろうか?今更だが、俺は段々怒りがこみ上げてきた。


「...よし、あらかた終わったな。」


ビンセントに報告しようとして、近くにあった倉庫のような建物に気付いた。


中を覗くと、サイズの小さい複数のオークの子供や幼体が放置されていた。


俺の見ている前で、人間で4歳位のサイズのオークが「メリメリッ!」と音を立てて、いきなり肥大した!


何かを食べていると思ったら、幼体のオークが餌になっている様だ。なるほど、こうやって成長するんだな。


合計5体の大きいサイズの幼体を背後から手刀で気絶させた。


何しろ相手は姿が見えないので、異常を察知してもどうしたら良いか判断できない様だ。戦闘経験もないのだろう、簡単に倒せた。


そして全部にトドメを刺すと、ビンセントが待つコボルドが居る側の門へ向かった。今更だが、狩猟で解体をよくやる影響か、案外グロイの大丈夫みたいだな自分。


村外れの木陰に、ビンセントが上手く身を隠しているのが見えた。俺は周囲確認してから隠密を解き、囁きかけた。


「...ビンセント、終わったよ。幼体も始末した。」


一瞬驚いたようだが、彼は頷くと両手に弓を構えつつ顎で方向を示した。


そちらを見ると、結構遠くの大木の枝の上に、コボルドが一体居てあくびをしている。100mほど先だ。


パン!


弓を弾く音がして、見張り台のコボルドの側頸部へ命中した。凄い命中精度だ。前のめりになって、丁度良く大木の近くの草むらに落ちた。


「...よし、気付かれてない。」


他を探したが見当たらなかったので、引き返して村の広場の見張りを倒す事にした。


俺は隠密状態になった。ビンセントが驚いた様子だったが、流石にすぐ感情を抑制したようだ。


そして、俺はそのままオークの背後から接近した。甲冑が邪魔で、首元にナイフを刺し込むには無理がある。


後ろからオークの口を塞ぐと同時に、鎧越しに脇腹へ掌打を通した。


ドシッ!!


「ウッ、ゴフッ!」


足の力が抜けて、膝から崩れ落ちるのを何とか支えて、静かに倒した。


隠密解除して、それをビンセントと草むらの陰まで運び、鎧の隙間から頸動脈を切って仕留めた。


「よし、良くやった。後は作戦通りかな。」


「ビンセント、問題が無ければ入り口付近の2体は消滅させられるよ。ただ大きめな音がするので、他に気付かれるかも。」


「...よし、それで行こう。どうせここからは正攻法だし、アンタの手練なら任せられそうだ。俺は状況を見ながら囮役で渓谷へ走る。一緒に着いて来てくれ。」


俺は頷くと、再び隠密状態になった。そして、最初の入り口付近に並んで立っているオーク2体の側面に回った。


ドラゴンブレスのギミックをONにして、射線が重なる様に掌打を当てた。


「喰らえっ!!」


ズン!!ヒィィィンズゴオォォォオオオオオッ!!!


轟音と共に、黄金の炎が勢い良く放出された!炎に触れた瞬間、オーク達は下腿を残して消滅した。リチャージは2時間後と視界に表示された。


それを目撃したビンセントは、一瞬呆然として動きが止まった。が、すぐに気を取り直して警戒を始めた。


1分くらいでガシャガシャと金属音が聞こえ、オーク2体がやって来た。


ビンセントが木陰から上手く弓をオークの顔面に当てた...が、オークは片目ごと矢を引き抜いた。そしてその場でどんどん傷が塞がっている。


わざと敵の視線に姿を晒して、ビンセントは猛ダッシュで走り出した。そしてホイッスルを吹き鳴らした!


「ピーッ!!!」


俺も隠密の必要がなくなったので解除して、一緒に全力疾走しながら渓谷へ向かった。もう一体くらい殺れそうだったが、あえて作戦通りにした。


当然オーク達も追いかけて来たが、足が遅いのでこちらとしては余裕が出来た。ビンセントがこちらを向いて、


「おい、渓谷が見えたら俺の足跡を踏むんだぞ!?」


と言った。俺は走りながら親指を立てた。


やがて5分程走っていると、小川が見えた。それに沿って更に走ると、渓谷の入り口が見えて来た。


言われた通り、出来るだけビンセントの足跡通りに走った。


「よし、ここ迄は作戦通りだ!マヒト、頼んだぞ!!」


そう叫ぶと、彼は渓谷の入り口付近の大木に登り始めた。俺も頷きながら拳を上に突き上げると、渓谷へ侵入した。


幅が3mくらいの狭い渓谷だ。そこへ小川も流れ込んでいる...はずだが。


「おっ!無事に来たな?追手は何体だ?」


ギルマス達3人が、戦闘の準備を整えていた。彼が前衛で、残りは後衛だ。


そして小川の上部を覆うように、岩の新しい足場が広範囲に造形されていた。


「2体!後は多分遅れてコボルド!」


「おお、上出来だ!!よし、奴さん達が来たぞ!」


ガシャガシャと音がして、オーク2体が渓谷へ侵入した...が、何か様子がおかしい。


足を引きずっている様だ。よく見ると、レッグガードの辺りに何かが巻き付いている。あれは有刺鉄線かな?


あの様子だと、複数のトラップへ引っ掛かったのだろう。一体は歩行が苦しそうで、もう一体はほぼ片足が動かなそうだ。


足を封じてくれるとか、ビンセントやるなあ!


1体が突進し、もう一体は罠の影響か遅れている。先頭のオークへ、グレッグの火炎放射が当たった。


敵は一瞬怯んだが、両腕で顔を隠しつつ突進を続けた。


そこにイザベラが魔術を使ったようだ。オークの脚が石化?した様に動かなくなった。


そこへギルマスが斬撃を喰らわせたが、やはり防具の為に決定打は出ない。が、1体は確実に足止めが出来た。


と、その背後から追従していたもう1体が前に出ようとしていた。ここだ。


「マヒト!」


ギルマスが叫ぶと同時に、俺は足止めされたオークの横をすり抜け、動いている奴の前に出た!


オークの強烈な槍の突きを見切り、篭手を使って左側へ受け流した。金属のプレートが火花を散らす!そして相手は前のめりに体制が崩れた!


相手がバランスを崩したこの瞬間を、俺は見逃さなかった!


ドシッ!!!


重い掌打が、左胸に押し当てられた!同時に掌を右回しにグリッと捻り込んだ!!


「オゲェ!!グバアァァァアアアアッ!!!」


顔面の穴という穴から血しぶきが一気に吹き出した!!!


相手の心臓に、掌打で送り込まれた気を、捻打ねんだで内圧が高まる様にねじ込んだのだ。その場でオークは絶命した。


そのまま反転して、ギルマスを鍔迫り合いで押し潰そうとしていた、もう一体のオークの頭を掴んで強引に仰け反らせた!


そして背中の中央の肝癒ツボに気をねじ込んだ!!


ドシッ!!!


ガクッと膝が折れて、オークは無言で崩れ落ちた。痙攣しながら行動不能になったオークに、ギルマスがトドメを刺した。


「...ふう、よし一段落だ。」


玉のような汗を顔から滴らせながら、ギルマスは膝に両手をあてがい屈んだ。


俺も同様に汗だくだったが、アムが気を利かせてくれて清潔化の魔法をかけてくれたので、急にサッパリした。


「ふう、な、何とかなったわね。」


イザベラが座り込んでいる。グレッグはまだ余力があるらしいが、緊張で疲労度が高いようだ。肩で息をしながら、


「ええ、私はまだ何とか余力があります。」


と言った。ギルマスが嬉しそうに俺に向かって、


「マヒト、良くやってくれた!お前が居なかったら、多分ルク村が危なかっただろう。」


彼は息を整えると、俺と両手で固く握手をした。


「いえいえ、でもまだ終わってない!コボルドが来る頃だろ?」


そう言い終わる前に、ビンセントが渓谷の上から叫んでいる。


「おいお前ら!次のお客が来たぞ!!」


あたふたと構える俺達の前方に、コボルドの集団が走って来るのが見えた。が、大した防具は装備してない。このパーティーなら余裕の殲滅だった。


ビンセントのトラップで、半数以上のコボルドが行動不能になった。残りの掃討は、後衛の活躍が光った。


イザベラが土属性魔法のロックボルトによる面制圧を行い、広範囲の敵が倒れた。石つぶてを高速で飛ばして物理ダメージを与える魔法だ。


残敵はグレッグが火炎放射でファイヤーして、ビンセントが弓で仕留めた。こうして討伐は無事に完了した。


そして、その後が大変だった。生き残りを救助したものの、女性しか残っていない。そしてオークに暴行された影響から、感染症を発症していた。


応急手当の甲斐もなく、結局被害者の内、更に2/3が死亡したり、廃人になってしまった。


ギルマスは、冒険者ギルド首都本部へ魔法通信し、援護を要請した。


この村は当面廃村になり、数日後に数台の幌付き馬車?で生き残った人達を連れて、ルク村へ帰還した。


俺は物理クラフトでキュアポーションのレシピを検索し、ギルマスに制作出来ると申し出た。


幸い材料は森で入手できるものばかりだったので、在庫のある物以外はルク村支部の冒険者全員で採集した。


俺の作ったポーションで被害者が全員回復したのは、討伐から1週間後だった。


驚いた事に、アムがポーション作製時に秘伝の呪術を使い、精神的なダメージを回復させる効能を追加してくれた。


お陰で、トラウマが完全とは行かないまでも、普通に生活出来るくらいまでには体調が戻った被害者達は、他の地へ散って行った。


その後、ルク村は束の間の平穏を取り戻した。こんな世界なので、またいつか問題は起こるのだろうが。月光丘の迷宮の件もある。


季節が厳冬期に入ると大雪が降り、あまり外出できないのでイザベラから簡単な魔法の使い方を教えてもらったりして、結構気安い関係になった。


逆にドロシーは、何ていうか素っ気なくなってしまった。まあ面倒事が減ったのは良い事だ。


ああ、アムが案外ヤキモチな感じで、事ある毎にイザベラと張り合うようになった。とは言え見えない存在だから、相手にならないのだが。


俺に対して両者とも仲間以上の感情を持ってくれている様ではある。


そう言えば、世話になっている宿娘のマイライとは、よく喋る関係になった。


女将の話だと、やはりコミュニケーションに難があるようだが、何故か俺とは普通に喋れるようだ。


時間はあっという間に過ぎ、冬から初春になった。俺はこの世界の常識や魔法等をイザベラやアムから学び、雪かき等のギルドの依頼で稼いだ。


旅費の為の貯蓄も金貨50枚くらいになった。いよいよ旅立ちのタイミングが来たのだ。

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