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ルク村にて

「おいお前、新顔だな!?この村は初めてか?」


「そうだけど、それが何か?」


「何か?じゃ無いだろう!身分証明を見せて貰おうか?」


「ああ、持っていないな。」


「何だと?しょうがないな。じゃあ仮で入村許可証を出しておくからな。発行料は銀貨一枚だ。」


門番の男の片割れが、手を差し出した。心無しか、口元がニヤついている気がする。


「マヒト、こいつ嘘ついているわよ。確か銅貨一枚のはずよ。」


アムが結構大きな声でそう言った。が、門番は無反応だ。やはり姿は見えてないんだな。


「おお、なんか俺もそんな気がしたよ。ありがとうな、アム。」


思わず喋ってしまい、門番は首を傾げた。


「何言っているんだあ、お前?誰と喋ってるんだ?」


「いや、魔法の通信だから気にしないで。」


俺は適当にごまかした。だが、それを聞いた門番の反応がさっきとは違い、丁寧になった。


「あ、魔術師の方でしたか!これは失礼しました。冒険者ギルドは中央広場の噴水前になります。ルク村で良い一日を!」


門番はそう言うと、ペコペコしながら通してくれた。おおー、確か召喚主が知識は価値とか言ってたな。多分こう言う事かあ。


「うふふ、上手く誤魔化せたわね!アンタ度胸があるわね。」


アムは笑いながら、親指を立てた。


「なあアム、今のは咄嗟に君との会話を漏らしてしまった。こう言うのって怪しまれるから、何か良い方法は無いかな?」


「...じゃあ、心の中で喋ってみて。私とは通じるわよ。」


「おう、それじゃ早速。こうかな?」


「ええ、聞こえるわ。ねえ、マヒトって魔術師とか素養があるんじゃない?」


アムは俺に無言で喋りかけた。おお、ちゃんと意思疎通ができるじゃないか。原理は不明だけど。てかコイツはさっきのままで良かった気が?


「旅の目的地が、魔法を教えてくれる人の所なんだよな。話が長くなるから詳細は割愛するけど。」


「うーん、そうなのね...ところでアンタ、冒険者なの?」


「いいや、そうでもないけど。」


「それじゃあ、登録料は安いから冒険者ギルドへ行きましょ。身分証明書とかは冒険者ライセンスで通るのが確実よ。」


「へえ、そんなに冒険者ギルドって信用されているのかあ。それって会員のノルマとかある訳?」


「依頼を受けてないなら、無いわね。それと会員の有効期限があるけど。」


「どれ位?」


「一年ね。継続は更新手続きすれば良いのよ。但し、ランクが金以上は無期限会員だけど。銀で三年ね。」


「ふうん、そうなんだな。じゃあ行ってみようかな。」


俺達は村の農道を歩き、中央広場まで来た。


そう言えば今更だが、普通に人間と会話できているのは何故だろう?と思ったら、視界の表示に人間語と表示されていた。


あれ?という事は、言語は統一なのか?まあそれなら面倒事は減ると思うけど...。人種とかは無いのかな?


「ええと、広場の噴水の前...ああ、あれか。」


楔形文字で「冒険者ギルド・ルク村支部」と書かれた看板が、入り口の側面に貼り付けてあった。


中を覗くと、受付嬢がカウンターで座り作業をしている。


カウンターを挟んで左側がショップになっている。右側はテーブルと椅子が並んでいて、冒険者らしき人が数名ほど、まばらに座っている。


食事を食べていたり、書類を見ていたり、お喋りしているのも居る。


「スミマセン、あのー」


「ヒエッ!」


俺が声をかけると、驚いた受付嬢が飛び上がった。電気に打たれた様にビーン!っていう感じで。


「はっはい、冒険者ギルド、ルク村支部へようこそ!ご用件は何ですか?」


何やら手作業をしていたらしく、エプロンのゴミをはたき落としつつ、元気よく挨拶をするおさげ髪でメガネの受付嬢が、可愛くて好感が持てる。


俺は内心笑いながら平静を装った。


「ああ、冒険者登録をしたくて。」


「あ、新人さんですね!でしたら、まずはこの書類に記入とサインをお願いしますぅ。」


奥の棚から一枚の紙を持って来て、カウンターの上に置いた。どれどれ...。


氏名、年齢、登録する職業?、種族...ああそう言えば、職業とか聞かれると、何て書けば良いのだろう?


「あのー、職業とかって、熟練度とか経験は関係あるの?」


「ええ、勿論。武器とかの習熟度とかが高ければ戦士と書いて下さい。自信がある技能があるなら、教えて貰えれば職業分類がはかどりますよ?」


「そうなんだな。ええと、素手の格闘かな。後は生産系統なら物理系全般かな。」


「...珍しいですね、格闘ですか。魔法適正とかはどうですか?」


「魔法の事は、よく判らない。」


「ああ、それでしたら此方で判定出来ます。それでは、それも込みで教官に実力判定してもらうのはどうでしょう?」


面白そうだ。本当にRPGの世界そのまんまだな。俺は教官という奴がどれ位強いか気になった。


「ああ、じゃあお願いするよ。」


「了解ですぅ!では、こちらへどうぞ。」


周囲の冒険者達が、こちらに注目している。受付壌は、ショップの脇の扉に誘導した。


中へ入ると、会議机の様なテーブルの上に女神像が置かれ、その前に黒曜石の様な素材のプレートが置かれていた。


「その石版の上に手を置いてください。」


俺は言われた通りにした。その瞬間、周囲の景色が一気に変わった。


背景に雪山が連なった、どこかの城のテラスみたいな場所だ。だが、さっきの部屋より断然明るく、空には太陽が輝いていた。


「こんにちは、初めまして。」


俺は後ろを振り向いた。そこにはギリシャ神話のようなゆったりした白衣に腰帯を巻いた、青い瞳の白人女性が立っていた。


片手に竪琴の様な楽器を持っている。金髪で長身、豊かなボディーラインが強調的な淑女だ。


「君をこちらへ呼んだのは私よ。そしてこの「ファイナルエデン」に召喚してしまい、大変申し訳無いことをしました。でも、こうしなければ世界中の人々が滅んでしまうところだった。ごめんなさい、どうか許して頂戴ね。」


女性は深々と頭を下げた。それを聞いた俺は、半信半疑ながらも質問をした。


「あのー、元の世界に戻れたりは?」


「それは無理、と言わざるを得ないわね。君を元に戻せば、魔王もまた此方へ戻ってしまう。」


「そうなんだな...納得は出来ないし、もう仕方がないのなら諦めるしかないだろ?普通に許せる訳ないんだが。」


女性はフムと頷いた。


「だから、お詫びとして知恵を授けようと。君の居た世界と違い、この世界では金や権力より知識が最高の価値を持っているの。後から教える内容さえ習得できれば、衣食住や生存には全く困らなくなると保証するわ。君達で言うところの、無双状態になる訳ね。」


「ええ...あの、じゃあ女性と結婚できたり、家庭を持ったりも?」


実は女性経験が今迄あまり無いのだ。武術に関しては相応に自信があるのだが、何故かそっちの方は上手く行かない人生だった。


「ええ、勿論よ。ほら、これを見てご覧?」


女性が持っていた竪琴を俺に突き出した。するといきなり鏡に変化した。そこに写し出されていた自分を見て、仰天してしまった。


そこには十代後半位の年頃の、引き締まった浅黒い色の精悍な顔が写っていた。薄灰色のハードレザーアーマーを身に着けている。


まあ、何となく最初から判っていたんだけど...。


「...顔が別人だ。」


「ええ。その面相なら、好かれはしても嫌われる事は無いわ。それに、外観は二の次なの。この世界では、人類の数が圧倒的に少ない。だから強さや賢さが価値基準になるのよ。」


なる程。そう言う事なら、前とは違った幸せが得られるかもしれないな。


それに、さっきからこの女性の態度や物腰の柔らかい感じに好感が持てる。何故か彼女の言う事を信じてしまうのだ。


「そういう事なら仕方ない...じゃあ伝授を、お願いできるかな?」


「いいえ、ここでは無理だわ。前にも言った通り、私が居る地まで来て貰わないと。大変でしょうけど、後悔はさせないわ。」


「ええと...今更だけど、この現象は一体どうなっているの?そして俺に何か御用で?」


「これは、君の霊を一時的に私の手元に呼び寄せたのです。つまり、この景色の場所が目的地になります。そして、それを君に見せて伝える為と、もう一つ。」


女性は微笑むと、自分の耳の後ろを指差した。


「その者は旅の重要な仲間になります。私は君に彼女と出逢って欲しかったのです。でも、最初からコンビを組んでいるとは想像できなかったのですけど。」


いつの間にかアムが傍らに居た。周囲を見回して、女性を見た瞬間にギョッとして俺の肩の上で跪いた。


「だ、大地母神アクリル様!!」


「ふふ、呪術師の娘よ、久しいわね。私の愛は、常にあなたの上に注がれているわ。予言通り、理想の彼だったでしょう?」


アムは顔を真っ赤にして、頷いた。あれ?その彼って俺なのか!?


「二人共、これから巡り合う冒険の絆で結ばれた仲間と共に、この地を目指しなさい。遥か南西、白龍山脈の頂、シルバーガーデンへ。」


ザーッ!と砂の粒子の様に景色が瓦解して虚空へ散って行った。と、後ろから声がかかった。


「はい、OKですよ。ええと...わあ、拳精?初めて見る称号ですね。そしてアクリル様の加護があります。それと、無属性の魔法適性が...∞?」


俺とアムは、ハッとして後ろを向いた。受付嬢が黒曜石のボードをのぞき込んでいた。


心臓がバクバクいっているのを落ち着けようと、深呼吸してクリアした。


「拳精は、何となく心当たりがあるな。神様の加護や、無属性?は、役に立つんだろうか?」


「え?ええ、そうですね。アクリル様の加護は、身体の回復力や毒、疾病、精神耐性を底上げしますぅ。通常の人より怪我や疲れの回復が早くて、病気や精神支配に抵抗できると言う事。∞と言うマークは見たことないけど、無属性魔法は...」


受付嬢は、脇の黒板にチョークで何かを書き始めた。色々な魔法の説明だった。何気に学校アイテムもこの世界にあった件。


平たく言うと、俺は無属性魔法を大した消費も無く使いこなせると言う事らしい。∞マークは、やはり無限という意味だとアムが教えてくれた。


因みに、他の属性持ちだと自分の適正属性以外の魔法に消費されるマナが倍になるそうだ。


但し、無属性使いは全属性と同じ様なものらしく、どの属性魔法でもマナ消費は通常通り使えるらしい。何かコレ、神様効果っぽい。


「理解した。それで、これからどうするのかな?」


「ちょっとここで待っていて下さい。」


彼女はせわしなく部屋を出て行った。


「ねえ、アンタってアクリル様と知り合い?だったの?」


アムが怪訝そうな表情で尋ねた。


「うーん、まあそんな感じかな。ほら、さっき言ってた召喚の話、あったじゃない?あれが彼女の仕業なんだって。」


アムの顔が、またボッと赤くなった。そう言えばこいつ、さっき理想のとか言われてたよな?


「なあ、さっきアクリル様?が言ってた理想のって、もしかして...」


「アー!アー!聞こえな〜い!!」


相変わらず顔を真っ赤にしながら、アムは耳を塞いで叫んだ。ああもう何か...。と言うか、そんな姿で俺にどうしろと?


そもそも、お前これ無言通信だろうが。耳塞ぐ意味あるの?色々ツッコミ処満載だが、俺が何か言う前に受付嬢が戻って来た。


「はい、準備が整いました!どうぞコチラへ。」


後をついて行くと、裏口みたいな扉から外へ出た。そこから道が続いていて、周囲は裏山?みたいな感じだ。


そして、ちょっと歩いた所に広場があり、木刀を肩に担いだ男が立っていた。


年齢は若く、濃い灰色のつり目とブロンドの短髪、身長180cmくらいの長身で無駄の無い肉付き、肌けたシャツの隙間から見える完璧なシックスパック(割れた腹筋)と大胸筋、実戦で鍛え抜いた肥大してない上腕二頭筋が、只者ではない雰囲気を醸している。


「おう、お前がニューカマーか。俺はギルドマスターのジェイドだ。宜しくな。」


握手を求められたので、素直に応じた。が、ジェイドはその手を握った瞬間、バッと離した。


「フフ、流石だ。俺のサブミッションを、よりによって返してくるとは。これは期待できそうだ!」


彼は握手の瞬間に手首を極めようとして来たので、俺は力点をずらして逆に返した訳だ。


ジェイドはニヤリと笑うと、通常より30cmくらい長い木刀を腰に戻した。


「あんたの実力を見たかったのだが、それはもう不要だ。こんな逸材、久々だぜ。なああんた、まさかこれでお終いじゃ無いよな?」


そう言い終わった途端、ジェイドの方から凄まじい剣気が圧し寄せて来た。流石ギルドマスターだな、半端な実力ではない。


俺は無言で頷いた。それを見たジェイドは更に楽しそうに笑うと、急展開にドン引きしている受付嬢に言った。


「おいお前、審判出来るよな?合図をしてくれ!」


俺は魔法篭手を装着した。流石にあの実力者の一撃をマトモに食らったら、只では済まない。


「アム、離れていろ。」


「分かった、負けるんじゃないわよ!」


アムは受付嬢の傍らへ移動した。


「で、では戦闘不能か降参した方が負けです。一本勝負。お互い、礼。始め!!」


急に辺りがシン!と静寂になる。ジェイドは木刀を腰に下げた状態で、柄に手をかける寸前で動かない。明らかに抜刀術の構えだ。


俺は相手の剣気を流し、脱力しながらスッと前へ移動した!


間髪入れず、躊躇なく間合いに飛び込んで来たので、ジェイドは抜刀のタイミングが一瞬ズレたと感じた筈だ。


次の瞬間、抜刀する手元が消えた様に見えた!が同時に、俺の右足先が剣の柄を蹴り圧えた!!


ジェイドは焦りながら、間合いを取ろうと下がろうとしたが、俺は柄を足で下に圧える様に力を加えた。


すると相手は柄を自由にしようと、更に下がりつつ抜刀しようとした。ここだ!!


「ツッ!!」


俺は蹴り圧えた剣の柄を引っ込ませないように、相手の手首を右手で掴んだ!そして体を強引に引き寄せると、反対の手で頭頂を下に圧し、同時に跳躍しながら左膝で相手の頭部の芯を蹴り抜いた!!


ボッ!!


鈍い音と共に、ジェイドの顔面が一瞬上に跳ね上がり、膝から崩れ落ちた!!


そう、俺の格闘術「崩術」は、体軸の芯や内蔵、経絡に対して衝撃と気を送り込み、「通す」事で無力化する。一撃で相手を倒す事が出来るのだ。


体内の気(営気)が、膝から伝達し通ったのだろう。督脈と任脈を良い循環で気が巡っている。これで立てたら、相手は生物じゃない。


「し、勝負あり!相手が失神していますので、マヒトさんの勝利です!」


受付嬢がそう宣言した瞬間、ドッと歓声が湧いた!いつの間にかギャラリーが多数集まり、賞賛の嵐になっている。


「スゲエ!あんたジェイドを素手で倒したんか?イカれているぜ!」


満面の笑みで、職員?っぽいレザーアーマーを着た男が近付いて来た。短剣を腰に下げている。スカウト系かな?


「そうなんですよぅ!私、ギルマスが倒されるの、初めて見ました!!」


受付嬢が、スカウト?に答えた。他のギャラリーも、次々と広場へ入って来た。アムは呆然としながら、頬を上気させて此方を見つめている。


「ギルマス、大丈夫か!?」


俺はバイタルを確かめた。脳に強いダメージは入ってない筈なんだが。視界の表示には失神とだけ表示された。


「だ、大丈夫なのでしょうか...?」


白いローブのフードをかぶった小柄な女性が、心配そうにギルマスの顔を覗き込んでいる。


「ああ、失神しているだけ。加減はしたから。」


俺は彼を背負うと、受付嬢に案内されてギルドの救護室へ連れて行き、ベッドに寝かせた。


「脳震盪なので、命に別状はないけど安静にしてね。脳への衝撃が若干あったので、無理矢理に動かすと毒かも。」


俺はジェイドの上唇と人差し指の爪を圧した。ツボで気が戻るようにしたのだ。


応急処置は、自分の道場では誰でも出来た。何しろこう言う武術だから、失神者が後を絶たなかったのだ。扱いは慣れている。


「...マヒトさん、ギルマスがこの状態なので、今日は冒険者証を発行出来ません。明日もう一度、ここへ来て頂けますか?多分発行されると思うのですが。」


いつの間にか名前を覚えられてしまった。俺は了解すると、もう暗くなったので宿を探すことにした。


中央広場付近には、冒険者御用達の宿があると、受付嬢が言っていた。近いそうだし、自前で探すかな...。


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