アナタを愛する事はありませんから! ── のはずが? 〜冷笑を捨て去った雪山辺境伯に愛をそそのかされて〜
「アナタを愛する事はありませんから!」
顔が良くてお金持ちだからって自意識過剰過ぎでしょう!?
と、内心思いつつ。冷笑を浮かべていた雇い主に私は声を張り上げた。
魔物蔓延る雪山を含むベルガ辺境伯領。
ご息女の家庭教師としてコチラに来た筈が、雇い主に惚れたら即刻クビだと言われ。
仕事で来たのに開口一番言う事がソレなのかよと、私はドン引きした。
けれど、訳を聞かされてコチラが謝罪する羽目に。
この冷たい態度に関わらず、かなりモテるらしい。
「申し訳ありませんでした。でも第一印象最っ悪ですよ?」
「ひと言余計だ」
奥様と離婚してからワンチャン狙いされて、家庭教師も私で三人目だとか。
「僕は構わないが娘の前ではキチンとしてくれよ」
「はい。そこはちゃんとします」
次の日。ご息女であるアリス様の可愛さにメロメロにされつつ、お話されている内容を繋ぎ合わせて軽く絶望した。
子ども部屋には溢れかえるほどのオモチャや絵本。
でも、親子が一緒の時間は少ない。
会話がない?
嫌われてるかも知れない?
ちょっとお父さんと大事なお話してくるね。
「娘の前でキチンとするのはアンタでしょうが馬鹿野郎ぉー!!」
執務室に突撃した私のその後は、口下手なベルガ様と、わがままを言わなさ過ぎるアリス様の橋渡し。
上は三人、下は五人の兄弟姉妹に挟まれていた私は、主張の激しさや喧嘩の取りなしはお手のものだった。
まぁ。そうなって来ると必然的にベルガ様と過ごす時間も増え。
『ちょうどよかった。来月のキャンプの話を』
『アリスの誕生日プレゼントなのだが』
『君がいてくれて助かったよ』
寒々しい印象が、あたたかな雰囲気で笑うようになり。
あ、なんか胸がキュンとするかもとか、べべべべ別に思ってないんだから!
「いい酒が入ったから飲まないか?」
ベルガ様の部屋でワインを口にしながら。
あれ? 夜に男女二人っきりは不味いなぁと思っていたら、いきなり話を切り出された。
「なぁ、君は本当に僕を愛してくれる気はないのか?」
「ゴフッ!? げほっげほ……」
酒に咽せ、クビになりたくないと伝えたら──
「家庭教師じゃなくて僕の妻にしたいんだ。全く脈なしか?」
「とっくに好きだよ馬鹿!」
最初の自信満々な態度はドコ行った? とツッコミたくなるほどしょんぼり悲しそうにしていたので、反射的に答えてしまった。
悔しいので、私の返事にとろけるような笑顔を浮かべたベルガ様に。さらに惚れました! なんて口が裂けても言えない!