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第6話 昼間のハーレム

 午前中の授業が終わり、まだ午後の授業を残す。そんな昼休み。僕は疲れ果て教室ということも忘れ、机に突っ伏して仮眠を取っていた。


 大切な昼休みだが昼食は取らない。いや、取れない。僕が弁当でも取り出して食べ始めようものなら、大神くんたちがやってくる。


 奪ってどこかへいってくれればまだいい方だ。


 わざと僕にかけるようにひっくり返されれば、汚れを落とすのに時間がかかり、それだけで昼休みはなくなってしまう。


 だから、僕に取っての昼休みはなにもしないのが一番なのだ。一番、安全なのだ。


「あれ?」


 そもそも僕はどうして昼休みを過ごしているんだ?


 まあいいか。


 実際は、なにもしなくても大神くんたちが絡んでくることも多いが、次のいじめの準備でもしているのか知らないがやってこない。ここで体力の回復をしておこう。


 さっきまでなにかしていたような気がするし、教室の外だったような気もするが、そんなことはどうでもいい。


 寝よ。


「……キララ見た?」


 そう思っていると、前からなにかが聞こえてくる。


 聞き取れたのは、自分と関係があることだからだろうか?


「もう一回言ってぇ」


「だから、昨日のキララちゃんの配信見た? って聞いてるの。昨日はちゃんと見たからさ」


「またその話ぃ? でも、かわいいのはわかるぅ」


「わたしも見たよー。昨日もかわいかったよねー!」


「日向は熱心だよね」


「怜ちゃんほどじゃないけど、わたしは前から知ってたからね」


「えーとぉ、確か雲母坂キララちゃんだっけぇ? 教えてくれたのはれいれいだったよねぇ」


 僕は思わず跳ね起きてしまった。座っていた椅子を後方に吹き飛ばし、盛大に大きな音を立てながら。


 そのせいでクラス中からいぶかしむような視線が僕に集まってきた。


 特に、今、僕の目の前で話をしていた美少女グループからはなんとも言えない目で見られている。


 ヤバい。キララの名前を聞いてなんの考えもなしに動いてしまった。どうしよう。


 僕が動揺していると、真っ先に動いたのは僕に対して目を輝かせている日向だった。他人のフリをすることなど忘れている様子だ。


「もしかして、影斗もキララちゃんのファンなの? それで飛び起きたって感じだったけど!」


 日向の周りにいた三人がギョッとする。そして、盗み聞きしていたのかと、にらむような視線が飛んでくる。


 だが、期待するようにいつも以上に満面の笑みを向けてくる日向のせいで他のものがかすんでしまう。


 今の日向はいつもの倍以上かわいく見える。他のクラスメイトたちがかすむほどだ。


 僕がぼーっとしたまま日向の顔を見ていると、日向は僕の方に歩いてきた。そして、なんの前触れもなく僕の右手を握ってきた。


「そうなんだよね!」


 やけに積極的だ。ぐいぐい来る。近い。なんだかいい匂いがする。


 それに、日向の柔らかい手が僕の手を包んでいた。あったかい。


 じゃない! なにしてるの!?


 あわてて、どうにかしないとと考えるが。


「そ、そそそ、そうだよ? キララちゃんのファンだよ?」


 という言葉が口から出ていた。こんな嘘をつくことで精一杯で他のことはなにもできなかった。


 本人なのにファンって変だろう。


 だが、体が石にでもなってしまったようで、思うように動かない。


「やっぱり!」


 目の前では俺の手を握ったままキャッキャと喜び跳ねている日向が立っている。


 こんなに嬉しそうな日向は久しぶりに見る。


 奥では日向に毒気を抜かれたように、やれやれといった感じの微笑を浮かべる三人がいた。


 これ、ヤバいのでは? 口をすべらしたのでは?


 一番奥に座る庄司さんが急に険しく表情を変えた。眉を寄せて僕を見ている。


「木高くんも、キララちゃんのこと好きだったの?」


 僕は顔をひきつらせながらコクコクとうなずいた。


 そんな僕の様子を見てか、周りからの目線が少し優しくなった気がした。


 どうして今?


 分析するより早く、一部から今にも殺しそうな雰囲気を感じる。大神くんたちだ。


 やっぱりミスった。


「キララちゃんを好きな人に悪い人はいない。そうだよね」


 日向が後ろを振り向いた。


 いや、そんなことはあってほしいけども。


「そうね」


 そうね!?


「……これで、学校でもいつもどおりいられるね」


 耳元で日向がささやき、ウインクまでしてくる。


 え、そうなの? いや待て。ダメだろ。なんでそうなるんだよ。


 庄司さんって僕が思ってるクールで才色兼備のなんでもできるスーパー学級委員さんじゃないの? なに、キララが好きな人に悪い人いないって。実はバカなのか?


「……あの反応、動揺しすぎじゃ……」


「どうしたの怜」


「考えごとぉ?」


「う、ううん。なんでもないわ」


 日向の後ろでは三人が何かの話を始めていた。


 気になるが、やたら嬉しそうにしている日向を前に目を離すこともできない。


 気づけば空いていた左手も持ち上げられ、見つめ合う形になっていた。


「……で……なんだよ。それで……」


 日向はまだなにか言っている。口が動いて、身振り手振りを交えているからなにかを必死に伝えようとしてくれているのわかる。


 が、片手は絶対に離そうとしない。


 その日向の手の小ささと柔らかさで話は全く入ってこない。


 それになんだか体まであったかい? 頭まであったかいような?




「ハア!」


 一気に息を吸い込むようにして、僕は目が覚めた。


 ふっと我に返った。さっきから意識がおぼつかない。さすがに朝からやられすぎたのかもしれない。


 今がいつかもわからない。


 かすむ視界には、何者かが近づいてくる影が見えた。


 その影は僕が反応するより早く顔を目の前に近づけてきた。


「……ッ!」


 なにか大声で言っているらしい。だが、うまく聞き取れない。


 これはまずいなと思いながら、僕は必死に目をこらした。


 目の前にいる人物が敵でないと確認するために。

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