プロローグ 出会い
「っぶねー。あのままだとダメ人間にされるところだった」
いや、もうすでにダメ人間にされてる気がする。
「とにかく、ここまでくればいったん大丈夫だろう」
僕は今、服を買いに来たショッピングモールにあるゲームセンターにいる。
それというのも、僕は付き合いたての彼女、入間日向から逃げている。
ちょっと日向に甘やかされすぎて人としてダメになりそうな気がして逃げてきた。
そう、甘やかされすぎているのだ。
「いやー危ないところだった。赤ちゃんみたいになるところだった」
最近の日向は何か変だ。
つきあってるんだからという事実を盾になんだか大胆なのだ。出会ってハグ、別れ際にハグ。油断していると膝枕をされている。
そしてことあるごとに、
「影斗すごい。やっぱり憧れちゃうな。さっすがわたしの彼氏」
なんて言ってくれる。
そのうえ昼は作ってきてくれてうまいし、配信で疲れてるだろうからって終わったら食べてってクッキー焼いてくれたし、これがまたうまい。
「うまい!」
そうめちゃくちゃうまい。
……あれ。
「はっ! 食ってる。今日の分うますぎて食ってしまっている!」
しまわなくては。
……やばい。奇行を人が見ている。場に溶け込まないと。
「少し懐かしいな」
中を見て回ると少し気持ちが落ち着いてきた。
しかし、このままではまずい。今は好いてくれているからいいが、見限られて捨てられたら……ドラマとかでよくあるやつだ。
さーっと血の気が引いていくのを感じる。
くそう! しかし、彼女がこんなに魅力的なものだったとは! そりゃ、リア充爆発しろって言うわ!
ああ。僕もどんな醜態を晒していたことか。
「うわああああああ!」
って叫びたい。とても叫びたい。
いかんいかん。ゲームしてる人でも見て気を紛らわせよう。
そもそも日向に悪意はないのだ。むしろ、善意で僕に対して優しくしてくれているのだ。
まあ、だからこそ厄介なのだが、止めてもらうのも気が引けるし。そもそも嫌ではない。
ああ、どうしよう。このまま甘やかされるのでいいのか?
「いやー、そんなことないよー。デヘヘー」
とか、言ってた気がする。
「……うわぁ!」
そんな自分を今は忘れよう。
抑えるのではなく、他のものを見よう。
「あれ」
さっそく気になるものが目に入ってきた。
同い年くらいの女の子が一人でゲームをしている姿。
短めの髪の一見すると男の子にも見えそうな女の子。
別にそれ自体は普通。でも、そうじゃない。いること自体はおかしくないのだ。
「うまっ!」
音ゲー素人でもわかる。彼女、めちゃくちゃうまい。なぜって? なんかタイミングぴったりっぽいからだ。
今まで楽しむ程度にしかやったことないから細かいことは全くわからないが、それでもすごいことはわかる。
「すげー」
一段落ついたところで、また大きな声を出してしまったようで、よほど大きな声だったのか僕のことをじっと見ている。
うん。気のせいじゃない。僕を見ている。横に動くと目で追ってくる。
なぜだ。まさか、奇行見られてた? いや、ずっとゲームしてたはず。
服装は制服だし、高校生だし、夜じゃないし。
多分コメントが失礼だったんだな。とりあえず謝っておこう。
「あ、その。ごめんなさい。調子に乗ったこと言ってすみませんでした」
「ううん。ほめてくれてありがとう」
「いえ」
なんだろう。謝ったのにやたら見られている気がする。
もしかしてまたキララってことがバレた? いやいや、顔出ししてないし、声じゃわからないだろう。
じゃあ、日向の差金か? それもないだろうな。こんなところにはいないだろう。
こうなったら別にここにいる必要ないし他で時間潰すか。
「それじゃあ。お邪魔しました」
「ちょっと待って。せっかくだしもう少し見てってよ。それとも時間ない?」
「えーと……」
正直、もう少し時間を潰したい。
そうでないと日向に床暖の上の猫みたいにされてしまう。
怜には悪いが、今日くらいは許してもらおう。
「見るだけなら」
「決まりだね!」
ぽんぽんと誰も使っていないイスを促され、僕はおとなしく座った。
彼女は妙に多いボタンを手元も見ずに軽やかに押しつつも、画面から一切目を離さない。
微笑を浮かべながら、華麗にコンボをつなげていく。
「すっげ」
他に言葉が見当たらない。
技術に差がありすぎて、細かいテクニックはわからないけど、なめらかにコンボがつながっている。
曲が終わると、僕は思わず拍手していた。
「イェイ!」
突然、女の子は僕を見て手を振り上げた。
「え、えーと。いぇい?」
「イェーイ!」
僕が手を挙げると、彼女はハイタッチの要領で僕の手を叩いた。
ノリノリだな。
隣に人がいて緊張するだろうに、先ほどからミスをする気配がない。
見られていることに慣れているように思える。
すごいな。
僕だったら同じ実力があっても直接人に見られているとなると、なかなか……。
「どう? 興味湧いてきた?」
「いやまあ、多少は」
「じゃあさ」
「あ! やーっと見つけたー。もう、影斗こんなところにいてー」
「いるじゃない。まったく、騒がせないでほしいわ」
「やべっ」
この聞き慣れた声は。
「わたしより心配してたのに?」
「そ、そんなことないわよ」
ここに来た時の僕のように、ゲーセンの音量を超える声量を出しながら入ってきた日向と怜。
なんだか周囲の視線が学校にいる時より痛い。
これは、ここに長居するのはまずい。
なにか言いかけてたみたいだけど、聞いてる場合じゃなさそうだ。
「見せてくれてありがとうございました。すごかったです。また会えたらその時は見せてもらえると嬉しいです。それじゃあ」
「あ、うん」
「もー。どこ行ってるのー?」
「ごめんて。ちょっとゲーセン行きたくて」
「わたし抜きでー?」
「私もいるのだけど? それより二人とも本題を忘れすぎよ」
「……うちにもあんな人いるんだ」
何か言われた気がして振り返ったが、ゲームの上手い女の子は僕に手を振っているだけだった。
気のせいかな。
僕は手を振り返して、残り時間で会議を行うためにゲーセンを後にした。
新作書きました。
「破滅不可避の悪役獣使いに転生したが肉塊になりたくないので聖獣娘、魔獣娘に媚びを売る〜怪我してるところを手当てして嫌われないようにしていただけなのになぜか逆に聖獣、魔獣の長たちになつかれている件〜」
https://ncode.syosetu.com/n3752ij/
よければよろしくお願いします。




